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嫌じゃない 1

「リツがアイス食べようって言い始めた時オレ、もう嬉しくてその場でちょっと…チュウしそうだった」

「…」

「でもアレだよね。リツは何?好きじゃない的な感じ出しながら、よくそんな気を引くような事ばっかり言って…男にいつもそんな感じなの?」

…え?

「ミノリ相手にもだけどさ。うまいよ気を引くのが」

なんかひどい言い草だと思ったけれど…いや、ハルちゃんの言うとおりだよね。確かに思わせぶりな感じだし、結局ハルちゃん受け入れてるし。


 「奥田の事だって」とハルちゃんが続ける。「嫌だったらすぐに断ったらいいのに。…あ、あ~そうか嫌じゃなかったのか。そんなに嫌じゃなかったし、泉田先生に嫌われんのが嫌ではっきり断らなかったんだよね?」

…確かにその通りだ。

「泉田先生の事にしても、そば屋で泉田先生に告ったのだって、あのシチュエーションであんな風に告られたら、オレだったらかなり揺らぐね。そういうのどういう風に考えてやってんの?すごいうまいと思うよリツ。たぶん、泉田先生おかしいんだよ。残念だったね」

 泉田先生はおかしくはないよ。…泉田先生、結構あの事細かくハルちゃんに報告してるって事だよね。嫌だな泉田先生。

 まだハルちゃんは言い募る。「結局みんなに好かれたいの?」

 はぁっ!?


 …みんなに好かれたいか?

 …みんなに好かれたいと強くは思わないけど、みんなに嫌われたくないよ。でも普通そう思うでしょ?八方美人になり過ぎたら絶対ダメだど思うけど…

 奥田先生の事は確かに私が良くなかった。せっかくこんな私を好きだと思ってくれてたのに実際にちゃんと断りもせず、しかもそれは泉田先生に嫌われたくなかったからなのに、結局泉田先生に告る事になったし。…こんな私を…

 奥田先生はこんな私のどこが良かったんだろうか?取りあえず手近な所で彼女を見つけようと思ったんだろうか。

 そしてハルちゃんは『幼馴染』以外の何をもって今の私を好きだと思ってくれるのか…



 私はおもむろに立ち上がり、花壇の端に置いた空のアイスのカップを手に取った。

「私、もう中に入る」

「ほらね、すぐにそういう事言う」

ハルちゃんがバッと勢い込んで立ち上がり、そのまま私は抱き締められた。


「ハルちゃ…」

「黙って。騒がないでよ?近所迷惑だからね」

「ハルちゃん、カップのチョコがシャツについちゃう」

さらにギュッと抱き締められる。「ホラ、そういうとこ。そんな感じでいつも余計に気を引こうとしてる。…今の、チョコがついちゃう、ってなんかヤらしいな」

そう言ってフフっとハルちゃんが笑うのを急に気持ち悪く感じる。

 そうそう、最初はちゃんと思ってた。もっと気持ち悪がるべきなんだって。でも結局流されてこんな感じだ。ハルちゃんの事をすぐ気に入った女先生や生徒をちょっと心の中でバカにしてたのに。泉田先生が好きで、ふられたけど告れたのをあんなに喜んでいたのに。泉田先生の前で泣いたばっかりなのに。


 繰り返して言う。「いいからもう中入ろ」

「オレを見て」

見れない見れない。

「…もう遅いから。明日仕事じゃんハルちゃん」

「ダメ…」と言いながらハルちゃんは私の顎を掴んで上を向かせた。あ、ダメだ。本当にチュウされる。



 ハルちゃんの唇が私の唇にそっと、やさしく触れてきて私は固まる。

 そしてまたゆっくりと離れて言った。「リツが誘ってきた」

 私はぶんぶんと首を振る。いや、でも誘ったって言われたらそれはそうなんだろう。

「リツから言い出したじゃん、泊まればって、アイス食べようって。外に出ようって。なのに結局もう帰れば?みたいに言い出して、チュウしたいって言ってんのに今度は中に入ろうとか言うし」

 言葉とは裏腹に嬉しそうな顔でまた私の唇に触れるので、もうぎゅっと私は目を閉じてしまった。


 どうしよう。

 どうしょうチュウされてる。私が悪い私が悪い。ハルちゃんの言うとおりだ。嫌ならちゃんと最初からもっと距離を置くべきだったのに…もっと気持ち悪がるべきだったのに。さっきもちょっと気持ち悪いと思ったけど、すぐこんな事になった。

 ハルちゃんの柔らかい唇が触れて、またすぐ少し離れてそしてまたやさしく触れる。

「騒がないでよ?」とまた言われる。

 どうしょう。

 …どうしよう嫌じゃない。

 嫌がらなくちゃ、と思っているだけで全然嫌じゃない…


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