揺れ過ぎる私 1
住宅街は夜11時を回ったらかなりの静けさだ。周りはお年寄りが多いので、電気をすっかり消してしまった家が多い。両隣の家もそうだ。お向かいも1階の奥の方からほんの少しの光がもれているだけ。たぶん寝ながらテレビでも見ているんだろう。
そうたいして広くないうちの家の庭の玄関脇の花壇の前へ行く。庭の芝生が少し冷たい感じで月の光にてらてらと光っている。
私はハルちゃんに、花壇の縁に腰かける前にナメクジやカエルがいないか確認してもらった。お尻で踏んだりしたくない。
「でもハルちゃん結構虫とかダメだったよね」
「あぁ…まぁね」
「ミィ君は小さいのによく虫も平気で触ってた記憶ある。だから今もカエルを…」
「あいつの話は今はいいから。はい食べるよ?」
横に並んで花壇の縁に腰かけ、スプーンをそれぞれ持って、ハルちゃんが左手に持ったカップからそれぞれすくって食べる。
パーカー着て出て良かった。まだ4月のこんな夜中に外でアイスを食べるなんてバカだ。口に入れたアイスがより一層冷たく感じる。
それにむかしはこんなこじゃれた、カップのアイスじゃなかった。値段も安い棒付きのソーダ味のや、カップやコーンのアイスだとしても、ホームパックの箱に5,6個入っている、一つ一つが小さなサイズのアイスだ。
「むかしはソーダバーとかだったね」ハルちゃんが言うので、私も今ちょうどそれを、と思ったのがさっきと同じように口に出すのは止めて、「なんかこんな夜中にバカップルみたい」とつい口走ってしまった。
「オレは今すげぇ幸せ」
「…本気で言ってんの?」
「いろんな妄想したけど、夜に今さらこの花壇に腰かけて一つのアイスを二人で食べるなんて考えつかなった。すげぇよリツ」
「それで?その高2の時みたいに青い空見えてんの?」冷めた口調で聞いてしまう。
「あ~~…ぶっちゃけ今そんな事どうでもいい」
「へ?」
「今すげぇ嬉しいからもういいや、いろんな事。ホラ、リツも食べてよ、溶けるって」
「溶けないよ、こんな小寒いのに。私今、そんなにアイス欲しくない」
「ぅわ、ひでぇ。オレの今の喜びブチ壊そうとしてるね。面白いけど」
それでも手のぬくもりで少し溶けかかったチョコアイスを口に入れると、アイスはすぐ溶けてつぶつぶのマシュマロだけが口に残る。
ハルちゃんもまた一口食べて「なんか口にマシュマロだけ残るね」と言う。
「…うん」
ハルちゃんが「ね?」という感じで私を嬉しそうに覗き込む。
「ねぇ、…あの…ほんとに嬉しいの?」
「嬉しいに決まってる。バカじゃないのリツ」
そっか…。…なんかちょっと、ていうかだいぶ私も嬉しい…というか楽しい感じがする。どうしよう。
「ベタなんだけど」とハルちゃんが言う。「オレに食べさせて、あ~~んて」
「…私が?」
「じゃあオレがリツに食べさせようか?」
「…わかった。後残り全部一すくいで口に入れてあげるから」
私はひと際大きな塊をすくい「はい、あ~ん」と差し出した。
「デカいよ。楽しめないじゃん。すぐ終わるよそんなんじゃ」
ほらほら、と言いながら私は、ハルちゃんの口に残りのアイスを全部運んだ。ドキドキしているのがばれないように。
「もう!ゆっくり味わいたい!」ハルちゃんが言うがそんなの知らない。
二人でずっとこんな風に座っていたら、私はハルちゃんの事をものすごく好きになってしまいそうな気がする。あんなに疑ってあんなに拒んでいたのに。
ふられたばっかりなのに。母さんの前では、泉田先生の事まだ好きだとか言っておいて。
なんてお手軽なんだ!
「むかしもよくこんな事してたね」私は自分を落ち着かせるために笑ってみせた。「私がハルちゃんに無理矢理なんかさせる感じのやつ」
ハルちゃんが優しく笑う。月明かりの下の優しい顔のハルちゃんをものすごく近く感じてすごくドキドキする。
食べ終えてカップを花壇の縁に置き、その中に2本のスプーンを入れ私たちは落ち着いて月を見る。遠くで電車の音が聞こえた。
が、ハルちゃんが喋らなくなったので私は少しそわそわしてくる。さっきまでテンション高かったけど急に静かになったから。
「ハルちゃん?」
呼んでも、うん、とも言ってくれない。
またしばらく私たちは黙って月を見る。
そわそわする!
さっきは嬉しい嬉しいって言ってたけど時間がたつごとに、そしてアイスを食べ終えたらだんだんと落ち着いてきて、ハルちゃんは今「何してるんだろうオレ!」って感じになって来てるんだと思うな。
それならそれでサクッとそう言えばいいのに。
「…ハルちゃん?」ともう一度呼んだら、「しぃぃ~~」とささやき声で静かにするように促されてしまった。
「…はい」と小さく返事をして、出来るだけハルちゃんの事は気にしないように、私もじいっと月を見る事にする。




