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彼の訪問 2

 7時くらいから、どこかへ出かけておけばよかった。

「でも」と父さんがまだ何か言おうとするので、「父さん!」と私が止めに掛かるが父さんは止めない。

「君みたいな子だったら可愛い女の子がすぐ寄ってくるだろう?それにこの15年間で付き合ってた子もいただろう?そんな、ずっとリツの事だけ好きだったわけじゃないんだろう?」

「もう!」と母さんが詰る。「そんな事聞かなくても…」

「…はい」彼が神妙に答えた。「何の言い訳にもならないんですけど、彼女がいた時もあります。りっちゃんにはもう会えないかと思ってましたし。僕のこの気持ちがこんなに続くとも、自分でも思ってなかったので」



 彼はやっぱり私の事を好きなのか…

 んん~~、と心の中で唸る。結構はっきり告白をされた後だが、はっきり告白され過ぎて結果的に信じられない。

 15年も会ってなかったのに?むかし隣に住んでたってだけで?今になっても好きだと思われるような、そんなに特出するような二人だけの思い出もないし、私にそれだけの魅力はないと思うけど。

 ハルちゃんの笑顔は私たちをだましているようには思えなかったけれど、それでもなお、感じの悪い冗談じゃないかと思う。だってしつこいけれど15年ぶりなのだ。本当にそうだったらそんな冗談全然面白くないし、酷い話だ。…冗談じゃなかったらやっぱり恋愛詐欺みたいなやつ?付き合っていくうちに高価な宝飾品とか買わされたりとか?私、あんまりお金持ってないけどな。

 まぁ私はだまされたりはしないけど。この先もっと良い事言われても。


 いやなによりも、私はもっと本気で気持ち悪がった方がいいんじゃないか?

 こいつの容姿が整っているから、母さんも全体を通して喜び過ぎだが、私も全体を通して胡散臭さだけを感じ取りながら何となく流されているような気がする。



 世の中は不条理だ。

 よくよく考えたら彼の登場の仕方も彼の口にする言葉も「信じられない」よりもまず「相当気持ち悪い」のに、見た目がいいだけで「カッコよくて強引な人」、みたいにきっと母さんは感じてるんだろう。愚かだな母さん…

 たぶんこういうヤツがストーカー行為とかしても「私の彼、ちょっと束縛が強くて、私の事だけをすごく好きでいてくれるのぉ」みたいな感じで片付けられるんだろうな…いや、ストーカー行為にそもそも当てはまらないのだ。相手の女の子が嫌がるどころか逆に喜んでしまうから。そういうのが好きな女の子いるもんねぇ…

 人間て不平等だな。なんだかんだ言いながら人は見た目で判断される。



「ごめん」と彼は今度は私にだけ向かって言った。「こういう事、来てすぐ、冗談に思われるような感じで言って」

私はそれについて答えられない。

「でも本当に嬉しかったんだよ。またこっちに帰って来れて、リっちゃんにまた会えて、りっちゃんのお父さんとお母さんにも会えて」



 少し間があって、「大丈夫!」と言ったのは母さんだった。

 彼のしんみりした感じにさっそくほだされたんだろうか。そして大多数の女子と同じように彼の見た目がいいから全てを受け入れる事にしたんだろうか。本当に愚かだな、母さん。

「ちょっといきなりだったから、お父さんビックリしただけだから」

母さんは言ったが、父さんは無言のままムッとしてちょっと首を振る。

「私もね」と母さんが続ける。余計な事は言わないで欲しいのに。

「ハル君が電話くれた時にね、付き合っちゃえば~~ってリツに軽く言っちゃってたんだけど、まさか本当にいきなり今日そんな話になるとは思ってなかったからびっくりはしたけど嬉しかったな~。あんなに小さくて恥ずかしがり屋さんだったハル君が、リツの事好きでいてくれたなんて。しかもずっと好きでいてくれたなんて」

 やっぱ無防備に信じたな、母さん。



 それから余計な提案をした。「あんたたちさ、車でちょっと送って上げるから2人で外でお茶でもしてきたらいいんじゃないの?やっぱり先にゆっくり二人で懐かしんだ方がいいもんね」

 父さんがあからさまに嫌な顔をして私に小さく首を振って見せた。それは、断われって事だな?わかってるよ、父さん。ここはひとつ距離を置かないとね。


 それでも彼が「どうする?」と言った感じで優しげに私を見つめる。

「え~と」と父さんが口を挟むことにしたらしい。「僕は思うんだけど…」

「いいから、いいから」と母さんが父さんの声を打ち消した。

何がいいんだよ?

「ホラ、久しぶりなんだから2人で話したい事もあるだろうけど、リツの部屋で2人きりになられるよりはいいでしょ?そういうこれからのお付き合いをどうするかとか、そんな大切な事はまず二人で話しておいで?」

いや、それはどうかなぁ母さん。

「あ~僕が車で来たら良かったですね」彼は諸々を全く気にせず残念そうに母さんに言ってみせる。そして私に聞いた。

「うちまで車一緒に取りに行ってどこか出掛ける?」

「ううん」私は大きく頭を振った。「今どこに住んでんの?」

「駅の近く」

駅までは歩いて15分くらいだ。

「じゃあ今からオレんちに来る?」

いや、今思い切り首を振ったばっかりだろう!どうしてこの流れで自分の家に誘える。気持ち悪…

「行かないよ」と私の代わりに父さんが答えたのがちょっと面白い。

ハハハ、と彼も笑って「ですよね?」と言った。

「ハルカくん、君、今仕事は?」父さんが少し冷たい声で聞いた。

「教師をしてました。退職して来週から塾の講師になる予定です」

「ほう?」と父さんが思い切り眉間にしわを寄せて言い、母さんは、あら?と言う顔をして、私はものすごく嫌な予感しかしない。




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