揺れる私 1
しばらく私の手首を摩っていたハルちゃんは、その両手で私の右手をくるむように掴んだ。
「ちょっ…」
「これくらいいいじゃん。これくらいならお母さんも許してくれる」
そう言ってニッコリ笑う。
両手で片手をずっと握られそのまま。
…そわそわする。飲み会の帰りと同じだ。間が持たない。
「…ハルちゃん」
「何?」
「今日本当に泊まるの?」
「泊まるよ。どうせミノリにやめるって連絡してないんでしょ?」
ハルちゃんが私の手の親指の付け根をぐりぐりと揉む。「ここ気持ちいいでしょ?」
「…うん。ねぇハルちゃん?」
「何?」
「後何分こうしてるの?」
ケラケラとハルちゃんは笑った。「リツの反応は面白いね」
私の反応が面白い?
…それ、誰と比べて面白いって言ってんの?嫌だなそういうの。
「だってすごいソワソワする!もうこんなの終わり!」私がムッとして言うとハルちゃんが「うん」と言ってやっと手を離してくれた。
「だからそういう事なんだよ、さっきのアイスの話なんだけど、リツと一緒に見た空の色をぱぁっと思い出したら、隣にいるのがリツじゃないと嫌だなって思えてきて、結局その子とは全然続かなかったっていう話。リツじゃないと嫌だなって話。わかった?恥ずかしいんだからね、こういう事はっきり言うのは」
ずっと握られてて離された手を、私はぎゅっと握りしめた。
未だにだ。
未だにしつこく本当かなとハルちゃんの話をいぶかしみながら、結構すごい告白されてるな私、とも正直に思う。尋常じゃなくドキドキもしている。だから余計にまだ、本当かなって思ってしまうわけなんだけど。
ハイ、とハルちゃんが手を差し出す。「もう1回手ぇ繋ご」
いやぁどうなんだろう…ハイ、って私も出しちゃった、みたいな事やっぱ出来ないけどな。かたくなだな私。
「まだ出してくれないの?まだオレの言う事信じらんない?」
「いや…うん…ありがとう」
「今夜ここで、手ぇ繋いで寝たいな」
それには首を振る。
「だよね~~。オレもそんなんしたら寝られない。触りたくなるもんね他のとこ」
「あの…ごめん、本当にごめん、今さら聞いてバカみたいなんだけど…」
さすがに聞きにくい。「…その…どれくらいの本気で言ってくれてんの?」
「へ?」ハルちゃんが驚いている。「今でもそんな事聞かれるのオレ?マジで…すげぇなリツ…結構!…結構な告白した気でいるんだけど。…え?そういう風には聞こえないわけ?」
いや、ちゃんとわかった。でも…「今はたぶん、そういう風に私の事を考えていてくれてたところに再会したから、ハルちゃんは必要以上に盛り上がっちゃってんだと思う。夢見過ぎっていうか、むかしの思い出美化してるだけだと思う。…普通だったらね、幼馴染がハルちゃんみたいにかっこよくなって会いに来てくれたら、たぶん手放しで喜ばないといけないんだと思うんだけど、私はまず疑っちゃうんだよね。仮に付き合ったとしてもよ?私のつまんなさにすぐ我に返ると思うんだけど…。途中であれ?っとか思われても、私も傷付きたくはないし。もっとよくむかしの事思い出してみて?お姉さん面した私にいらついた事とかまで全部。今だってほら、ハルちゃん来たばっかでもすごい人気あるのに」
「あ~…リツ…」
「それかね、まずそのむかしの思い出を全部無しにして、それで今の私を見てみたら、あ~、うん、そうだよね~~みたいな感じになると思うんだよ」
「…」
「ね?」
「ね?じゃないよ。そのむかしの事がなかったらオレはオレでもないし、リツもリツじゃない」
まあそうだけど。
「それに」と言ったハルちゃんはにやにやしている。「リツはそれ、オレの事もうだいぶ受け入れようとしてるよね?」
ん~~…2階に行った方がいいんだよね…
私もハルちゃんの言ったとおり、ハルちゃんの事を受け入れようとしてるんだと思う。あんなに言ってくれてるし、あんなに強く手首握られたし抱き締められたし…。
凄く流されてるし、やっぱりすごく受け入れている。
でも例えばここで急に勢いでエッチとかされたらそれはどうなんだろう。
さすがに流され過ぎだよね。
それに私は本当の所、どれだけハルちゃんの言ってくれた事を信じてるんだろう。本当かな、本当かな、って思いながらも受け入れようとしている。 手を繋いで寝てもいいかなって気になんとなくなって来てるのが恐ろしい。しつこく信じられないと思いながら揺れているのだ。ハルちゃんの結構な告白に、私の心が。
寝るまで手を繋いでいてあげようか?って言ったら、それは何も性的な事が分かってない純真無垢な振りをしてるとしか思えない。それくらい私は、自分がハルちゃんの事を受け入れようとしている事をちゃんとわかっている。
たぶんここで手を繋いで寝たりしたら、こんな貧乳の私でも速攻でエッチされるかもしれない。さっきも触りたいって言ってたし。まぁ母さんがいるからそこまではしないだろうけど…。
…でもずっと、一晩手を繋いでいたら、私もこの人の言葉をすごく信じられるような気がする。もしかしたらずっとこれからも一緒にいるのだと思えるのかも…
…なんか私やっぱり相当流されてないか?
流されちゃいけなんでしょう?母さんも塾長の奥さんもそう言ってた。




