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ハルちゃんのわけ  1

 

 頭がいたい。

 母さんはどっちの味方なんだ?やっぱりマキちゃんとなんとなく似てる。

 ハルちゃんが感嘆している。「お母さんマジですげぇ…」

「ハルちゃん…」もうこの際せっかくだから聞いてしまおう。「そんなに好きだって言ってくれるのなら、どうして今まで電話も手紙もくれなかったの?」

「え…」ハルちゃんが固まった。

急に聞いたからか?

「…もう1回言ってみて?」とハルちゃんがやっと言う。

「15年てブランクあり過ぎだよ。どうして途中で1回も電話や手紙をくれなかったの?」

 もう一度聞いた私の声を聞いているのかいないのか…けれど1拍あってから「もう1回」という。

「嫌だ、しつこい」

 ちっ、とハルちゃんが舌打ちした。



 ハルちゃんが目を瞑って眉をしかめ黙り込む。何?やっぱり聞いちゃまずかったって事?いい返答が用意出来てなかったって事?でも普通そこ突かれるの予想付くと思うけど…

「それすげぇ言って欲しかった。ずっと。ずっと。もうずっと」

「…」今度は私が眉をしかめてしまう。「何言ってんの?じゃあ電話すりゃあいいじゃん」

 すごく冷たい感じで言った私にハルちゃんが笑う。「すげぇ…嬉しいな…リツがそう言ってくれるとは思わなかった」

「そんな事ないでしょ?普通聞くでしょ?15年ぶりに現れて好きだとか言う方がよっぽど変」

「オレ今日来て良かった!!リツさ、オレにおねえちゃんて呼べって言ってた事あったでしょ?」

「…あぁ、あの時はごめん。無理矢理呼ばして。私兄弟いなかったから兄弟欲しかったし」

今もミノリ君に呼ばそうとしてるし。

 「まぁそれはいいんだけど…いや良くはないけど、小1の終わりくらいだったと思うんだけど、リツが小2で。リツが学校帰りに友達と好きな男子の話してんの、オレたまたま聞いてた。その友達が『仲良い男の子いるよね?』って言って、オレは『あ、オレの事だ』って思ってたらリツが、『あぁあれは隣の子、私お姉ちゃんなの、あの子の。本当のじゃないんだけど』って言ってて、まぁそれもいいんだけど、リツが好きな男子聞かれて5年生の何々君って答えてて、それは仲間班の上級生だって説明してた。『何々君がお兄ちゃんだったらいいのにな。私本当はお兄ちゃんが欲しい』って」


 仲間班と言うのは小学校の縦割りの班で各学年3、4人から構成されていて、いろいろな学校行事の際に6年生が1年生の、5年生が2年生の面倒をみるのだ。私をみてくれる係りの5年生の子が当時好きだった。好きって言っても当時小2だ。かっこいいお兄さんだな、くらいの感じだ。やさしくて、仲間班で行動する遠足に行った時にも私のリュックを持ってくれたし、私が退屈しないようにずっとクイズを出してくれたり、しりとりをしてくれたから…でももう苗字すら思い出せないけど。

「オレはすんごい傷付いたね。その時はちっちゃいから傷付いたって事に気付かなかったけど、すごい寂しい気持ちになってリツともうあんまり遊ばなくなったしね」

「…おませさんだったんだね」

私が言うと「バカな感想」とハルちゃんが今の私をバカにした。



「まぁ実際何回か電話しようとはしたんだけど」とハルちゃんは言った。「電話すんのは怖いし、けど声聞けたりしたら絶対会いたくなるし」

 どういうことなのかと詳しく聞くと、電話をして私に「誰?」とか「何?」っていう反応をされたら怖い。例え話ができたとしても、それが続かなかったり2回目の電話を避けられたり、無理に相手をしてくれてるような一方的な電話だけで終わっても凹む。仮に話がすごくはずんだりしたらすぐに会いたくなって仕方なくなる。手紙も同じ事で最初出した手紙に返事がなかったらと思ったら出せなかった、ということらしい。

「その寂しい電話や手紙の思い出がリツとの最後の思い出になったら嫌だから」

ドラマにでもありそうな凄く恥ずかしいセリフ、よくそんな真顔で言うなぁと思う。

 だからなんか…面と向かって言ってくれてても未だに作りごとに思えてしまうんだけど。


 私はハルちゃんの話や気持ちをきちんと信じられる日は来るんだろうか。

 その日が来たとして、つまり私がハルちゃんを信じて、ハルちゃんの事をものすごく好きになった時に、ハルちゃんが「やっぱり違ったかも」みたいな感じで離れて行ったら私はどうするんだろう。



 「でも手紙は何回か書いた」ハルちゃんが恥ずかしそうに言った。「多感な中学生の時。自分でも気持ち悪いけど。1回ミノリに見つかってすげぇバカにされて止めたけどね。それでもやっぱ会いたくなって1回ばあちゃんに頼んで連れてきてもらったことがある」

 あれ?塾長の奥さんは3回くらいって言ってたような気がするけど…。

「1回?」と聞いてみる。

「…もしかしてばあちゃんに聞いたの?」

私がうなずくとハルちゃんは少しうつむいた。「行って良かったと思ったし、行かなきゃ良かったとも思ったし」

「…どういうこと?」

「今は言いたくない。それはおいおい話すよ。大学になってバイトも出来るし、会いたいときに会えるようになるかなと思って、やっとすげぇ決心固めてリツに会いに行ったら彼氏といたね。手ぇ繋いで。リツが幸せそうな顔してた。後でアレだったみたいだけど、彼氏もその時はリツの事を大切に思ってる顔してた。だからやっぱりリツとはもう交わらない運命なんだなとあきらめて、オレも彼女と付き合ったけど…」

 なんか…あんまり聞きたくないな、そう言う事。「ねぇごめん。私から聞き始めたけど、もういいや。ほんとごめん」



 「高校2年の時、同級生でリツに雰囲気が似てる子がいて好きになったんだけど」

「ねぇごめん本当に話さなくていいから」

「いや、これは聞いてよ。その子を誘って学校帰りにアイス食べに行ったんだよね。店の外に椅子があって天気も良くて、それで二人で食べた。アイスもうまくて、オレはやっと誘えたから嬉しくて、でもね、空を見上げた時にアレって思った。一瞬ですげぇ、やばいくらいにはっきり思い出した。小さい時にリツんちの花壇の縁に腰かけて、リツの母さんにもらったアイスを食べた時の事。それでその時の空の色もはっきり思い出した。もうびっくりするぐらい何もかもはっきり。雲もない、てっぺんがすごく青くて、視線を落とすとだんだん淡い青になる感じの。その時のアイスの色、アイスの味、リツがオレを見る目、リツの着てたワンピース、アイスを渡してくれた時のリツのお母さんの笑い顔、花壇に咲いてた花も何もかも。何もかも全部一瞬で思い出した」



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