夜の訪問 2
「最初にも言いましたがきちんとお付き合いしたいんです」とハルちゃん。
そして、うんうん、とうなずく母さん。
「本当に泊まらせて頂いていんでしょうか?お父さんが居らっしゃらない時に」
「大丈夫よ~~。お父さんだってハルちゃんの事好きよ、たぶんだけど。ほら、お父さんの知らない男の人と付き合ってまた娘が傷付くよりもね、知ってるハルちゃんの方がまだまし…」
「お母さん!もうしゃべらないで」
「僕自分で布団運びますよ」
「あらそう、じゃあちょっと来て…なんかむかしを思い出すね~~」
「母さん!」ハルちゃんと一緒に下に降りようとする母さんを止める。
「何よ?」
「おかしいでしょ?」
「おかしくはないでしょ?幼馴染だし、あんたには彼氏がいないんだし。ハルちゃんもあんたの事好きだって言ってくれてるし」それからハルちゃんに確認を取る。「今日は一緒の部屋に泊まっても何にもしないのよね?」
「はい。頑張って自制します」
聞いてるこっちが恥ずかしい。
「母さんっ!て、この間は流されないようにしろみたいな事言ってたくせに、なんで…」
「もういいじゃん。彼氏もいないんだし。泉田先生にもふられたんだから」
「今泉田先生の話しないで!」
「せっかくお父さんも出張でいないのに。これだけ好きだって言ってくれてんだからいいじゃない。だって明日あんたミノリ君とデートする気だったんでしょう?それをわざわざ止めに来るなんてかっこいいよね~?」
母さんはハルちゃんに促す。「オレの彼女に手を出すな的な感じなんでしょ?」
まだ彼女じゃないから。
「はいまぁ」赤くなるハルちゃん。
それは赤くなるんだ!
「それ、私じゃなくてミィ君に言うことじゃないの?」
「いいのそんな事どうだって」急に口調のきつくなる母さんだ。「あんたこそ何?彼氏いないにしても、ミノリ君とデートの約束までしといて。どいうつもり?モテてるつもり?ふたまた?泉田先生の事好きだったくせに」
「今でも好きだって!」
「あら」
きょとんとしてハルちゃんを見る母さん。「いいの?ハルちゃん。この子まだ泉田先生の事が好きだって~~」
ハハ、と力なく笑うハルちゃん。「もう~お母さん…やたら今日は受け入れてくれるなって思ったら…」
ニッコリと笑う母さん。
母さんすごいな…なんか…マキちゃんとはまたちょっと違う感じの黒さを感じる。
ハルちゃんと母さんは布団を取りに下に降りて行った。
おかしいよね?完全におかしい。
ハルちゃんは部屋から出て行く前に、ミノリ君に断りのメールを入れるように私に言い置いたが私はそれをしない。そんな事をしたらまた面倒くさい事になる。
それに絶対おかしいもん。そう思いながらショートパンツを脱いで部屋着のボトムに履き替えた。。
下から母さんが呼ぶので降りて行くと、ハルちゃんは応接間に寝る事にしたらしい。
寝る事にしたらしい…って泊まる事はもう確実なんだな?じゃあもういっそ私がこれからどこかへ泊まりにいこうか…とか思ってもこんな夜にどこも行くと来ないしね!
応接間に行って見ると、ハルちゃんは父さんの部屋着の上下に着替えていて、畳敷きの応接間の真ん中にしかれた布団の上に足を投げ出して腰をおろしていた。くつろいでるね~~。
「自制するって言ったけど」ハルちゃんが言った。「一緒の部屋だとやっぱ無理。絶対触りたくなる。…さっきもずっと触りたかった。あんなかっこしてたから」
そもそもこの人はなんで泊まるって言い出したんだっけ?少し離れた畳の上に私も腰をおろしながらそう聞くとハルちゃんはケラケラと笑った。
「リツが泊まれって言ったじゃん」
「違う、その前」
「あぁ、お母さんが先に言ってくれたね。オレがミノリの事話して、絶対に明日行かせたくないからって言ったから。ミノリはオレに対抗するためだけにリツを誘って来てるんだってお母さんにチクっといた」
「大人げないね。自分の弟なのに」
「いいんだよ!それでお母さんが、じゃあ泊まってって仕事がはじまる時間まで頑張って邪魔したら?って言ってくれて。でもリツの母さんすげぇわ。泉田先生の話放り込んできたし。オレの事はまぁ受け入れてくれてはいるんだろうけどまだ信用はされてないって感じ」
「ミノリ君はいいじゃん別に。ただお兄ちゃんに絡みたいだけで私のとこに来るってハルちゃんも言ってたくせに。だって私、それ止めさせるために明日約束したんだもん。もうすんごいつまんないとこばっか連れまわして2度と誘いたいとは思わせないようにしようと思って。しかも…」
「しかも何?」
「いや…なんでもない」
「何?」
「…ちょっと恥ずかしいけど…『ねえちゃん』て呼ばせる約束したし」
「何それ?それはそれで嫌だな。ミノリとは打ち解けるねぇ…あっ!え?ミノリにねえちゃんて呼ばせるって事はオレと付き合う気で…」
赤くなる私だ。
…そうかそれは考えてなかった。というより恥ずかしいが本気でミノリ君におねえちゃんと呼ばれたい気がちょっとしたのだ。ミノリ君がたぶんむかしのハルちゃんに似ているせいかな。ハルちゃんはむかしと本当に変わってしまった…ミノリ君どう思ったんだろう。何も言わなかったけど。
「…赤くなった」とハルちゃんが狼狽している。「え?そんな気ならオレ別に今夜来なくても良かったのか…いや来たからこそ泊めてもらえるわけだし…」
ブツブツ言っているハルちゃんに、ハルちゃんとミノリ君のファンの先生や生徒に連絡先を聞かれたりした事を教える。そして今日見た高山先生の事も聞いてみる。どんな映画に誘われたかって事だ。
「やっぱ気になるの?」ハルちゃんが嬉しそうだ。
そこへ母さんがビールを持って現れた。「ほら、飲みなさいよ」
『ビール飲む?』とかじゃないんだな、母さん。
「…もしかしてお母さん」とハルちゃんが苦笑いをしている。「今話してたの聞いてました?」
「聞いてた聞いてた。ハルちゃんがモテてるって話ね。すごいじゃん、まだちょっとしか勤めてない塾でそんな感じだったら、大学生の時とかもうすごかったでしょ?毎日違う女の子と遊べたでしょ?ていうか先生してる時に女子高生の食いつきがすごかったでしょ?」
「いやマジ遊んでませんし、男子高で教えてましたから。お母さん、こういう話、この間最初遊びに来させてもらった時も言ってましたよね?」
「またまた~~」母さんは冷めた顔で笑う。「そんなにモテてんのにねぇ?なんでこんな愛想のない、貧乳の、ネガティブな子のところに来たのか…」
そして母さんは私をじいっと見つめて小首を傾げ、「ねぇ~~?」と同意を求めた。
いや、自分でもそう思ってるけども!母さんから言われたら腹立つ。
「お母さん」ハルちゃんが母さんの持って来たビールのプルリングをプシュッと開け、静かに言った。「好きでもない子と付き合っても、そんなの疲れるだけですよ。一緒にいて何もしなくても嬉しいと思えるりっちゃんと僕はずっと一緒にいたいと思っています。…てオレは何でお母さんに言ってんだろう。お母さん、僕まだりっちゃんにもちゃんと言ってないのに」
「あら」と母さんは言った。「私の前でもリツって呼んでいいのよ。オレって言ってもいいし。まぁ…お父さんはどう思うかわからないけど。ほら、リツもちゃんと赤くなってるから。さっきは泉田先生の事まだ好きだって言ってたのにね~~。何赤くなってんだか。ハルちゃんみたいなかっこいい子に好きだって言われてもまだ好きな泉田先生って、どんだけかっこいい人なんだろ。お母さんも見てみたいな!」
苦笑するハルちゃん。なんなんだコレ、今夜の事は全部母さんに仕組まれてるような気さえしてくる。
「で?泉田先生にふられたリツはどうするの?」その母さんが最後に言い出した。「ミノリ君にするの?ハルちゃんにするの?ミノリ君は年下過ぎるとは思うけど、素直で可愛い感じだもんね?じゃあ私はこれからゆっくりお酒飲みながらイヤホン付けてDVD見るから。ハルちゃん?何かするんでもリツが本気で嫌がってるうちは止めてやってよ」




