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兄弟 3

 塾へ帰るのもミノリ君が一緒に帰ろうとするので別々に帰ろうと提案する。

 まずハルちゃんに見られたくない。そう思ったらミノリ君に「兄ちゃんに見られたくないから?」と聞かれてドキリとする。

「うん…まぁ」

「やっぱ気になってるじゃん、兄ちゃんの事。あ~~」

ものすごく嬉しそうな顔でミノリ君は言うのだ。「明日の事兄ちゃんに教えてぇ!」

「ダメだよ、わかってるよね?」私は淡々とそれを却下する。「言ったらもう明日は止める」

「邪魔されたくないの?」ミノリ君が嫌な笑顔で聞く。「それとも逆に兄ちゃんに気にして欲しいの?」

「ハルちゃんとミィ君をいいな、って思ってる女の先生たちや生徒にばれたくないの。面倒くさい」

「面倒くさい!」

私の言葉を繰り返してミノリ君は笑った。


 「オレの事も何か聞かれた?」ミノリ君がわくわくした感じで聞くので、バカだなと思ってつい言ってしまう。

「ほんとにお兄ちゃんに張り合いたいんだね~。お子ちゃまですね~~」

「そんなんじゃないよ。何て言われた?」

「ハルカ先生の連絡先教えてください、って可愛く言って来たから、はいどうぞって」

ハハハ、とミノリ君は笑う。「教えたりしないのわかってるよ、りっちゃん」

「…」面白くない。「ミィ君、五反田先生がミィ君の事好きかも」

一応教えて上げる。

「あ~だよね、でもあんな感じの人ってオレのとこ来てもすぐ兄ちゃんのとこ行くわ。逆に今兄ちゃんの事しか考えてなくてオレの事気にしてんのかもね」

「そういう目で見過ぎじゃないの?」と自分の事はさておき、五反田先生をフォローしてみる。「でも可愛いじゃん、見た目は」

「おっ?毒づくね、りっちゃん」

そうだよね、女子気分出してフォローしても心にもないから毒が出てしまう。

「そうだよ、私性格悪いしすごいネガティブだからね。ハルちゃんにも教えといてあげて」

「可愛いね、りっちゃん」

「…」嫌だな、この子。「じゃあ先行くからね。5分くらいしてから来てよ」

「わかった。大好きだよ、りっちゃん」

 軽いわ。

 メールで『大好きだよ』って書かれた時には可愛い感じがしたけど、実際言われてみると軽いし、年上の彼氏のいない私をなめっきっているような感じを受けるのは私がネガティブなせいだけじゃないと思う。



 全部の授業を終えて帰り支度をするまで、マキちゃんが何も言って来なかった事が私はちょっと怖い。

 ミノリ君は私の指示通り一緒にそば屋から帰っては来なかったし、2時間だけ授業を終えもう帰っていた。行きも帰りもそば屋でも、知ってる顔には合わなかったから、私たちが一緒に休憩したのを知っているのはたぶんマキちゃんだけだ。マキちゃんなら例え知らなくても嗅ぎつけて、面白がって何か言ってくるはずだと思う。ていうか言ってこないなんておかしい。知っているのに、しかも何回か目が合ったのに、何も言って来ないのが不気味な感じだ。目が合った時にも無言のリアクションも無し。

 不気味さに耐えきれなくなった私は、自分からマキちゃんの残っている教室に行ってみようかとさえ思ったがすんでのところで止めた。


 きっとマキちゃんは私が今こんな風にマキちゃんの事を気にしてるのをわかっている。だから自分からマキちゃんの所へ行って、ハルちゃんや塾長にミノリ君の事を黙っててと頼むのは恐ろしく恥ずかしい。

 別にいいのだ。ミノリ君がマキちゃんに言われるままに私の所に来て、私と明日の約束をしたっていいのだ。それをハルちゃんや塾長にバラされても、面倒くさいけど大丈夫。なんていっても私に彼氏はいないし、好きな泉田先生には振られたばかりだし。ハルちゃん達高校生の担当はまだ仕事中だ。私はさっさと片付けをして塾を後にした。



 家に帰って風呂や食事をすませしばらくすると、当然のように電話がある。ハルちゃんだ。この人よく続くよな、と思う。

「はい、王子様から」と私に子機を渡す母さんを睨む。その呼び方をいい加減止めろ。

「明日どこに行くの?オレの弟と」

子機を耳にあてたとたんに言われてもちろん驚いた。

マキちゃんめ、知らんぷりしてたくせに。「…マキちゃんに聞いたの?」

「いや、牧先生も裏切り者だよ。牧先生は面白がってはいるけど基本リツの味方だから」

マキちゃんが?

「じゃあミィ君から聞いたの?」黙っとけっつったのに。もう明日の約束は無しだ。中学生男子か?あんなにデカいのに。

「あいつ心は中学生だから」とハルちゃんも言った。「口に出しては言わなかったけど、今日帰る前にオレんとこわざわざ来て勝ち誇った顔でオレの事嫌と言うほど見て来たから」

「…兄弟仲良いねぇ」

「まぁね」

「小さい時はそんなにお兄ちゃんに張り合いたいって感じじゃなかったのにね…すごく小さかったから当たり前か…ハルちゃんの事がすごい好きな感じで、私とハルちゃんが遊ぶ時にもついて来ようとして、よくハルちゃんのお母さんに止められてたよね。ちっちゃいからダメって」

「…」

やっぱり今でもすごくハルちゃんの事好きだから、ハルちゃんが絡む私に絡んで来てるんだね…

「やっぱ仲良いんだねぇ。羨まし…」

「またあの家に行くの?」

「ううん。私の行きたい所に行く」

「…何それ…」

「さんざんつまんないとこ連れまわしてもう2度と誘いませんて気持ちにさせる」

そうか!ハルちゃんともそうすればいいんだよね。もっと性格の悪いところもバンバン出して超ネガティブ感発揮して…


 「リツ」

「…私ね、ハルちゃんにそんな風に呼ばれると違和感感じる」

「関係ないよ。オレは呼びたいように呼ぶ」

明日はミノリ君に『おねえちゃん』て呼ばせる事にしたんだった。ミノリ君への嫌がらせなのだけれど、それはまたそれで恥ずかしい気もしてきた。いい大人が無理矢理…

「リツはバカだよね」

「へ?」

「『へ?』じゃないから。バカだから。今から家に行ってもいいんだけど。リツのお母さんに電話代わって?今から行く承諾取るから」

「いや、止めといて」

私の即答に苦笑するハルちゃん。「そんなんばっかだね。バカだね、リツ」

「そんなバカバカ言われても…」

「いや~バカだからだよ。もう電話代わんなくていい。着いたから」

電話の向こうのハルちゃんがそう言ったとたんにドアチャイムが鳴る音がした。

 そして母さんが私を呼ぶ声。「リツ~~、ハルちゃん来た~~」

 玄関先でこんな夜遅くに叫ぶな。


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