兄弟 2
私が泉田先生に誘われたとしたら、どこが一番嬉しいだろう。
元カレと行った所の中でどこが一番楽しかったかな…
…私がカレの事を好きで、カレが私を好きでいてくれて、私もそれを確信できていた時にはどこへ行っても楽しかった。
「ほら」とミノリ君に催促される。
「ごめん、どこも思い浮かばない」
「マジで!!」ケラケラとミノリ君は笑った。
こういう感じも兄弟似てるな。
「オレの事をさ」とミノリ君がにやにやして言う。「意識してるって事だよね?『二人っきりになったら…私…』みたいな。でしょ?」
「何が?」
「ほら、なんかそうやって天然ぶってしらばっくれるけど、本当はオレの事をすげぇ意識してて、二人っきりだと私何かされちゃう、みたいな感じなんでしょ?って言ってんの!」
あ~~…
「あ、ちょっと赤くなった!」ミノリ君が凄く嬉しそうに言うので余計恥ずかしくなる。
「好きとかまでいかなくても完全にオレの事意識してるよね!…やった!なんか…なんかわかんないけど何かを勝ち取った気分」
意識しているのは本当だ。塾長の家のミノリ君の部屋で、椅子越しに腕を回された時にも相当ドキドキした。
…ていうかそういう状況だと、たいていの、男の人とのスキンシップに不慣れな女の人は誰だってドキドキするでしょう?ハルちゃんと手を繋いだ時だってちゃんとドキドキした。チュウされた時は…一瞬過ぎて唖然として、その後『何もしてない』 宣言されてさらに重ねて唖然とした。
だって私、元カレとだってそんなに濃厚なチュウやエッチはした事なかったし…そうなる前に別れたから…って、あれ?もしかしてそれもいけなかったの!?
今までにもある程度は思っていたけれど、もっと私からも可愛く、ときにはセクシーに求めなかったのも去られた要因なんじゃ…
「そりゃあ普通に意識もするしドキドキもする」
そう言うとミノリ君はとても嬉しそうに笑った。「だよね~やっぱ!」
「でも…お兄ちゃんに絡みたいからって無理に私誘わなくてもいいんじゃないかな。ハルちゃんにもそう思ったけど、ミィ君だって普通に彼女いるでしょ?普通にカッコいいじゃん」
「普通にカッコいいってなんか微妙…。今はいないよ。今っていうか、言ったでしょ?兄ちゃんを好きになっちゃう子とか兄ちゃん狙いの子とかに近付かれ過ぎて、普通に告られたりしてもなかなかオレも相手を素直に受け止められないようになってるから、向こうから告ってくるような子はまず断るようになったし…こっちから好きになってこの子なら大丈夫かも~~って自信もって近付いていって、その子がまた兄ちゃん見たとたんオレによそよそしくなった感じがしたりすると、もうそれだけでオレは凹んで何もかもがダメになんの」
「ミィ君も十分カッコいいのにね~~」
ニッコリ笑ってそういうとミノリ君が素直に驚いている。
「どうしたの?りっちゃんらしくない感じの慰め」
りっちゃんらしいってどんなんだ?「そんな事ないよ。ほんとにカッコいいって。だから私に構わずに、同じ年くらいの可愛い子誘いなよ。ね?私そろそろ先に帰るから」
「うぅわ!締めにかかった!りっちゃんすげぇな」
すごくないよ。昨日の思い出に浸りたくてここに来たのに。
「ほんとはちょっとずつ気になってきてんでしょう?」
立ち上がりお盆を返却口に置きに行こうとする私にミノリ君が言う。「兄ちゃんの事。あんなに好意を示されるとさ、どうしてもその気になってくるよね?しかも兄ちゃんくらい見た目いいやつからだと」
「だからね、」私は小さい子に諭すように言ってしまう。「まずなんでそんなに私に好意を持ってるかがまずわかんないから。小さい頃のその…ハルちゃんちの離婚とかそんな事もあって、その時一緒にいた私を、よくわかんない感じで美化してるだけだと思う。でもそれならそれで、電話とかさ、手紙とか、いろいろ今までにもとっかかりはあったはずでしょ?でも今度訪ねてくれるまで本当に何にもなかったんだから」
「明日どうする?」
まだ言ってんのこの子。同じように立ち上がったミノリ君の顔を思い切り下から見上げながら睨んでしまってもにっこりと笑い返された。
私の今の説明を聞いてなかったのか?そもそもあんたが嫌がらせしたい兄ちゃんの、私に対する好意に根拠がないって言ってんのに。
「わかった」と私は切れ気味で言う。「明日迎えに来て」
「マジで!」
「でもバイクはダメだよ。それでどんなにつまんなくて途中で帰るって言っても許さないからね」
兄ちゃんへの対抗心だけで中途半端に私を誘いやがって。私の行きたいとこだけ連れまわしてもう2度と誘う気なくしてやる。
「今の超可愛い!」ミノリ君がデカい声を出したのでびくっとする。
「何が!声大きいって」早くお盆を返してどつきたいと思ってしまう。
「今の超可愛いいってりっちゃん!『途中で帰るって言っても許さないから』とか」
「黙れ!」なんか本当に兄弟似てるな。
「そんな甘えた言い方してないから。それで」と私はさらに付け足す。「明日一緒にいる間は私の事を『ねえちゃん』と呼ぶように」
「へ?」
「塾では中野さんか中野先生ね。わかった?」
「ちょっと嫌だな」
「わかった?」
「…わかった。…なんかキャラ変わったね今」




