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みんなが知ってる 3

 1階の小学生担当の控室に戻るとミノリ君がいた。

 思わずため息が出そうになったがよくよく考えるとミノリ君はそんなに悪くはないような気もする。ハルちゃん程は悪くない。

 全部ハルちゃんが悪い。


 「昨日メールの返事くれなかったね」とミノリ君が言った。

 あ…うん、と歯切れの悪い返事をする。そしてつい余計な言い訳を付け足してしまう。

「でも見たよ。朝見た。ビイ可愛かった。ベンチでムッとしてんのが」

「オレ、返事待ってたんだけどな。結構遅くまで待ってた」

そういうミノリ君の目をじっと見つめる。「ウソでしょ?」

 調子良い事言ってんのわかるんだから。やっぱこの子もハルちゃんと同じだな。

 ミノリ君がムッとする。「ひどいね。ウソじゃないよ。ていうか今日のりっちゃん感じ悪いね。ビイに良い反応くれるのりっちゃんだけだから、オレは結構返信楽しみにしてんのに。…ねぇ、この間兄ちゃんに邪魔されたから明日ビイの写真見に来ない?りっちゃん休みでしょ?オレも学校休講になったから」

「しっ!」と私は口に手を当てた。「声大きいよ」

 控室にいたマキちゃんと幼児英語担当の五反田先生がチラチラとこちらを見ていた。マキちゃんはニヤニヤしながらだ。

 五反田先生は新卒で、さっきハルちゃんを誘っていた高山先生のようなゆるふわ系だ。髪型も雰囲気も似てる。

 優しくて可愛らしい人なのに、その五反田先生にも私が好感を持てずにいるのも、ひとえに元カレとその今カノのせいだ。いつまで引きずるんだ私。



 私はハルちゃんに言った事と同じ事をミノリ君にも言う。「職場では苗字で呼んでください楠木先生」

「え?そうなの?りっちゃんに楠木先生とか呼ばれたら超恥ずいけどオレ」

ハルちゃんもそう言ってた。

「うん、わかったよ」嬉しそうな顔でミノリ君は言った。「何かのプレイみたいだね。ちょっと興奮するかも。今度それ妄想でも使ってみよっと」

ハルちゃんもそう言ってた。バカだなこの兄弟。

「それでどう?明日」ミノリ君にもう一度誘われる。

「いや…私ビイの写真見るのは好きだけど、でもそうそうお宅にお邪魔は出来ないよ」

一昨日行ったばっかりだし、第一雇用主の家じゃん!

「明日じいちゃんいないよ。ばあちゃんもいなかったら来る?」

それはかえってまずいでしょう。この間の、ミノリ君の部屋での事を思い出すと。だから私は首を振った。

「ダメだよ。ミィ君悪ふざけが過ぎるから」

 

 五反田先生がまだこちらをちらちら見ている。

 もしかしたら五反田先生はミノリ君に好意を持っているのかもしれない。高山先生がハルちゃんにそうであるように。

「りっちゃん…今度兄ちゃんとドライブ行くんでしょ?」

「…なんで知ってんの?今言ったでしょ?りっちゃんてここで呼んじゃダメなの!」

「オレだけいつも置いてけぼり。ちっちゃい頃とおんなじだね」

「ごめん、そうかもしれないけど、なんでドライブの事知ってんの?どうしてみんなそうやっていろいろな事知ってんの?いやだなもう」

「ごめ~ん」とマキちゃんがわざとらしい可愛い声を出して寄ってきた。「私がイズミィとその事話してんのをさっき横で聞いちゃったんだよね?」

「りっちゃんもそうやってさ」ミノリ君が言う。「まんまと兄ちゃんにいいように動かされるんだよ」

「ちょっと!そういう話ここでしないで。それに誘ってくれたのは泉田先生だし」

ふっとミノリ君はバカにしたように笑う。「泉田先生にそうしむけたのは兄ちゃんでしょう?りっちゃんもそれ、わかってるくせに」

…そうなんだけど…

 ミノリ君がバカにしたようになおも言う。「泉田先生の事好きとか言っときながらさ、兄ちゃんみたいなやつが出てきたら、すぐ!そっち行っちゃうんだよね~」

「うるさい」と言うとミノリ君が驚いた顔をしている。マキちゃんは笑っているけど。

「楠木先生?」ミノリ君に言う。「勝手な事言わないでください。私授業の用意があるんで。マキちゃんも!面白がらないで」



 休憩時間、私は速攻で立ち食いそば屋へ向かった。泉田先生がいるかな?と思ったわけじゃなくて、…いたらそれはもちろんすごく嬉しいけど、そうではなくて昨日の泉田先生に告白した余韻に浸るためだ。

 愚かで寂しい行為のように自分でも自覚するが、浸って、それで今度のドライブを普通に迎えたい。

 昨日と同じそばを注文して昨日と同じ席に座る。

 昨日の私は偉かった。ちゃんと口に出して泉田先生に好きだって言えた。

 ちゃんと頑張れる。今度のドライブでも普通に楽しめる。せっかく泉田先生がセッティングしてくれたんだし。ミノリ君はあんな事言ってたけど…

 ミノリ君に言われた言葉も思い出すがぶんぶんと頭を振る。

 いい!取りあえずドライブは行く!泉田先生と同じ車に乗りたいから!


 

 と思った所にガタっと音がして、昨日泉田先生が座った席に腰かけたのはミノリ君だった。素で驚いて「何で来たの?」と言ってしまう。

「ひでえ!!」ミノリ君は言ったが顔は笑っている。「来ちゃ嫌だったって言い方した~」

「いや、ごめん」浸りたかったから私。でももちろんそう言わない。「急に現れたから普通にびっくりした」

「牧先生が行っておいでって言うから」

「マキちゃんが?」

「今日は絶対ここにいるから行っておいでって。その方が面白いからって」

 どういうことだ、面白いって。マキちゃん相変わらずだな。私は本当にマキちゃんと友達でいていいんだろうか?でも…そうか…私がここにいるってわかったのか…すごいなマキちゃん…今度私も絶対意地悪してやる。



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