みんなが知ってる 2
4階の塾長室を出て1階に戻る途中、2階と3階の間の階段の途中の狭い踊り場にハルちゃんと女の先生がいて、一瞬足を止めそうになったが、軽く会釈をして脇を通り抜ける。
女の先生はハルちゃんと同じ高校生の担当で、英語の高山先生だ。フワフワした肩までの髪の柔らかい、女らしい感じの人。たぶん私より1歳か2歳年上だと思う。この間エリカ先生と一緒に私の所へ来た後の3人の中の一人だ。ハルちゃんと話していたのに通り過ぎる私の方をちらっと…いやどっちかというと、じろっと見てきた。
何となく元彼の今カノに雰囲気が似ているから、ちゃんと喋った事もないのに何となく嫌いだと思うのはしょうがない。
こういう女の人って男の人から好感もたれるもんね~と意地悪く思うのもしょうがない。
こういう女の人って本当は芯が強くてしたたかなんだよね~と弱冠、とういうか時に思い切り、私が偏見を持って見るのもしょうがない。
全てしょうがない事だ。全部元カレとその今カノが悪い。たぶん。
「リツ!」ハルちゃんが私を呼ぶ。
今呼んで欲しくないな。私は今、二人と無関係でいたい。そのまま行こうとする私を、わかってはいたがやはりハルちゃんはもう一度呼ぶ。
「リツって!聞こえない振りしないでよ」
…最悪。仕方がないので私は振り向きもう一度会釈をして無言で足を進める。
「じゃあそういうわけなんで申し訳ないんですが失礼します」
ハルちゃんは高山先生にそう言って、私を追いかけて来た。
「待ってリツ」
私はそう呼ぶハルちゃんよりハルちゃんの事をせつなげな目で追っている高山先生の事が気になる。
私が高山先生を見ている事に気付いてハルちゃんも振り返った。そしてお辞儀をして「ありがとうございました。こんなオレに」と言った。
高山先生もお辞儀をし返す。心なしか顔が赤い。
どうしたんだ高山先生。ハルちゃんに告白かなんかか?高校生の生徒はまだ来てないとはいえ階段で?それにハルちゃんとは、顔を合わせて2週間くらいしかたってないんじゃないの?そんなんで告白?何で選んだんだ?顔でか?
「どうしたの?また塾長に呼ばれたの?」
嬉しそうにそう言うハルちゃんに私は冷たく言う。「職場では苗字で呼んでください楠木先生」
塾長に呼ばれるのもあんたのせいなのに。
「あぁうん…そう?オレはリツに楠木先生って言われるとすんげぇ恥ずかしいけど」
私だって恥ずかしいんだって。
「わかった。…なんかのプレイみたいだけどわかった。それ今度妄想でも使ってみよ」
「高山先生、良かったの?話終わったの?」
「あぁうん、映画の券あるから一緒に行きませんかって言われた」
「…ふうん。何の映画?」
「気になる?」
「…」
「オレが誘われたの気になるの?」
まぁハルちゃんが誘われたのも気になるけど、それより高山先生みたいな感じの、私が偏見を持って見てしまうような女の人が、どんな映画でどんな風に男の人を誘うのか気になったのだが、そんな事聞くのも…
「行かないよ?」ハルちゃんは優しくニッコリとほほ笑んだ。「行くならリツと、二人で一緒に見たいやつ見ないとね」
「え?まさかそんな風に答えてないよね?高校生のクラスの子が私のとこ来て、私が彼女だってハルちゃん言ったからって私に確認に来たんだからね」
「あぁ…まぁいいじゃん」
「良くないよ、止めてよ」
「楽しみだな~。今度の月曜日」
「…話変えないでよ。…もういいや、私授業の用意があるからもう行く」
「わかった。休憩何時?後でゆっくり話そ?」
私は黙って首を振る。
「まだ怒ってんの?」そう言うハルちゃんがずっと嬉しそうにしてるのがムカつく。
「怒ってないよ。全然なんとも思ってない」
「何の事を?」
「何の事でも全部!」大きな声で答えてしまった。
くるっと踵を返し、じゃあ、と言って私はそのまま急いで階段を下りた。
ムカつく。何かもう全部ムカつく。




