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思惑 1

 泉田先生が立ち食いそば屋の壁を見ながら箸を置き、坊主頭をガリガリと掻く。そして言った。

「ほうか~…思いもせんかったわ」

 がっくり!!

 やっぱね!。もうわかってたんだから。そういう感じだって。

 もうわかってたけど嫌だな~~。あ~~~!わかっていたけど落胆が大きい。


 「りっちゃん、わしな…」と泉田先生が本当に申し訳ない、という顔をして私に言ってくれる。「りっちゃんの事は可愛いと思うけどもな…」

「あの!大丈夫です、私。泉田先生の返事はわかってましたし、それでもこれからもずっと好きですし尊敬し続けるんで」

赤くなる泉田先生。

 私は幸せだ。私の言葉に赤くなってくれる泉田先生にちゃんと告白出来た。想いは通じなくても泉田先生の事はやっぱり好きだ。

 告白の返事に「思いもしなかった」とか、他の人が言ったらものすごく人を傷つけそうな言葉も、泉田先生から聞くとそんな風には聞こえなかった。確かに予想していたとはいえがっかりはしたけれど、そういう感じも含めて泉田先生らしくて好感が持てるし、今も私を、前と変わらない優しい目で見てくれている。



 「ありがとな」と泉田先生がはにかみながら言ってくれた。

 返事はОKじゃなくても、ちゃんと告白出来た事を褒めてもらえているような、よしよしと、頭を撫でてもらえているような、あたたかい気持ちになれた。

「…りっちゃん!?」

泉田先生がびっくりしている。私が泣き始めたからだ。泉田先生がおろおろしている。

「すみません。でも大丈夫です」私は笑って見せた。「ありがとうございます。私、たぶんずっと言えないと思ってたんです。だから言えて良かったなと思って」

「…ほうか?」泉田先生も困った顔で笑ってくれた。

 行き当たりばったりみたいな告白だったけど、ちゃんと好きだって言えて良かった。これもハルちゃんのおかげだな、なんて絶対思わないけど!

 ほんとマジで許さない。よりによって泉田先生にチュウの事まで話しやがって!



 泉田先生が言いにくそうだ。「そんなんならわしと楠木と3人でドライブとか、どんなもんじゃろうな…わし、何も考えんで誘ってしもうて…」

「行きます!」

「へ?」

「泉田先生がそれでも連れて行って下さるならドライブ行きたいです!さっきの事は本当に気にしないでください」

 う~~ん、と泉田先生が考え込んでしまう。ハルちゃんが私とデートしたいのに、私が自分を好きなのがわかって、さすがにその3人で行くのはどうかと迷っているはもちろんわかる。でも、もう行きましょう泉田先生。これを逃したらたぶん、泉田先生とドライブに行く機会なんてこの先皆無だ。

 う~~ん、と泉田先生の迷いは続く。

「りっちゃんがええ言うなら、ええような気もするがのぅ…わしはなんかしらん楠木にも悪いような気がしてきてな」

「全然!そんな事ありませんて!」力んで言ったら、泉田先生がちょっとびっくりしている。「だって楠木先生は知ってるんですよ。私が泉田先生の事を…その、…好きだって知ってるんです。なのにその泉田先生にそういう事言ったり頼んだりしてるんだからいいじゃないですか!」

「あ…うん、そうかな…そうじゃな~」

「ですよ!」

「じゃありっちゃんは楠木がその…チュウした事、許してやれるんじゃな?わしもかなり怒っといたけん…」

「あんなの全然チュウじゃなかったです。ほんのちょっと口が当たったくらいの感じだったし、私全然、なんとも思ってません」

妄想の中では泉田先生ともっとすごいチュウしてます!

「…ほうか~…よし!じゃあまぁ行く予定で進めようかの。じゃあとりあえず来週の月曜の予定で」



 振られたけれどそこまで傷付いていないのは、ひとえに相手が泉田先生だったからだと思う。清々しい感じすらする。こんなヘタレな私が告白出来るなんて。

 私は少し伸びてしまったそばをやっとゆっくりと食べ始めた。

 そうなのだ。ふられるのは予想していたし、その打撃よりどちらかというとチュウの事を話された打撃が大きい。

 ハルちゃんは私を振りまわして楽しんでいるのだ。

 泉田先生に頼んだドライブの事もそうだけど、私が好きな泉田先生をハルちゃんが誘って3人でって、どんな気持ちでそれを泉田先生に頼んだんだろう。私の事を好きだと言っておきながら。

 …自分の目の前で、私が泉田先生に何とも思われてないのを確かめたいとか?


 …私もしかして!自分では覚えてないけれど、むかしハルちゃんにものすごい意地悪をした事があったのかも。

 いや、そんな事本当に思いだせないけど。ハルちゃんがわがまま言い出した時に「もう遊ばない」とか言ったぐらいしか思い出せない。そんなの誰でも言うよね?

 …私が覚えてなくて、それか私は意地悪だと思ってやった事じゃなくても、本人にしたらわざわざ今になって嫌がらせしてしまう程のトラウマになっている思い出もあるかもしれない。そうかそれならいろんな事がしっくりくるような気がする。帰ったら母さんに聞いてみよう。



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