泉田先生!? 2
「行きます!」
つい大声を張り上げてしまい恥ずかしい。
立ち食いそば屋までの移動中、はじめは泉田先生の斜め後ろを歩いていたが、こんなチャンスは滅多にないと思いなおして横に並んだ。
ドキドキする。
そして、何々何々?、何々何々何々?…と心の中で、「何」を数えきれないくらいに繰り返す。
何で誘ってくれたんだろう。また奥田先生の事かな。そうだったら嫌だな。奥田先生の事はもうきっぱり断ろう。昨日奥さんにも言われてその通りだと思ったのだ。
そばの食券を買ってカウンターに渡してから、「私が持ってきます!」と言って泉田先生の分までセルフサービスのお茶を持って行く。
ありがとう、と言ってくれた泉田先生ににっこりとほほ笑んで見せると、何の前置きもなく「ドライブにでも行こうや」と誘われ、私は熱いお茶をこぼしそうになった。
「私とですか!?」
ほんとにですか!ほんとに?ほんとに?ほんとのほんとに?
「私と、っていうかな…」
「え、私とですか!ほんとにですか!」
「私と、っていうかな?楠木とわしとりっちゃんとじゃ。3人で行こうか思うんじゃ」
3人で!…なんでそんな話になってんだ急に。
あんなに奥田先生を薦めてきていた泉田先生が。
「わしもな」と泉田先生が困ったように説明をはじめた。
「奥田がりっちゃんの事えぇなぁ言うんで、奥田とりっちゃんが仲良うなればと願っとったんじゃけぇど、昨日な、楠木から『折り入って』いうて相談を受けてな…」
昨日?あの後って事?
「楠木が夕方電話してきて晩飯食いながら相談したい事があるぅ言うもんでな」
ハルちゃんが泉田先生に相談したのはこういう事らしい。
まず、泉田先生が奥田先生を私に薦めてきているのは知っていると。奥田先生の事は素晴らしい尊敬できる人だと自分も思うと。でも奥田先生は私の元彼に似ているので、その奥田先生から告白されたら私がつらいだろうし、付き合う気にもなれないだろうと。よくは知らないが、元カレとの別れ方が結構酷い感じだったからだと。
「わし、知らんかったからな」本当に申し訳ない、という感じで泉田先生が言ってくれる。「悪かったなぁ」
いやぁと思う。泉田先生が罪悪感を感じてくれる必要はない。それより、なんでハルちゃんは元彼との別れ方まで知ってるわけ?。
「それでも奥田はほんまえぇヤツなんじゃ」と言う泉田先生に私は頷き、それは十分にわかっています、すみません、と私は謝る。
いや、だからハルちゃんは何で元彼との…あいつマジ何者!
それからハルちゃんは、私との思い出話を長々と泉田先生に聞かせたらしい。
「わしも最初はな、ふんふん、言うて聞いとったんじゃけぇど、ほんまにりっちゃんの事ばっかり話おってな、わしももうええわぁ言うくらいにな。ほいで最終的にお願いがあるんですぅ言い始めたんじゃ」
ハルちゃんは私と本当は二人きりでデートがしたいと。またむかしのように仲良くなりたいのに、再会してからきちんとゆっくり話しさえ出来ていないと。でも飲み会の帰りに送ってつい調子に乗って…
え?と思う。まさかチュウの事泉田先生に…
「思い余ってチュウしてしもうた、言うてな」と、出来あがって来た鴨南そばをふうふう言ってすすりながら言う泉田先生の声が、耳の変な所でぐるぐると回った。
嘘でしょう…酷い…なんでそんな事泉田先生に…
信じられない…あいつ許さないあいつ許さないあいつ絶対許さないからな!
「私…」
「楠木な、ほんま悪い事した言うとったけぇ、許して欲しい言うとるが、でもな、わしもそう言うのはきちんと自分で謝らないいけんいうて言うといたけぇ。そいで楠木が言うにはきちんと謝りたいけど、りっちゃんがもう二人きりだと会ってくれなさそうじゃあ言うてわしに泣きついて来おったけぇ、わしもりっちゃんを無理に誘うのは…」
「私!私は泉田先生の事が好きなんです!」
「へ?」
「私が好きなの、泉田先生なんです!」
「へ?わし!?」
泉田先生は本気で驚いた声で言った後、またひと際大きな声で「わし!?」と繰り返すので、私はちょっと笑いそうになってしまった。
そう、『わし』なの。可愛いな。いかにも泉田先生って感じの返しだ。泉田先生が自分の顔を自分の人差し指で指すので、私は大きくうなずいた。




