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泉田先生!? 1

 結局その日私は母さんに文句を言う事もなく、そして私にはハルちゃんからもミノリ君からも電話もメールもなかった。

 母さんも、昼間ハルちゃんが来た事をずっと知らんぷりしているので、私も塾長の家での事を何も教えてあげなかった。



 ハルちゃんは元の家を見に来た時に、なぜ私に会おうとしなかったんだろう。こっちに住むって決まってから急に会いにきて近付いてくるなんて、絶対におかしい。

 私が逆の立場だったら?

 私だったら会いに来て顔を見るのは恥ずかしいと思うし、いきなりな電話もかけられないと思うけど、手紙だったら出せてたと思う。ハルちゃんは手紙すらくれていないのだ。あんなにずっと好きだったって言ってくれているけれど、やっぱり怪しいという結論が出てしまう。

 もうハルちゃんの事は考えたくない。

 そう思ったのに、塾長の家訪問の一部始終を繰り返し思い出しながら、明日仕事に行くのが嫌だな、と思って一日を終えた。



 火曜日。出勤して、まずミノリ君のバイトが入っているかどうかを確認してしまう。

 良かった。今日はいない。

「おはよ」と控室に入る前にマキちゃんにそう挨拶され、反射的に睨んでしまった。

「あれ?機嫌悪い?」と聞いたマキちゃんは思い切り笑顔だ。

「ううん」と私はムッとしたまま首を振る。「超上機嫌」

そう答えると、マキちゃんはケラケラと笑った。

 「おはよう」今度は少し威圧感のある低い女の人の声に言われて、振り返るとエリカ先生だった。

 いや、おはようと言ったのはエリカ先生だったが、振り返ったらエリカ先生の他に3人、つまりに4人の女先生たちがいた。少し後ずさりしてしまう。

「中野さんてハルカ先生と付き合ってはいないよね?まだ」

「…はい」

「付き合うの?」

「…」

「ちょっと!」と強気のエリカ先生にびくっとする。「はっきり答えてくれないかな。きちんと把握しておきたいの」

「なんだかんだで付き合うと思います」と答えたのはマキちゃんだ。

「いや牧先生に聞いてないから」

エリカ先生の吐き捨てるような厳しい突っ込み。でもマキちゃんは笑っている。マキちゃんはツワモノだ。

「せっかくかっこいい子が、しかも二人も入って来たと思ったら、おとといの飲み会の時も、二人ともやたら中野さんの事気にしてる風だったし。しかもハルカ先生、中野さんの事送って帰ったんでしょ?飲み会の時上機嫌で、小学生の時付き合ってたって言ってたけど、別に小学生の時の事なんてどうでもいいし」

「いや、付き合ってないですよ!だいたい小1とかですよ?仲良かったの」慌てて答える私。

「だからどうでもいいんだって、小学生の時の事なんて」

…怖い。


「でもまだ付き合ってないんだったら、私たちもいろいろ誘ったりしてもいいわけでしょう?」

それはもう、私がどうこう言える事じゃない。嫌だけど。

 …て、あれ?

 マキちゃんがまた余計な口を挟んだ。「でもハルカ先生はリッチィの事異常なくらいに好きなんで」

「マキちゃん!止めてって」

それでもエリカ先生はニッコリと笑った。…怖い。

「中野先生?」エリカ先生の可愛く出した声がさらに怖い。「ハルカ先生の連絡先教えて?私たちがいくら聞いてもケイタイ持ってすらいないって言うのよ~~」

 そこへ塾長が通りかかる。

 塾長が通りかかったのは偶然じゃないと思うな。きっと階段の影の所辺りからこっちの動向をうかがっていたんじゃないかとさえ思える。


 まさか塾長、昨日の事をみんなの前で話したりしないよね?

 怪訝な顔で見てしまうと、「昨日」と塾長がさっそく言い出したのでぎくっとする。

「じゃなかった」と塾長はニッコリ笑って続けた。「一昨日だった。一昨日の夜はみなさん、楽しめましたかねぇ?」

ええ、はい、まぁ、みたいな答えをエリカ先生たちは返す。

「牧先生と中野先生も?」と塾長。

 マキちゃんがニヤリ、と笑ったので、これは絶対余計な事を話されると思い、すかさずマキちゃんを追い立てるようにして、失礼します!とやたらはっきり言いながら小学生担当用の控室に入った。



 18時半からの休憩。

 もしかしたらハルちゃんが来るかもと身構えるが、ハルちゃんは来ない。今日は1回も姿を見ていない。まぁ担当が違うから当たり前と言えば当たり前だけど。

 が、泉田先生が私の机の脇に現れ私は驚いた。

 そしてその泉田先生に「立ち食いそば屋に行かん?」と誘われ、さらに驚いて、椅子を倒すくらいの勢いで思い切りガタっと立ち上がってしまった。




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