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電話 3

断るのは大正解だ。そう思っていたら向こうから言った。

 「じゃあまぁ映画はいいや。今度で。リツのお母さんがさ、遊びにおいでって言ってくれたから行くわ、月曜日。ケーキ持ってくから」

「え…」

「オレ的には最初はなんとなく映画観に行ったり、お茶したり、ごはん食べたりして、それから部屋に上げてもらって、って順序を踏んだ方がいいんじゃないかと思ったんだけど」

ん~~と心の中でまた唸る。母さん余計な事言わなきゃいいのに。


「来てくれても私はいないかもしれないけど」と言ってみる。

「はぁ!?」と言った後、彼はゲラゲラ笑った。「いいよ、それでも。お母さんと話をして、リツの部屋でリツが帰んの待っとく。ずっと」

気持ち悪…最初から全体を通してずっと気持ち悪いな。

「いいよ」と彼はおかしそうにもう一度言った。「本当に別に用事があるんなら出掛けてもいいよ。でもオレは本当に待っとくからね」

「…」

「リツ」と彼が優しく電話の向こうで私を呼んだ。「すごく嫌がらないでくれてありがとう」

いや、結構私、頑張って嫌がってる感じ出してるつもりなんだけど。



「あんた、すごく冷たくない?」電話を切った後母さんに言われた。「それに何でそんなに眉間に皺寄せてんのよ?男の子からの電話、もっと喜びなさいよ」

いや実を言うと私だって普通に男の人と出掛けたりはしたい。電話も欲しいし、映画にも行きたいし、他のいろんな楽しいデートをしたい。24だし。なんだったらもう、そこまで好きじゃなくても友達としてでいいから男の人と出かけたい、と思う事がないわけじゃないけど、でもこの人の誘いには乗ったらいけないと思う絶対に。


うちに遊びに来てどうするんだろう。そんなにむかし話をしたいのだろうか。彼の家は両親が離婚してるし、弟もいたけど離婚で一緒に暮らしていなかったらと思うと、家族の事だってそんなに聞けない。

困ったな。やっぱりその日は出掛ける事にしよう。私がいなかったら、待つとか言っててもやっぱり帰ってくれるだろう。母さんにもちゃんと言っておかないと。

 



しかし結局次の月曜日、彼は午前9時にうちにやって来た。

もちろん驚いた。来る、って言っていたから、来るだろうとは思っていたが、9時は早いような気がする。

「もっと可愛いワンピースに着替えておいで」と言う母さんを無視して、私は膝までの薄茶のカーゴパンツと白いTシャツのまま彼を出迎えた。

彼はこの前よりは少しきっちりした感じで薄水色のシャツの上に薄手のクリーム色のデニム・ジャケットと茶色のパンツだ。嫌に爽やかだ。私の格好に「ちっ」と小さく舌打ちした母さんが、彼を見るなり「ほう~~」っとため息をついた。母さんはちょっとおしゃれな薄桃色の細かいニット生地のシャツを着ている。

「すんっごい、かっこよくなって~ハルくん~!本当に久しぶりね。上がってちょうだい」

私が止める間もなく、母さんはすぐにハルちゃんを家に上げてしまった。



「すみません」と彼は全く悪びれずに言った。「せめて10時くらいが妥当かと思ったんですけど待ち切れなかったんです。りっちゃんがどこか出かけるって言うからその前に顔見とこうと思って」

それを聞いた母さんが私を睨む。「あんたほんとにどこか出掛ける気?ハル君がせっかく来てくれてんのに?」

「…」私は黙って仕方なく首を振った。


彼はわざとらしい程の笑顔を私たちに向ける。「そっか、良かった」

そして、いらっしゃいも言わない私に彼はにっこりと笑って言った。

「髪、この前は結んでたけど、結ばないのも可愛いね」

「「え?」」私だけでなく、母さんも不意を突かれた感じで聞き返す。

母さんは驚いた後にすぐとてもうれしそうに、良かったね、みたいな顔で私を見てくるが、私は素直に喜べもしないし、この人はやっぱりこういう事を簡単に言う人なんだなと確信してしまう。

なんだかすごく嫌だな。私の知っていたハルちゃんが、誰にでもすぐにそういう事を言うようなチャラい感じの男の人になっているのは。


彼はそつのない感じで母さんにケーキの入った箱を差し出した。母さんはずっとにこにこと本当に嬉しそうだ。

まぁね。うちに男の人が訪ねてくるなんて久しぶりだもんね。



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