奥さんの言うことには 2
「じゃあ~」と奥さんが言う。「泉田先生のどこが好きなの?」
「えっ!!」結構大きな声を出してしまい、慌てて口を押さえる。
塾長~~、奥さんにまで教えなくていいのに…あ~そうか…塾長のケイタイ小説のあの王様の話に出て来る門番は泉田先生だもんね…そりゃあ奥さんも知ってるよ。
「…寛容で、仕事の先輩としても、仕事を抜きに考えても尊敬できるところです」
「でもばあちゃん」とミノリ君が口を挟む。「オレもりっちゃんの事結構好き」
「あ、そう」塾長夫人が素っ気なく返事をする。
ケーキが美味しい。そもそも私はケーキを食べにおいでって言われてここに来たのだ。美味しく頂いて、それでミノリ君を促して早めに帰らせてもらおう。
長居は無用!
「あの…ケーキとてもおいしいです。今日はお招きいただきありがとうござました」話をはぐらかすためにも私は言う。
「ほらほら、」と塾長がはずんだ口調で1回脇に置いていたアルバムをまた開き出した。
「この子この子」と塾長が指さしたのはハルちゃんと可愛らしい女の子が二人で写っている写真だった。
どこかの公園の芝生の上に座り、とても自然な感じで優しく頬笑みながらお互いを見やる二人。どきっとする。写真の中の二人がどれだけお互いを大切に思っているかが伝わってくるような写真だ。
「これがホラ、中野さん」塾長が言う。「この前言わなかったかな。ハルカが大学で付き合ってて帰省した時連れてきた彼女だよ。可愛いだろう?」
「はい」
「僕はりっちゃんの方が可愛いと思うよ」
余計なおせじを挟んだミノリ君を睨んでしまう。
「いや本当に可愛い子だったよ。気立てもよくてね」とさらにそのハルちゃん彼女を褒める塾長。「もったいないよね~あんな可愛い…ゴフっっっ!」
塾長が背を丸めて呻いた。塾長の奥さんがこぶしを握って塾長のわき腹を思い切り殴ったのだ。
「りっちゃん?」奥さんが言う。「ハルカはすごく良い子なのよ」
「…はい」
「すごくっていうか、まぁまぁ良い子なのよ」
どっちなんだ。
「実のおばあちゃんの私から見てまぁまぁイケメンさんだし。まぁまぁ優しいしまぁまぁしっかりしてるし。でも、それでもよ?りっちゃん、流されたらダメなのよ」
流されたらダメ?
ハルちゃんが好きだ好きだって私に言って来てくれても、付き合うなって事?
私は今、実際とても気落ちしている。
あのハルちゃんと彼女の写真のせいだ。あんな良い雰囲気の二人、あんな可愛い彼女がいたのに、今私の事を好きだと言ってくれているのがなおの事信じられなくなった。
奥さんが続ける。「自分の考えをちゃんと持った上で、よくよくハルカを品定めして、本当に良いなって思ってからじゃないとね。こんな事私が言わなくてもりっちゃんならちゃんとわかってると思うけど」
塾長にも似たような事言われたような気がする。でも、品定めも何も、あの彼女でよかったじゃん。別れなくても。可愛いだけじゃなくて、写真だけからも上品そうで性格も良さそうなのがにじみ出てる。何よりハルちゃんも幸せそうな顔をして彼女を見ていた。
たぶん変な顔をしている私に奥さんが言う。
「ハルカは例えばりっちゃんの事を好きだって言う時には心から言ってると思うんだけどね、りっちゃんがりっちゃんの心で、ハルカがそれを心の底から言ってるなって感じる事が大事なのよ」
いやいやいやいや、心の底からって…
最初再会した時からおかしいなって思ってたのに。昨日手を繋いだ事でちょっと近付いたようなドキドキ感もあって、それでチュウされて、チュウはしてないって言われて…そしてここで彼女との、見ているこっちが羨ましくなるようなほほえましいカップル的な写真を見せられ…私にどう考えろって言うんだ。
「ね?ほら、お茶も飲んで。冷めちゃうから」
奥さんは変わらず優しく微笑んでくれたけれど、私はもう美味しいケーキの味がさっぱりわからないくらいにもやもやしてきた。
「でもばあちゃん」と、ミノリ君が言う。「オレもりっちゃんの事かなり好き」
「あ、そう」さっきと同じ返事だ。
「どうせ、りっちゃんもさ~」と少しバカにしたようにミノリ君が言う。「すぐ兄ちゃんに押しきられちゃうんだって。なんだかんだ言ってもね。オレの事好きだ好きだってすんごい言ってきてた女の子も、うちに遊びに来てて、それもだよ?オレは嫌だっつったのにすげぇオレにつきまっとって無理に遊びに来て、そのくせ兄ちゃん見たとたんに兄ちゃんの事好きになったりとかさ、なんかもう何?女の子ってそういうのすげぇ露骨」
「あらそれは」と奥さんがミノリ君に答えた。「いいのよそれで。そういう女の子もいた方が面白いでしょ?」
それにミノリ、とたしなめるように奥さんが口を挟んだ。「りっちゃんとハルカの間には、なかなかあんたは入り込む隙はないと思うけどねぇ。ねぇりっちゃん?」




