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お呼ばれ 1

「リツ」優しく名前を呼ばれたが私は返事をしない。

それでも「誰と喋ってたの?」と、もう一度聞かれた。

「いいじゃん誰とでも。それより何でマキちゃんに教えるの?」

「何の事?」

「…」

「ねぇ何の事?」

「もう電話切ってもいい?」

そう言うとハハハ、とおかしそうにハルちゃんは笑った。

 気持ち悪っ!どういうつもりなんだこの人。

「牧先生には一応秘密だって言ったんだよ。牧先生、本当に面白がってるんだねぇ。すぐにリツに連絡するなんて」

「秘密もなにも、自分からしなかったって言ってたじゃん!」


「んん~~」とうなるハルちゃん。

 何うなってんだ、こいつ。

 した事をしなかった、って言うのもわけわかんないし、自分からそう言ったのに人に教えるのもわけわかんない。「何でそんなわけわかんない事するの?」

「やっぱ帰りがけ嬉し過ぎて誰かに教えずにはいられなかったんだよね。ごめん。リツとオレの事知っててお互いに一番害がないのは牧先生でしょ?」

害はあるよ。何言ってんだ。

「ふざけてるか、私をからかって面白がってるの?それかすごいバカにしてんの?」

「そうじゃない事わかってるんでしょ?」

「わかんないよ。しなかった事にしようって確かに私には言った!」

「何かそんな言い方されると嬉しいな」

「何がよ?気持ち悪い」

「しなかった事にしないで、みたいな」

「言ってない!」


「あれは」と言ってハルちゃんが説明を始める。

ああいうやり方をするはずじゃなかったそうなのだ。「今日はしないはずだった予定では」、とハルちゃんはまじめに説明する。ずっと一緒に手を繋いで歩いて、それで橋の上でしばらくただ黙って一緒にいて、むかしの雰囲気を呼び戻したかったらしい。

「今日チュウまでしたらオレがそんな軽いヤツだって思われるじゃん。ただでさえリツはそう思ってる感じなのに」

でもしたじゃん!

「なのに」とハルちゃんが言う。「リツが挑発するから。オレはリツとの初チュウはものすごくいい雰囲気になるように、前々からいろんな妄想して一番いいヤツ考えてあるんだよ。だから今日のは無し。なんだけどやっぱ、『した!』って気持ちがもう抑えきれなくてつい牧先生に…」

「わかった」と私はハルちゃんの説明を遮る。

「ふん?」

「私どうでもいい。あんなチュウとかどうでもいいから」

「どう言う事?急にされてもあれぐらいなら平気って事?」

なわけないだろ。「もういいから。電話切るよ」

「あ!オレ、カーディガン返してもらうの忘れたから、明日取りに行く」

「明日は無理。出かけるから。明後日返すからごめん」

「どこに行くの?」

「ハルちゃんに関係ない」

「もしかして電話してたのミノリじゃないよね?」

ギクッとしたが「違う」と答えた。だって話の大半は奥さん、ていうかハルちゃんのおばあちゃんとだったし。

「ふ~~ん。わかった」というハルちゃんの声が急に冷たい感じがするが、それもずいぶん勝手だと私が思うのも仕方がない。



 夜眠れなかったせいもあって、休日の月曜日私は9時過ぎに起きた。ヤバい、と思う。10時くらいにミノリ君が迎えに来るって言っていた。

… 本当に来るのかな?というか、本当に行くのかな私。塾長の家に。今さらやっぱり用事があって行けません、ていうような連絡も出来ないし、下手にうちにいたらハルちゃんが訪ねて来そうな気もするし。

 急いでコーヒーとトーストで朝食を済ませると取りあえず着替えてミノリ君を待つ事にする。

 しつこいけど、本当に行くのかな私。行ってどうするんだ私。

 それでも塾長の奥さんに会ってみたい気もする。会う、というか、実際にもあの写真で感じたような神々しさがあるのか見てみたいのだ。電話の声には柔らかい割に結構威圧感があった。写真で見たイメージと昨日の電話口での喋り方はギャップがあったけど。


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