たいしたことじゃない 3
ハルちゃんはマキちゃんにまず前置きしたらしい。泉田先生や塾長には絶対に秘密ですよ、誰にも言ったらだめです、って。
当たり前だっつの!なかった事にしようって自分で言ったくせに。
「すんごいウキウキした声だった」とマキちゃんは言った。
あの後手を繋いで帰った事から全部をマキちゃんに教えたらしい。
「我慢できなかったんだって。きゃ~~~。本当は今日チュウまでするつもりじゃなかったんだってさ」
マキちゃんから転送してもらったハルちゃんのメアドにメールを打つ。電話番号も聞いたが電話はしたくなかった。
「何でマキちゃんに教えるの?」
送ったとたんに電話が鳴った。表示を見ずに反射的に出てしまったらミノリ君だった。
「メール見た?」といきなり聞いてくる。
「誰から私の番号聞いたの?私教えてないよね?」
「ごめん。ちょっと代わるから」
代わる?「ちょっとミノリ君、誰に…」
「もしもし?」と女の人の声に変わった。
「…はい」恐る恐る返事をする。
誰?誰これ。
まだ塾の誰かと一緒にいるんだろうか?
「こんばんは」と声が言う。「誰だかわかる?」
落ち着いた声だ。もしかして…
「ハルちゃんとミノリ君のお母さんですか?」
「あ~~」と声が言ったがちょっと嬉しそうだ。「惜しい!ハルカとかミノリのおばあちゃんなのでした~~~」
テンション高…て事は塾長のあの女神様みたいな奥さんか!
その奥さんがいったい…
「明日うちに遊びにいらっしゃいよ」奥さんが言う。
唐突。塾長の家にって事か?私が?
いや塾長もおいでって言ってたけども、本気で誘っているとは思えなかったし。ミノリ君にも言われてたけれども、本気で誘っているとは思えなかった。
「あの…どうして…」おずおずと聞く。
「明日ケーキ作るから」
ケーキ作るから…
「イチゴをたくさんもらったのよ~」
イチゴをたくさん…
塾長の奥さんの言葉をただ心の中で繰り返す私だ。
「明日ミノリを迎えに行かせるから。いい?」
いい?って聞かれても…「あの私…」
「いい?」
「…」
言葉尻は柔らかいのに妙な威圧感がある。
「ハルカには秘密ね」ふふ、と笑う塾長夫人。
「いえでもせっかくなんですけど…」
「10時くらいには行けるでしょ?」
奥さんは私では、なくたぶん奥さんのそばにいるであろうミノリ君に確認する。
「オッケ~~~」と軽い返事のミノリ君の声。
「行けるって」と今度は私に言った。「おうちで待っててね?」
私の返事は待たずにまたミノリ君に代わった。
「ごめんごめん、りっちゃん。ばあちゃんには逆らえなくてさ。じいちゃんもそうなんだよね。僕が歓迎会から帰って兄ちゃんとりっちゃんが一緒に帰ったみたいだって言ったら、明日ケーキ焼くわねって言い出して、じいちゃんから塾の職員名簿に載ってるりっちゃんの番号を出させて僕にかけさせたんだよね。て事で、じゃあ明日ね。おやすみ!」
ミノリ君も私の返事を待たずに電話を切った。
電話を切られて唖然としてるところにまたすぐ電話が来た。
「誰と喋ってたの?」と言ったのはハルちゃんだ。
出なきゃ良かった…
「なんで私の番号知ってんの?教えてないよね?」
「ごめん。牧先生から聞いた」
マキちゃん~~。信じられない。もうマキちゃんと口きかない!




