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電話 2

「ほら、取りなさいよ」と母さんに催促されてしぶしぶ子機を取る。

昼間の彼の声が「こんばんは」と私に優しく言う。

「…こんばんは」

「髪、ちゃんと乾かした?」

「え?」

「風呂入ってたんでしょ?」

「…」

「髪乾かしてなかったり、まだちゃんと服着てなかったりしたら、また後でかけなおすけど」

すごい気配りだな。「ちゃんと着てる。髪はいいの。いつもちゃんと乾かさないから」

「そう?今度オレがやって上げる」

「…何を?」

「髪乾かしたりとか」

「…」気持ち悪…と言いそうになったが我慢した。

「なんか今の言い方良かったな…」彼が言う。

「…何が?」何の事言ってんの、この人。

「『ちゃんと着てる』っていうの、なんかすごく可愛かった」

「…」気持ち悪いの我慢出来ないかもしれない。


「久しぶりにリツのお母さんと喋ったら、すげぇ懐かしかった。いや、リツとも久しぶりだったけどさ。久しぶりだったけどリツとは久しぶりじゃない気がちょっとした」

いや私は久しぶりって言うより初めましてな感じがしたけど。それに昼間も感じたものすごい違和感だ。リツ、と呼び捨てにされることに。

「…私の事、むかしはそんな風に呼んでなかったよね?」

「なに?」と言って彼は嬉しそうにちょっと笑った。「むかしみたいにりっちゃんて呼んだ方がいい?…でもオレは逆に何かちょっと恥ずかしい。りっちゃんにりっちゃんて呼んじゃうと、何か自分が小さい時のままのような気がしてきそうなんだよね。年下で小さくて。だから敢えてリツって呼んでみたんだけど、ごめん、やっぱりいきなり過ぎたかな」

今でも年下じゃん。

「どうしても呼んでって言うんなら、恥ずかしいけど『りっちゃん』て呼ぶけどさ」

ん~~と心の中で私は唸る。

 「オレはリツって呼びたいな。ヤだ?」

 気持ち悪っっ!!


 この人どういう気なんだろう。どういう気持ちで今になって尋ねて来て、その上電話までかけてきてるんだろう。懐かしいって言っても、よく遊んでいたのは私が小1、彼が幼稚園の年長組の時だけだったし、同学年でもないからたいした思い出もないし、同性でもないからそこまで話盛り上がらないだろうし…

「ダメ?」私が答えずにいたので彼がもう一度聞いてくる。

 ん~~とまた心の中で唸る。


 もしかして母さんが言ったように、この人私の事が好きなのかな…

 …いや!いやいやいやいや…引っ越してから1回も会ってないし電話も手紙も交換してない。引っ越す時だって私は前もって知らされてなくて、明日引っ越します、みたいな挨拶をお母さんとしに来ただけだった。

 昼間見た彼は結構かっこ良かったし、わざわざ10何年も会ってない幼馴染を尋ねて来て親睦を深めなくても、彼女や女友達だって当然いると思うけど…しかもたくさんいそうな気もするけど…

 何かの詐欺とか?それか誰かにやらされてる罰ゲームとか?

 ひどいな、それだったら。


「答えてよ」と彼が言う。

心なしか甘い声に聞こえる。

 だめだ、やっぱり気持ち悪い!

 彼の見た目が結構格好良かったから、私はたぶん電話を切らないでいるのだ。これが生理的に受け付けない相手だったら、もっとずっと気持ち悪く思って用心するに決まっている。この電話にしても居留守を使うか1,2分で切っているだろう。

 私は見た目で人を判断している。駄目だな。


 彼が明るく言った。「まぁダメでもオレは呼ぶけどね!」

「え…と、今日来てくれたのも本当に急だったし、嬉しかったけど、長い事会ってなかったから何て言うか…」

「何て言うか?」と彼が先を促す。

「うさんく…じゃなくて、信じられないっていうか…」

ハハハ、と彼が笑った。「りっちゃんぽいコメント」

私のどういう感じを、この人は記憶してるんだろう。でも今、りっちゃん、て呼んだ。なんとなく少し嬉しくなるから不思議だ。最初から『りっちゃん』て呼んでくれていたら、ここまで気持ち悪くは思わなかったような気がする。


「あ~」と彼が言った。それからしばらく黙っている。

「どうしたの?」今度は私が聞いてしまう。

「そういうとこが好きなんだよ。むかしからずっと」

「…」

だめだぁ!…やっぱ気持ち悪かった。ちょっと持ち直したのに。

 好きなんだよ、とかさらっと言えるようなヤツになってしまったんだな。少し恥ずかしがりやで可愛かった男の子が…何だろう…すごい喪失感を感じるんだけど。さっき『りっちゃん』て呼ばれて少し嬉しかっただけに落胆が大きい。


 前の彼氏にだって、そうそう好きだよなんて言われなかった。言われて嬉しい言葉だけれど、そう親密でもない間柄で言われると、相当女の子慣れしているか、やっぱり詐欺とかそういう騙す目的があっての事じゃないかと思ってしまう。

 しかもそういう所ってどういうとこだよ?久しぶりに訪ねてくれた幼馴染をうさんくさいって言ってしまいそうになる所か。


「じゃあどうする?」と彼が言う。「映画」

あ~まだ誘うんだな。好きって言って、映画に誘って、…そういうのって、まともな人ならながい事会っていなかった幼馴染をアポ無しで急に訪ねてきてする事じゃあ…ないよね?

 ここは断るのがもちろん正解だ。第一、映画を観るにも何を観るんだ?久しぶりに会った私達は、現在のお互いの趣味嗜好を知らない。趣味だけじゃなくて何も知らない。

「私日曜日が休みじゃないんだよ。土日休みの仕事じゃないの。だから…」

「知ってる。休み月曜でしょ?それとだいたい木曜日」

「何で知ってるの?」

「ん~と、聞いたから?」

誰にだよ? ほんとに!気持ち悪いな。



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