不安定 2
「リツはさ」とハルちゃんが言う。声が怒った感じではなくなった。「リツは自分より小さいオレの事連れていろいろ面倒見るの、本当は大変だったでしょ?」
「ん~~でもそれも嬉しかったんだと思うよ?」
そうは言ってみるものの今手を握られている事が小さい頃に戻っているような、そんな懐かしい温かな感じはしない。ハルちゃんの手がむかしと違って全然大きいし、むかしは握られる方じゃなくて私が握る方だったし、不自然にあんまりギュッと握られているのとで、私はさっきハルちゃんに黙りこまれてしまった時よりもそわそわする。
「オレにお姉ちゃんて呼びなさいって強要してきた事、何度もあったよね?」
「…」恥ずかしいな。
「お姉ちゃんじゃねぇのに、ってオレは思ってた」
でしょうね。
「オレよりしっかりしてねぇのに、って思ってた」
マジで!
あんまりがっちり手を握られているので、そこに意識が集中して来て少しずつドキドキもしてきた。ダメだ考えたら。でもいろいろ考えてしまう。
普通にこういう事をされたら、例えむかし仲の良かった幼馴染でも、今凄く好きじゃなかったらもっときちんと断るべきだ。実際断ったし嫌がってみたけど、なんだかんだ言いながら、そして泉田先生が好きだとか言いながら、私は結構この人を受け入れている。再会してからずっと、胡散臭いとも思っているくせに。
こういうのって自分自身でもすごくいやらしい感じがする。
好きな人が別にいるけどその人には相手にされないところへ、かっこ良くなって再会しに来てくれた幼馴染がすごく好きだって言ってくれてるから、結局その人の事を受け入れる…嫌だとか、他に好きな人がいるから、とか言いながらも受け入れる。
…すごく嫌な感じだ。
どうするんだろう…この人は私の事を好きだって言ってるわけだけれど、手を繋いで夜道を歩いて送ってもらったりして、いったい私はこれからどうするつもりなんだろう。しかもカーディガンまで羽織らさせてもらって。
他の人から見たらもう付き合ってると思われても仕方ないような気がする…
泉田先生の事を好きじゃなくて、元彼に他の女の子を選ばれて別れたりしてなかったら…それでハルちゃんがあんな風に私の所へ現れたとしたら、私はもっと普通にハルちゃんを受け入れたんだろうか。
想像してみる。ドアチャイムをいきなり鳴らされるところからだ。
…でもやっぱないよな。15年も会ってなくてずっと好きでいてくれたなんて、こうしてる今だってやっぱり信じられない。
それが本当だったら、いったいハルちゃんはどんな感じで、どんな風に私を好きでいてくれているんだろう…
ハルちゃんが急にまたムッとした声で言った。「何か急に素直になってくれたけどさ、もしかして今オレの手を泉田先生の手だと思って繋いでない?」
「ううん!」慌てて首を振る私だ。「そんな事思ってなかった」
「本当に?じゃあ何考えてた?」
「…」それはちょっと言えない。
「ホラ何?ちゃんと言って」
「…うん…ねぇちょっと強く握り過ぎだよ。痛い」
「あぁごめん…わざとやってる」
そうか泉田先生の手か。そういう考え浮かばなかったな、でもきっと…
「泉田先生の手はハルちゃんのよりずっとごついよね?」
そう言ったら痛いほど握られていた手を急にバッと離された。すぐに二の腕をガシッと掴まれてハルちゃんの方へ乱暴に体を向けられる。びっくりしたし掴まれた所が痛い。
「もしかしてオレの事わざと怒らそうとしてんの?それか、何?なんか小悪魔的な感じでも出してみようとしてんの?」
「違うよ。違う違う!」
「それはそれで可愛いけど…そうなったらもうチュウまでОKって事だからね」
「…いやマジ何言ってんの。…ほんとはすごくそわそわしてるんだよ私。別に手ぐらいね、いいって思うんだよ。私付き合ってる人もいないから、手を繋ごう、って言ってくれるのだってありがたく思わなくちゃいけないんじゃないかとも思うんだけど、でも男の人と手を繋ぐって久しぶりだし。それにハルちゃんの手、大きくなってるから小さい時とは全然…」
「見た事あるよ」
「…何を?」
「リツが彼氏と手を繋いでるの、見た事ある」
「…どこで…」
「奥田先生に似てるよね?前の彼氏」




