思い出すのは 3
「はい」と言ってハルちゃんが手を差し出す。
そんなにニッコリされても「はい」とか言って私も手を出す、みたいな事は出来ないからね。
「アレ?出さないの!」ハルちゃんはおかしそうに笑った。「この流れだと手ぇ繋いでくれるのかと思うじゃん。ひどいな!!まぁそういうとこも好きだけど」
「ほらね」と、またため息をついてから私が言うと、ふん?という感じでまた私の顔を覗き込む。覗き込むのも止めて欲しい。
「そういう感じですぐ…好きとか言うじゃん」
突っ込むこっちが恥ずかしい。
「…そりゃあ言うよ。頑張ってるって言ったじゃんオレ。ずっと離れてたしね。ちゃんと言っていかないと」
ちょっと口ごもるハルちゃん。あれ?そこはちょっと恥ずかしがるんだ。良くわかんないな、この人。
「オレはちゃんと言う事に決めてリツに会いに行ったの。恥ずかしいけどほんとに頑張ってんの!…そういうわけで繋いでいいよね?」
ハルちゃんが私のグーのままの手を握ってこようとする。うわぁぁっと思って慌てて手を引っ込めようとして、少しよろけてしまった。
「ほら、やっぱ酔ってんじゃん。結構呑んでたもんね。ほらって!もう~グー止めてよ。深く考えなくていいじゃん、むかしに戻ったと思って繋いでよ」
「いや、でも…」
「でも何?そんなに嫌なの?オレの事」
嫌なのか嫌じゃないかというと、実はそこまで嫌じゃない。今でも十分胡散臭いとは思っているが確かに私たちは幼馴染なのだ。むかしは本当によく手を繋いでたし。
でもおかしいよね?もう私たちは子供じゃないんだから。
大人はそう簡単に手は繋がない。好きな人とじゃないと手を繋いで歩いたりしない。少し恥ずかしかったが私はそう説明した。もったいぶってると思われるのも嫌だけど、と前置きをしてから。
「ちょっともう1回言ってみて?」とハルちゃんが言う。
聞いてなかったのかコイツ!私はあんたみたいに恥ずかしい事何遍もは言えないんだって。
だからね、もう小さい子供じゃないんだから、ともう一度言いかけると、そこじゃないから、と言う。
「好きなヤツとじゃないと手を繋いで歩いたりはしないってとこ」
「…」
「じゃあ手を繋いだら、それはもう結構好きって事だよね?」
「…」
「わかった頑張るよ」
「…すぐそんな事ばっかり言うけど…ハルちゃんは?結構誰でもすぐ繋げるの?」
「ちょっ…と、…それももう1回言ってみて」
「何言ってんのさっきから」
「いいから言ってみてよ。誰とでもすぐ繋いだら嫌、ってとこ」
「言ってない!」首を振る私だ。「そんな事言ってないって」
「なんか…言ってる事が次々気持ち悪いよ?酔っ払いだね」
そう言うとハルちゃんはケラケラと笑った。
「そうだよね。結構オレ気持ち悪いよね。じゃあオレが力入れないようにするから、リツから握るのもやっぱダメ?」
「いやマジでハルちゃん気持ち悪いよ。何でそんなに手を繋ぎたい?」
ハルちゃんは何も言わずに少し下を向きそれきり黙ってしまった。
あれ?どうしたんだろう、この反応。よくわからない。
ハルちゃんが黙り込んでしまうと、少しだけ不安になってくる。
そっと私たちの上に浮かぶ半分の月を見る。住宅街なので20メートルから30メートルおきに街灯がともっている。さっき自転車が一台私たちを追い抜いていったが今人通りはない。
そわそわする。何か喋って欲しい。
手ぐらい、と自分でも思う。手ぐらい簡単に繋いじゃってもいいんだと思う。
だって『手』だもん。別にチュウするわけでもないし。
この歳になって彼氏がいなくて、手を繋ごう、って言ってくれてる男の人がいたら、特に嫌な相手ではない限り手は繋いどくべきなんじゃないかと思う。
いつもより頑張った格好しても見て欲しい人にまるで見てもらえなかった私のような者は、逆にありがたいと思わないといけないのだとも思う。
でも繋げない。
意固地になっているのだ。急に現れてうまい事ばかり言う幼馴染に。
だんまりになったハルちゃんの空気と二人きりの夜道というシチュエーションにそわそわしたまま、負けてしまった感じで言ってしまう。
「ねぇ、急に黙りこまないでよ」
「…うん」
やっぱり黙っている。
少しひんやりとした空気が余計私をそわそわさせる。静かな通りに私たちの歩く音だけが聞こえる。
さっきはせっかく少しは素直な気持ちでありがとうって言えたのに。やっぱり一人で帰れば良かったとまた思ってしまう。
私がむかしハルちゃんの手を握って歩いていた頃には、夜っていうシチュエーションはなかった…夕方はあったけど、その時の私の不安な気持ちを急に思い出す。
私はその時とても焦っていた。ハルちゃんの手を強く握って。早く、暗くならないうちに連れて帰らなきゃと思って。




