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思い出すのは 2



「オレは今のも普通のも好きだよ。ほんと困るよ。可愛いよ」

「止めてって」私はため息交じりに言った。「もうほんと止めてそんな事ばっかり言うの。会ってからそんな風な事ばっかり言ってくるよね?そういう事言うと簡単に喜ぶ子もたくさんいるかもしれないけど、私は逆だからね。信じらんないもん、そんなに簡単には」

「簡単には言ってない。他の女の子には言ったりしないし。…ほんと困るんだって。他のヤツ好きでその事愚痴って来てるのに、それも可愛いなって思っちゃうところが困る」

「…」

 すごいなこの人。言葉を失くしてしまう。「…なんかそういう事恥ずかしげもなく言えるなんてほんとすごいよ」

私は素直にそう言ってしまった。15年ぶりに会って、まだそんなにたたないのに。酔ってないって言ったけど、酔ってないのにそんな事言えるなんてびっくりする。


「すげぇ恥ずかしいんだって!言ってんじゃん、さっきから。オレはこれでもものすごく頑張って言ってる」

「そんな風に見えないよ。何か…言っちゃ悪いけどいろんな子に何万回もさらっと言えてそうだよ、今の言い方だと」

「…ん~、そっか。けどそれをオレに言うの酷いよね」

酷いと言いながらもハルちゃんは笑ってくれた。

「うん、ごめん。だから言っちゃ悪いけどって前置きしたじゃん」

本当は悪いなんて思っていない。私が感じている本当の私の気持ちだから。

「駄目だよ。そんな前置きしても。罰として今度ドライブね。計画立てて連絡するから」



 店を出てすぐは肌寒かったが、酔った体で歩いて少し熱くなってきた頬に、春のゆるく透き通った風が当たって気持ちいい。

商店街を抜けて大通りを渡り住宅街に入る。

 空を見上げると真上にちょうど半分の月とその周りに散らばる星。つぶらに光る星、小さく瞬く星、もっと小さい星がいくつか固まってる光も…どれもみんな、全部が全部、とても綺麗に見える。お酒のおかげで少し体もふわふわして気持ちいい。

 そうだよね。一人で帰ったらこんなに空を見たりしては歩けない。人通りの少ない所で街灯の間隔が開いていたりすると、夜道を一人で歩くのはやっぱり少し心細い。

「あの…ありがとう」私は一応お礼を言っておくことにした。「…いろいろ言った事や、泉田先生の事はまぁアレだけど…送ってくれてる事はありがとう」

 カーディガンも借りてるし。ハルちゃんは駅のそばに家があるような事を言っていたから、私を家まで送った後、また商店街へ戻って駅の方へ帰らなければいけない。

 駅のどの辺なんだろう。塾の近くかな。塾長の家はどこなんだろう…遊びに来いとか言ってたけれど、塾長の言う事も本気か冗談かわからない。

 あ、まずい。塾長の書いたケイタイ小説思い出した。ハルちゃんは読んだ事あるのかな。

 歩きながら黙り込むのも居心地が悪いのでいろいろ質問でもしようと思うけれど、ダメだ、やっぱり止めておこう。

 


 けれどハルちゃんが私のお礼の言葉に返事をしてくれないので少し気まずい気持ちになる。お礼の言葉にしてはちょっとぞんざいな言い方だったかもしれない。その前にも結構思った事そのまま言ってしまったし。少し心配になって左側を歩いているハルちゃんの顔を覗き込んでしまう。

 やっぱりちょっと言い過ぎたかな。…言い過ぎたっていうか思った事をそのまま言ってるから言い過ぎじゃないんだけど、と自分の味方も当然する。

 ハルちゃんが落ち着いた声で言った。「手ぇつながせて」




「手を繋ぎたいんだけど…ダメ?」

ハルちゃんの言葉に立ち止まり、反射的に左手はグーを握ってしまう。

 それに気付いたハルちゃんが今度は私の顔を覗き込んで「もう~~」となじって言った。

「いいじゃん、暗いしだれも見てないよ」

「見てるとか見てないとか関係ないよ」

「今ありがとうって言ってくれたのに」

ありがとうはありがとうだよ。

「むかしはいつも繋いでくれてたじゃん。いつもリツからオレの手握ってくれてたのに」

「小1とか小2の話だよね?」

「でもオレは今でも、いつだってあの頃のリツの手の感触を思い出すよ」

「…心配だったんだよ」

「何が?」

「いつも手を繋いでたのは。私が本当のお姉ちゃんじゃないから。ちゃんと私についてきてくれてるか、一緒に来たくて来てんのかいつもちょっと心配で手を繋いでた」



 まじまじとハルちゃんが見つめて来る。そして小さな声で、すごい事言うね、と言った。

「すごくはないでしょ?ハルちゃんだって無理矢理連れられて、嫌だな~って思う時も実はいっぱいあったんじゃないの?」

「今のはすごい来たよ」

すごい来る?「何が?」

「胸に何かすごいのがぐぐっと来た」

 何が作動してそうなったんだ。


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