思い出すのは 1
結局今夜の歓迎会に参加したのは失敗だったんじゃないかとも思ったが、私がいようがいまいがミノリ君はみんなに私の返信を見せただろうし、ハルちゃんも泉田先生により余計な話をしたかもしれない。変わらないのはどっちにしろ私が泉田先生とは縁遠いという事だ。
どうにかフェイントをついて全速力で走ってでも一人で帰った方が良かったんじゃないかとも思ったが、ハルちゃんが自然と私の左側を歩いてくれているのに気付いた。車道側を歩いてくれているのだ。
私が縁石に躓きそうになった時にも軽く腕を掴んで避けさせてくれた。
「リツは一見しっかりしてそうにも見えるのに、いろんな事に気が付いてないよね」
「しっかりはしてないよ。どんくさいよ私」
小さい時ハルちゃんと遊ぶ時はすごくしっかり出来るように頑張ってたけど。
「リツさぁ、津田先生と高橋先生にも気を付けて」
「…何の事?…あ~津田先生、マキちゃんの事気に入ってるっぽいもんね」
私は津田先生が苦手だ。津田先生は高校の英語担当なのだが、やたら普通の会話にも英語をネイティブ発音で入れて来る事で有名だ。帰国子女なので発音はバッチリなのだが、全体を通した喋りがイライラすると喋った事のある人は必ずそう思うらしい。
私も2,3回しかちゃんと話した事はないがそう思ってしまった。
津田先生はマキちゃんを気に入っていて、それでも本人の前でその理由を「ちっちゃい女の子が好きだから」と言ってしまいマキちゃんには嫌われている。まぁ当然の結果だ。
「まぁそうだけど」ハルちゃんが言う。「そうじゃなくて…気付てないの?高橋先生、リツの事好きな感じじゃん」
「マジで!…いや、そんな話聞いたことないよ今初めて聞いた。何言い出してんの?あり得ないあり得ない。絶対にあり得ない」
私は高校生数学担当の高橋先生の神経質そうな、銀縁の眼鏡をかけた顔を思い浮かべる。その銀縁眼鏡が印象強くて輪郭はわかるが顔ははっきりとは思い浮かばないくらいだ。ほとんど喋った事もないので本気でハルちゃんの話を否定した。
「だって結構今日見てたよ、リツの事」
「見間違いだよ、そんなの。高橋先生はもっと繊細な女らしい人が好みだと思うよ、雰囲気的に」
「いや、そんな事ないよ。結構今日そういう話仕入れたし、オレは独自にチェックもしてたから。飲み会の最中もリツたちのそばに行こうとしてたみたいだけど奥田先生が先に座ったからね」
「何?何が目的?」つい聞いてしまう。「ハルちゃんは何?私モテモテ!って私を勘違いさせようとしてんの?それか喜ばせたいの?私そんな事では喜ばないけどな。それともやっぱバカにしてんの?全然面白くないからね!」
私が言うと「まぁいいよ」とハルちゃんは言う。
何がまぁいいんだ?じゃあ最初から言うな、と思う。
「じゃあリツはオレと奥田先生と高橋先生だったらどれが好み?」ハルちゃんが聞く。
こいつ私の話を聞いてないな。
「だから私は高橋先生とは喋った事もないんだって。高橋先生は絶対に私の事を好きなんかじゃないよ。それに私は…」
「私は何?やっぱ泉田先生の事が好き?」
聞かれて黙り込んでしまう。今日だってこんな格好して来ても全然相手にされなかったのに。
「私、わかってるんだよ」悔しいのでつい言ってしまう。「泉田先生は巨乳でお色気がムンって感じで、体中から女のフェロモンが出てるような人が好きなんだよ。私ちゃんと知ってんの。今日だってこれでも結構がんばったんだよ私にしたら。持ってる中で一番短いの着てきたし。化粧だっていつもよりは力入れたんだけど」
普通だったらマキちゃん以外の人にこんな愚痴言わない。でもハルちゃんが高橋先生まで持ち出して変な事を言ってくるから正直なところを言ってあげるのだ。
「うん」とハルちゃんは相槌を打ってくれる。
「どうやっても無理なんだよね。泉田先生の好きなタイプと私は全然違うのわかってんの。…あ~~…私ももっと巨乳だったら良かったのに」
「…」
「頑張ってる感出すのはやっぱ恥ずかしいよね。もっと普通にしてきたら良かった。みっともないよね私。わかってんだけどいいの、今夜のこれはこれでいいの!」
ハルちゃんにも夕べ電話で言われたのにね。でもハルちゃんの言う事なんか聞きたくなかったよ。今でも聞く気ないっつの。




