帰り道 2
「大丈夫だよ」私は力なくハルちゃんに言う。「送ってくれなくても。まだ時間早いし、家までのとこで危なさそうなとこないから」
「弟ってどんな人?」
「…?」
「牧先生の弟ってどんな人?リツの事気に入ってるって」
「あ~~…さっきのあれはマキちゃんが面白がって言ってるだけだよ。2回くらいしか会った事ないもん」
「オレが聞いてんのはどんな人って事!」
「マキちゃんの弟はなんと、マキちゃんと双子なんだよ。双子の弟がいるって、なんかすごいよね。結構似てるんだよ。顔はそこまでじゃないんだけど雰囲気が似てるなって…」
「マジか…年下かと思ったのに。で?牧先生の弟はなんでリツを気に入ってんの?」
「今言ったじゃん、マキちゃんが面白がって言ってるだけ。それよりも私、マキちゃんの事心配だよ。泉田先生にも頼まれたのに…無責任だと思われちゃう」
「いいじゃん、その弟さんに迎えに来てもらうって言ってんだから。何、リツも一緒に送って欲しかったの?その人に」
「マキちゃんとラーメン食べに行くとこだったのに」
「心配だよ。リツ酔ってんのに」静かに言われる。「送らせてよ今日ぐらい。今日もダメなの?」
マキちゃんは小さい影になって向こうの角を曲がって行ってしまった。結局ハルちゃんに促されるように歩き出す。
「それにオレのカーディガン着てたから」
「ごめん、店出る時返そうとは思ったんだよ。でもホラ、ハルちゃん囲まれてたから。話に割り込んだら悪いかなって思って。パクろうと思ったわけじゃないんだよ。やっぱり返すよ」
「いいって!着といてって言ってんじゃん!」
語気が強くてビクッとしたが、その後、ふっ、とハルちゃんは笑って言った。「泉田先生や奥田先生の手前、オレだけ帰れないかなとは思ったんだけど、リツがオレのカーディガン着てんの見たら、もう嬉しくて追いかけてきた」
「…」
「ちゃんと着といて」
「…でも…いいのかな…みんな…っていうか女先生たちがかなり残念がってると思うな。ハルちゃんモテモテだったもんね。せっかくみんなで楽しそうにしてたのに。今頃すごい残念がってると思うよ。下手したら誰も2次会行ってないかも…」
「楽しそうにはしてたけど、オレは楽しくはなかったよ別に。リツと離れてたから。リツのそばには座れないしさ、周りの女の先生たちは結構きつい香水付けてるしさ、実際、酒よりもそっちで悪酔いしそうだった。リツはずっとチラチラ泉田先生を見てくるしさ、いつもより化粧もしてるしさ、短いワンピース着てるしさ、ほんとオレはずっとイラついてたよ。まぁリツから泉田先生を離すためにしょうがなかったんだけど」
「…せっかく言ってくれてたんだよ泉田先生、一緒に呑もうって。そんな機会滅多にないのに」
「それは何?」ハルちゃんの声がイラついている。「わざと言ってんの?オレに。オレはリツの事が好きなんだから泉田先生のそばに座らせたくないの当たり前の事でしょ?」
「…そんな!…そんな事わざわざしないでも泉田先生は私の事なんて何とも思ってないよ」
「泉田先生がどう思おうが関係ないよ。リツが泉田先生を好きなのがオレには問題なの!恥ずかしいからそんな事まで言わせないでくれる?」
「…」
「奥田も邪魔するしね」
呼び捨てか。
「でもすげぇ嬉しくて」
「…?」
「オレのカーディガンちょっと大きいのに着ててすげぇ可愛いから。今日ほんと歓迎会あって良かったなって思ったね。もう速攻で出て、追いかけて来た。今日の格好、すんごい可愛いよほんと」
服装を男の人に褒められるのが久しぶり過ぎて、飲み会での邪魔とかいろいろ問題のあるハルちゃんなのに顔が赤くなってしまうのが自分でわかる。夜で良かった。
「写真撮って飾っときたい」
「はぁ?そこまで言うと完全に嘘に聞こえるよ」
「オレ今日スマホ持ってないから、リツの貸して。オレ撮るからさ、帰ったらオレに送ってよ」
ぶんぶんと首を振る。「ヤだよ、そんな事しない。でもハルちゃんもあんまりケイタイ持つの好きじゃないの?私もあんまり…」
「持ってると連絡先すぐ交換しようとしてくるから。断わるのがめんどくさい」
「…女の人に、って事?」
すごいな、そうなんだ。
「すごいね!」と正直に感嘆してしまう。「モテモテじゃん、すごいすごい。私なんてマキちゃんとかともメールしないから。マキちゃんゲームは好きだけどメールとかするのは嫌なんだって。だからほんとにあんまり誰とも…」
「ミノリとは毎日メールしてるよね?ミノリがオレと奥田先生に自慢してきた」
バカだなミノリ君…




