ぐだぐだ感 2
奥田先生がゆっくりと立ち上がった。「向こう行きましょう」
ハルちゃんとミノリ君を促す。「ホラ、立って立って、楠木先生たち。中野先生は牧先生とゆっくりしたいですよね?ほらほら、行きましょうって」
いつになく強気の奥田先生だ。「泉田~~」と泉田先生を呼ぶ。
奥田先生が少し声を張って呼ぶと泉田先生が「なんじゃあ?」と答えた。
「今からそっち行くから~。楠木先生たちも」
ご機嫌な泉田先生の返事が聞こえた。「おう~~」
それにかぶさるようにご機嫌な女先生たちの喜びのザワザワ声も聞こえる。
「牧先生と中野先生はゆっくり女子会してて下さい」
奥田先生がにっこりと笑いながら、ハルちゃんとミノリ君を追い立てるように泉田先生の席へ移って行った。
「面白いねぇ」とマキちゃんが言う。
「面白くないよ。マキちゃんも嫌な感じだったよ、今日ずっと」
「そう?」と言ってマキちゃんは笑う。
私はハルちゃんが置いていった紺色のカーディガンを膝に掛ける。向こうに行く間際、ハルちゃんは上に羽織っていた薄い麻の7部丈のカーディガンを脱ぐとそれを私に放ってきた。「ちゃんと膝に掛けて」
見せんなって事か?
私だって脚出していいじゃん。肉感的ではないけどたまには脚出したいんだよ。泉田先生にちょっと見てもらいたかっただけなのに。
「それ、最後までかけててよ」ハルちゃんが言った。「他のヤツに見られるの嫌だから」
「え?何なに?」1回立ち上がったミノリ君が身をかがめて下からのぞこうとするのをテーブルから前のめりになってハルちゃんが止めた。
「見んなって!ほら!先に向こうに移れ!」
「見せないでよ」とハルちゃんがもう一度言った。「そういうのはさ、オレとデートする時にだけ着てきてよ」
3人が去った後、マキちゃんがずっとニヤニヤしている。
「ニヤニヤしないでよマキちゃん。私本気で怒るからね」
「するよ。面白い。すごいじゃんリッチィ、モテモテだね。あんなカッコいい子に好かれてんのに、イズミィには全然気づいてももらえないとか、面白過ぎる」
そう言ってマキちゃんがゲラゲラ笑うので私はマキちゃんを睨みつけた。
「でもホラ」とマキちゃんが言う。「律儀にカーディガンを膝にかけてる」
「…ねぇ…マキちゃん的にどう?私のこの格好。自分では絶対おかしくないと思って、しかも持ってるワンピの中では一番短くて可愛い系なのに」
「だから良かったんじゃないの?嬉しそうにしてたじゃんハルカせんせぇ。触りたいって言ってたね?」
「あれは!あれはたぶんそういうの言い慣れてんだよ。やたら…その…好きとか言うし。そういう事さらっと言えたりやれたりするんだと思う」
マキちゃんはそれには何も言わず私を見つめて微笑んだ。
ハルちゃんが帰った向こうのテーブルは、ミノリ君まで加わったので余計ににぎやかになった。女子って本当に現金だな。
やがて幹事の石田先生が2次会の説明をはじめた。
泉田先生が行くなら行きたいけれど、私が行ってもどうせそばには行けなさそうだし、ハルちゃんがまた泉田先生のそばに行って、そして女先生たちがそれを囲んで…そんなの2次会でまで見せられたら、夕べのうちから服を決めて化粧の練習までした自分がますます哀しくなる。
いや、まだそれだけならいいけど、挙句に泉田先生が誰か女の子と帰るような現場を目撃したら大打撃だ。明日から仕事ができない。
…泉田先生はそんな事、簡単にはしないと信じてるけど…それにたぶん女先生たちはハルちゃんならついて行くかもしれないけど、たぶん泉田先生には誰もついては行かない。
泉田先生がどんなに格好いいかわかっているのは私だけなのだ。
それに元々、マキちゃんに聞いて欲しい事があるからと2次会行かない約束をしていたし…私はマキちゃんを見つめる。マキちゃんはミノリ君が向こうへ行ってしまった後、私の目の前に戻って座っていた。
マキちゃんに塾長の話をバラしたい。でも塾長がケイタイ小説を書いている話をしたら、ものすごく面白がって私とハルちゃんの事に絡んできそうだ。マキちゃんのそういう、邪心のない面白いと思うものを追求する小悪魔的な感じはどちらかというと好きだけれども、今回はやっぱり、話すの止めとこうかな…。でも誰かに話したい…




