宴もたけなわ 1
「お~~りっちゃ~~ん~~、奥田~~」
ざわついた席の中で泉田先生の声が聞こえた。
今私を呼んだ?
「りっちゃ~~ん~~、奥田~~」もう一度。
今度はちゃんと聞こえた。
ふわあああああ、やっぱ私を呼んでるよ。来いって事?やっと呼んでくれたの?そう思いながら私はあせってガタっとちょっと立ち上がりかける。が、泉田先生は続けた。
「牧があんまり飲み過ぎんよう、見てやってぇよ~~」
奥田先生が、わかった、という感じで片手を上げて見せたが、ちっ、と私は舌打ちしてしまい、え?という顔で奥田先生が私を見てくるがもうどうでもいい。
マキちゃんの心配か。泉田先生め。兄貴風吹かせやがって。マキちゃんいいなぁ…うらやましい。私の心配もして欲しいよ…私も芋焼酎浴びるほど呑んでみようかな。
それでも私は仕方なくもう一度中腰になり、持てる力を全て振り絞って自分で一番だと思う笑顔を泉田先生に向け手を振りながら、「わかりました~~」とちょっと高めの声で可愛く答えた。
「中野先生、」と奥田先生が柔らかい声で聞く。
この人は声だけじゃなくて、声の出し方も元彼に似ている。骨格や雰囲気が似るとやっぱり声のそういう感じも似るんだな、とぼんやりと思う。
「牧先生が酒強いのは知ってたけど、中野先生も結構強そうですよね?」
「あ~そうですか?」
どうでも良さそうな質問なのであからさまにどうでもいい感じで答えてしまう。さっきの泉田先生の、私の事なんてたいして気にもとめてないない発言にキレてしまっているのだ、しょうがない。一緒に楽しく呑もうって言ったくせに。楽しそうなの泉田先生だけじゃん。
たぶんこういう時は「え~そんな事ないですぅ。奥田先生こそお強そうじゃないですかぁ」みたいな感じが正解かなと思うが、面倒臭いしそんな返事して上げたくない。マキちゃんも丸無視だ。
もう私に構わないでくれないかな奥田先生。
そう思ったとたんに「僕は普通なんですけど、泉田なんか…」と奥田先生が言うので、今度は思い切り食い気味で先を促してしまった。
「え?泉田先生はどうなんですか?」
が、奥田先生は優しく頬笑みながら言った。「あ、これ泉田に言うの止められてた」
なんだよそれ…
じゃあ最初から言うな。それに僕は普通ってどう普通なんだ…
ぐだぐだとそう思いながら力なく、ちゃんと座りなおしてもう一度泉田先生を見たら、泉田先生、というかその周りにいた女先生がこちらを凝視しているその複数の目にぶつかって慌てて目を反らした。
私の肩に手が軽く置かれた。
「リツもあんま呑むなよ」
この後来るはずのミノリ君のために、私との間を開けておいてくれた奥田先生と私の間に、ハルちゃんは当たり前のようにぐいっと割り込んできた。私とマキちゃんは端に向かい合って座っていたから、私は端っこに閉じ込められた感じになる。
「何飲んでんの?」
そう言ってハルちゃんが私のグラスを取り上げ一口呑んだ。
私は泉田先生の方が見れない。女先生たちがこっちを睨んでそうだ。
「駄目じゃん!」ハルちゃんが私から遠ざけるようにグラスを置いてわざとらしく言う。「結構濃いじゃんコレ」
「濃ゆくない。ちょっと止めてよ。私の飲まないで!返してよ」
マキちゃんが笑っている。
「ちょっと…、何でこっち来たの?」
「酷いな!」
ハルちゃんは私の憮然とした問いにおかしそうに笑いながらそう答える。
全然面白くないし、全然酷くない。私から泉田先生を遠ざけておいて。
こっちに来るなら泉田先生も連れて来いっつの。




