くじかれる 3
「やだ~」「キャハハハ」「もう~ハルカせんせぇ~~」…ひと際高い、語尾にハート型でも何個か付いているような声が泉田先生のところの塊から聞こえてきた。ちょっと睨んでしまって、それをマキちゃんに指摘される。
「心配なら行っておいでよ」
「行けるわけないじゃん!何で来たの?って目で全員に非難されるよ」
「でもさ、リッチィに何かリアクションとって欲しくてわざわざハルカせんせぇはあんな事してるわけでしょ?」
「知らないよ、そんな事。あんな風にすぐ女の子も寄って来る感じなのに、なんで15年も会ってなかった私に構うのかも胡散臭い」
「そっか~それで素直になれないんだな?」
私はゆっくりと首を振った。「マキちゃん、もうハルちゃんの話はいいよ。それよりも私、塾長の事で秘密の話持ってんだけど、それ話したくてたまんなくて…だからこの後話していい?誰にも秘密だよ?」
あ~~でもこの話をしたら余計マキちゃんを喜ばせそうな気がする。
「いいよ、いいけどハルカせんせぇ、この後リッチィの事連れて帰りたいんじゃないかな」
とんでもなくキュートな笑顔で私に笑いかけながらマキちゃんは言った。
それにも私は首を振る。「あんなにモテモテじゃん、女先生たちに拉致されるよ、ほっとこう。マキちゃんさぁ、…マキちゃんさぁ」
「なに?はっきり言いなよ」
「…泉田先生だけこっちに連れて来れないかな?」
「無理だと思うよ?だってホラ、ちょっとずつエリカ先生の方ににじり寄って行ってるもんアイツ。エリカ先生はちょっとそれから逃げるような感じでさ。あからさまに逃げたらハルカせんせぇの手前よくないって思ってるから、我慢してる感じ。無駄な事やめりゃあいいのにねぇ?みんなハルカせんせぇ狙いなのに」
あ~~泉田先生ににじり寄られたいな~~。たぶんそんな事されたらにじり寄られた体の部分が、ドキゾワッてなるな。鳥肌立つような感じだけどそこが熱くなるような変な感じ。
この席の隣に泉田先生が座ってくれて「おぅりっちゃん、美味しそうにたべるのぅ」って言って私の口元をじっと見てくれる妄想に入りかけている時、「こんばんは」と、おっとりとした声が急に斜め上からしてびくっとしたら奥田先生だった。
「こんばんは」と私は答えるがマキちゃんは何も言わない。マキちゃんは黙って酒を呑む。
マキちゃんは2杯目から芋焼酎のお湯割りにレモンを絞り入れて呑んでいる。男らしいなマキちゃん。見た目とのギャップがすごく良いと思う。まぁ今日はなんとなく質問し過ぎのような気がするけど。
「一緒に呑んでいいかな」と奥田先生が聞く。
押しの強くもない、チャラさもない優しい声だ。でもあんまり好きじゃない。くどいようだが元彼に似ているからだ。
泉田先生のそばに行けない今、マキちゃんと二人、端っこで好きなだけ飲み食いしたいと思うのだが、奥田先生をあからさまには拒否できない。なんて言ったって泉田先生の友達だし。そうじゃなくても、グラスまで持って来て一緒に呑みましょうって言ってくれている先輩に嫌だとは言いにくい。
マキちゃんが冷やかすように言った。「積極的ですねぇ奥田先生。ごめんね私がリッチィの前に座ってて」
「いや、そんな事は」否定した奥田先生に嫌な感じはない。あくまでも紳士的だ。「お二人と飲みたかっただけですから」
「あのでも…」と私はおずおずと言ってみる。「バイトで入った楠木ミノリ君が後から来る事になってて、私が知り合いなんで、私のそばに座りたいって言ってくれてるんですよ。それでここに席を取ってるんです」
「あ…そう…」奥田先生が少しうつろな目で私を見るので大変気まずい。
たぶん新しい大学生のバイトの子より先輩講師を優先させるべきなんだろうけど、奥田先生に隣に座られるのも嫌なのだ。
「じゃあ、ちょっと開けとくよ」と奥田先生は言って、少し私と間を開けて席に座ってしまった。
…あ!泉田先生がこっち見てる!
ドキッとする。え?手を振ってる。泉田先生がこっちを見て手を振ってくれてる。嬉しくて飲みかけの梅酒ソーダをこぼしそうになる。
私にかな?…やっぱ私にじゃないな。奥田先生にだ。速攻で浮かれて損した。ハルちゃんと目が合うがただじっと見つめられる。
「実は僕は…この間…その…中野先生には断られちゃって気まずいような気もするんだけど、泉田がもっとちゃんと自分から少しずついろんな事話して仲良くなっていかなきゃ、って言ってくれるもんだから。ごめん。頑張って座っちゃって」
泉田先生め~余計な事を。




