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くじかれる 1


 ふん?と雇用主から、遊んでもらうのを待つ子犬のような顔で答えを催促されてしぶしぶ答える。

「代わりたいと思いました」

「ふん?」

「私が泉田先生と…その…、」言いかけてやはり恥ずかしくなる。

 でも塾長は私が泉田先生を好きな事を知っているし、早くこの面談を終わらせたいから結局言ってしまった。

「あんまりまだ泉田先生といろいろ話せないので、すぐに仲良くなったハル…楠木先生の事を羨ましく思いました。だから可哀そうとかより、何ていうかその、言いにくいんですけど…私が泉田先生と仲良くなりたかったのに、嫌だなと思いました…」

語尾が小さくなるし、顔も赤くなる。

「そうかそうか」塾長はうなずいた。「それで?今夜のためにちょっと雰囲気違うわけでしょ?」

「…はい」恥ずかしいが見たままなので認めた。

「泉田先生に見せたくてそんな風にしてきたのがわかったら、ハルカがまたね~…どんな反応をするか見たくて見たくて、なんかそういう感じの君らの様子を見るためにね、私も今夜行きたいんだけどね~。ちょっと用事があって」

「…」

「私も行きたいんだけどね!」もう一度塾長が繰り返す。「もうほんとに、君たちの事を見ていたいんだけどね~、うちの奥さんも見に行きたがってたよ」

「…」

「残念でならないね。中野さん、私の小説、検索してみた?」

「…いいえ」

 じっと5秒くらい見つめられる。

「いいえ、してません」もう一度答える私だった。

「そう?中野さん、今度うちに遊びにおいでって言ってたよ、うちの奥さんが」

「…」



 あ~~もう~~!…と思う。がやがや、ざわざわした居酒屋の奥まった座敷の端で、やっぱり私は泉田先生には見てもらえないとふさぎ込む。

 ていうか!一緒に呑もうって言ったじゃん!泉田先生~~。

 夕べの自分がかわいそうだ。バカらしくなって、今夜はたくさん酒を呑もうと思う。もういいや私は、マキちゃんとぐだぐだ喋りながら呑めればそれで。ここから泉田先生が食べたり呑んだりしているところも見る事ならできるし。まぁもっと近くで見たいけど。

 今、泉田先生は私から一番遠い席で女先生たちに囲まれていた。なぜなら泉田先生の隣にはハルちゃんがいるからだ。二人が座った席に、引き寄せられるように女先生たちが陣を組んだ。

「うわ~~」とマキちゃんが言ったが、私はもうただ泉田先生が女先生たちに囲まれて行くのを眺めているだけだった。

 唖然としている私と目が合ってハルちゃんがニッコリと笑った。



 ジーンズで来ればよかった。付けてるのか付けてないのか近くに寄らないとわからなくくらいのマスカラもいらなかったし。それでも普段付けていない私には今日一日ずっと瞼が気持ち悪かったのだ。こんな慣れない事してバカみたい。

 あ~~、泉田先生おいしそうにビール飲んでるなぁ。かっこいい~。

泉田先生が好きな、着飾ってキラキラしたおっぱいの大きなエリカ先生もいる。何かもう…いやらしいなエリカ先生。席に着いたとたん、羽織っていたストールを取ったけれど、もうたわわなおっぱいの割れ目がちょっと見えるもん、ここからでも。あれで今日授業したのかな。首から胸元にかけて何かキラキラしたの付けてるし。泉田先生がそのキラキラした胸元をチラチラ見ている。



 私は結構厚めのタイツを履いてしまった自分の、座ったがために膝から12センチくらい出ている太ももを見てせつない気持ちで梅酒のソーダ割りを飲んだ。

「すごいよね」と私の向かいに座ったマキちゃんが言う。「あそこ」

マキちゃんが言っているのはもちろんハルちゃんの周りの事だ。

マキちゃんは普通の、グレーのパーカーにジーンズ。それが正解だよマキちゃん。職場の飲み会に着飾ってくるなんてバカだ。

「あれはEだね」マキちゃんが言う。

エリカ先生のおっぱいの事だ。うんうん、とうなずく私。

「私もあれくらいあったら、もうこれみよがしにあんな格好する」と私が言うとマキちゃんがゲラゲラ笑った。

「それ、見たい見たい」

 そう言ってるマキちゃんも実はCカップくらいはあるから裏切り者だ。


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