準備 1
それにしても塾長はどんな病院をやっていたんだろう。
話を聞いたときに私の頭に浮かんだのは、森の中にある黄色い建物の病院だ。この、やまぶき塾と同じような真っ黄色の。でも黄色い病院てどうなんだろう。塾長は医師免許を持ってるって事?それで今は塾を運営しつつ、綺麗な奥さんに請われるままケイタイ小説を書いているのだ。
塾長室に行くと「はいはい」と言いながら私はソファにかけるように促された。
「あれ?」塾長がとぼけた感じで私を見て笑う。「何か今日はちょっといつもと雰囲気違うね~まぁ他の先生たちも違うけど、やっぱり歓迎会だとみんなちょっと気合い入るのかな」
そんな恥ずかしい事指摘しないで欲しいし、煩い、とも思う。
私には流されたらいけない、とか言いながら、私が泉田先生に呼び止められていた事をわざわざハルちゃんに教えていたくせに。
そう、今夜は歓迎会だ。
日曜日は朝から授業があるから夜7時には授業も終わり、次の月曜日が塾の休みなので「やまぶき塾」が塾を上げての宴会を開く時はたいてい日曜日の夜だ。私たちの週休2日の休みはその月曜日と、他の曜日をみんなで割り振って休んでいる。
生徒が朝からずっとざわついていた。
女の先生たちがやけに着飾って来ていたからだ。いつもはジーンズばかりの私だが私も今夜は頑張ってみることに決めた。ありのままの私を泉田先生が好きになってくれたらとか思っていたけれど、たぶんそんな日は来ないとここ何日かでしっかり把握できた。
ぽっと出のハルちゃんの方が泉田先生と近付いていってるし。しかも私が泉田先生の事を好きだからという理由で。
でも!泉田先生は確かに言ったのだ。「一緒に楽しく呑もうなぁ」って。ハルちゃんとミィ君の歓迎会だがそんな事はこの際どうでもいい。いつもとちょっと違う私をアピールしてみるのだ。今回はちゃんと頑張る。泉田先生に少しでも私を意識してもらえるように。
着飾り過ぎたり、やたら女を出し過ぎたりしたら、それはもう全くの私ではないから、「ちょっといつもと違う」っていうのがアピールどころだ。ちょっと、微妙に、いつもより可愛くした私。
正直、そうやって自分をアピろうとする自分が気持ち悪い気もして、朝化粧をしたきりなるだけ鏡や窓に映る自分を見ないようにしている。
昨夜を思い出してみるとさらに自分の事が気持ちが悪い。
昨夜、取りあえず面倒な事にならないように、ハルちゃんもミノリ君も控室に帰ってこないうちに私は帰り支度をした。早く帰りたかったのだ。
風呂から出た私は10分くらい鏡に映る自分の顔をじっと見て、心を決め着替え始めた。もちろん今日のための下準備だ。
持っているスカートの中で一番短いのを出してみる。
が、それでもそこまで短くはない。その、そこまで短くはないスカートを体に当て鏡を見る。ひざ上8センチかぁ。駄目だなこんなんじゃ。もっとパンツ見えるくらいじゃないと泉田先生に見てもらえないかも。…まぁパンツまでは見せないけど。でもこれより短いのなんてやっぱり履けないな。
結局、いつもはその下に細身のジーンズやレギンスを合わせて着る、少しヒラヒラした、やはり同じくらいの丈のワンピースを出して体に合わせ鏡を見て、それに決めた。紺色に白い小花が散らしてある柄だ。
これに素足や薄いストッキングだと、もしかしたら貧乳の私にも泉田先生の視線が注がれるかもしれないが、…う~~ん…それは無理だな。素足は無理。どんくさいからこんな時こそ転んだりしてパンツまで見えちゃうかもしれない。まぁこの際泉田先生には見られても全然いいんだけど、そこまでやってさすがに引かれたらイタすぎる。見せパンにしたら…やっぱ駄目だ。素足は無し。少し濃いめのタイツにしよう。まだ肌寒いし、自分もなんとなく安心するし、あんまりいつもと変わったら、例え誰に気付かれなくても挙動不審になってしまうかもしれない。
化粧も3回も試してみた。塗っては落とし、塗っては落とし。泉田先生が好きそうな感じにケバめにしてみて、自分でも自分の顔がおかしくなって慌てて落とし、次はちょっとだけケバくして「やっぱこれでもまだ違う」と思い、落そうとしている所へ母さんがやって来て「今からどこか出かけるの?」と聞いてきた。首を振ると家電の子機を渡された。
「リツの王子様から」そう言って母さんはニヤッと笑って見せた。
キモっ!




