でも現実は 3
塾長か…どういうつもりなんだ。
塾長の小説を思い出して私はぶんぶんと頭を振った。話のネタを探しているのかもしれない。
サンドイッチとデザートのパイナップルも食べ終えた頃、ミノリ君が控室に入って来た。
「あ、りっちゃんと兄ちゃん」
「おはよう」と私は言う。「今からバイト?」
「そうだよ。一緒にご飯食べたの?」
「…うん」
「仲良いね」
「…」
なんだろう…そんな言い方をされると何となく後ろめたさを感じる。最初は避けていたのに、もうご飯一緒に食べて、みたいな感じだ。
「あ、そうだ。ビイの卵の写真可愛かったでしょ?」
「あ~うん…」可愛いくはないと思うけど。泥みたいだったし。
「またメールしたの?」とハルちゃんが聞く。
「カエルが卵産んだって見せてくれた」
そう答えた私にミノリ君が自分の腕を差し出す。
「りっちゃん、ちょっと嗅いで?なんかやっぱ泥くさいような生臭いような臭いする?」
「え?ううん。しないよ」
そう答えたら顔をものすごく近付けられてビックリしてしまう。
「髪と顔にもビイの水がすげぇ飛んだんだよね。拭いて来たんだけどさ。ちょっと嗅いでみて?」
顔を?
「お願いりっちゃん」とミノリ君がニコッと笑って顔を近付けようとするのをハルちゃんが止めた。
「止めろって」
「にいちゃん、もう授業始まるんじゃないの?さっさと3階に帰ればいいのに」
「うるさい」
「でも本当に時間だから」と私が言うとやっとハルちゃんは立ち上がって控室を出て行った。
「お前、もうこれ以上余計な事すんなよ!」とミノリ君に言いながら。
ハルちゃんが出て行った後ミノリ君がもう一度言った。「仲良いね」
「サンドイッチ作って来てくれたって言うから。私の分まで」
「言うから?そういう風に言ったら断れないんだ?」
「…」
「それで今日帰る時に兄ちゃんが迎えに来たら?」
「…この間も断わったよ。送ってくれるって言ったけど」
「毎日誘われてるうちに、『ま、いっか』っていつかは思って一緒に帰っちゃうよ。兄ちゃんの部屋にね」
「ミノリ君は塾長と住んでるの?」
「話を変えたの?住んでるよ。兄ちゃんは別に部屋を借りたけどね。ホラ、兄ちゃんはモテモテだから。一人暮らしの方が何かとね」
「…」
黙り込んでいるとミノリ君はニッコリと笑った。「ウソだよ、りっちゃん。兄ちゃんはりっちゃんがすごく好きみたいだから」
「…」
「じゃあ、今日仕事終わったら僕と帰る?」
私は首を振る。
「そう?」と言ってミノリ君はニッコリと笑うと担当の教室へと出て行った。
日曜日、出勤したら控室の私の机にメモが貼ってあった。
「ちょっとまた来てもらえますか。あんまり時間取らないようにするから。桜井」
桜井?
すかさず斜め前の席のマキちゃんが教えてくれた。「塾長が貼りに来たよ~」
塾長か!塾長としか呼ばないからの苗字書かれても分からなかった。ハルちゃんたちとは苗字違うんだな。母方の祖父、みたいな感じ?
「何かあった?」マキちゃんが心配してくれる。
が、すぐに我慢できない、という感じでマキちゃんはちょっと笑った。
「塾長、何か言ってた?」
「ううん。何も」マキちゃんはやっぱりちょっと笑っている。
マキちゃんにいろいろ話して相談に乗って欲しいような気もするが、面白がりそうな気がして躊躇している。
マキちゃんに、塾長がこの塾をやる前に県北で病院をやっていた事やネットで小説を書いている事も教えたい。
「マキちゃん、今日飲み会の後2次会行かないで私の話をちょっと聞いて欲しいんだけど」
「いいよ~~」




