でも現実は 2
嫌だな…上がったテンションが急降下し過ぎて胃が痛い。
そうか、ここでまた奥田先生を薦めてくるか。それに綺麗で優しくちょっとエロい感じの女の人が好きなのは泉田先生でしょう?やだなぁもう。
確かに嫌だとは思ったが、『りっちゃんが嫌な目に遭ったら嫌じゃけん』、という泉田先生の声をそこだけ何回も頭の中でリフレインさせる。
けれどその、泉田先生がまたしても薦めてくれる優しい奥田先生に似ていた私の元彼も、別な優しそうなふんわりとした女の子の方に行っちゃったのに。私と付き合ってる時から、その子の事を気にしてたんだって、そんな事まで私にゲロしたあげくにだ。
嫌いだな。泉田先生も嫌い。そう思いながら泉田先生を今日はちょっと睨みつけてしまう。すると泉田先生は少し心配そうな顔になって言った。
「やっぱり奥田はダメなんかのぅ?やっぱりりっちゃんは奥田よりも楠木の方が好きなんか?」
「いえ、そういうわけじゃ…」私が好きなのはあなたなんですけど…という言葉は続かない。
そして休憩時間に駅ビルの中にあるカフェでサンドイッチでも食べようと、塾を出ようかなとしている所をハルちゃんに捕まった。
ご飯を食べに行く所だと断ると、ハルちゃんは手に持ったバッグを目の前に掲げて言った。
「サンドイッチ二人分作ってきたから食べよ?コーヒーも煎れて来た」
バッグから水筒も覗いている。
「私とって事?私の分をわざわざ作ってきてくれたの?」
「そうそう。…あれ?ご飯も一緒に食べたくないくらいオレの事避けたいの?」
「…」
「何で?もしかしてオレが泉田先生と仲良くしてるのが嫌なの?」
「そんな事ないよ!」
そう思っているから強めに否定してしまった。
「ならいいんだけどさ。じゃあ食べよ?おいしいよ。オレの作ったサンドイッチ」
…サンドイッチで思い出したけど、私はむかしハルちゃんに私が作ったおにぎりを無理矢理食べさせた事がある。三角に握れなくて凸凹に丸い、不格好な塩辛いおにぎり。
ハルちゃんがちょっと笑って言った。「オレ今一瞬、リツにむかし作ってもらったおにぎりの事思い出した。リツのお母さんいなくてさ、おやつがないってリツが作ってくれたやつ」
そしてハハハと笑う。「アレ?リツ、何でそこでそんなに睨むの?」
「何でもない」
1階の講師控室の私の机にハルちゃんは借りてきた椅子を持って来て私のすぐそばに腰かける。
結局食べる事にしてしまう私だ。一緒に食事に行こうと言われたら断れてたのに、二人分作って来たって言ってくれているのを無下にいらないと断れない。一緒に食べる事にしてしまった。
控室内にいた二人の女先生の目がチラチラと私たちを確認し続ける。とても気まずい。
「あの…ハルちゃん、今日はわざわざ作って来てくれてありがとう」
「どういたしまして。たくさん食べてよ?」
「うん。でも今日はわざわざ作ってきてくれたっていうから食べさせてもらうけど、でもそんなに一緒には食べられないよ。私たちは担当も違うし、休憩時間だって違う時も多いから」
他の先生たちの目も気になるし。
「あ~~…そうだね。じゃあ休憩時間一緒の時は一緒に食べよ?天気のいい日は屋上とかいいかもしんない」
相変わらず押しの強いハルちゃんにふるふると私は首を振る。
「リツ…」
「何?」
「オレが電話するって言っててしなかったの、気になった?」
急に話を変えられた。
「気にならなかった?」
気になった。
「ホラ」とハルちゃんがコーヒーを水筒の蓋に入れてくれた。「サンドイッチもたくさん食べてよ。どう?気になったの、ならなかったの?」
「気にならなかった!どうしてそんな事聞くの?」
ハルちゃんがニコッと笑う。
「もしかしてわざと?電話するって言ってわざと電話しなかったの?」
「ごめん。気にしてもらいたかったから」
「…バカみたい…泉田先生の事も…泉田先生に余計な事したり、私の事喋ったりするのも止めて。何話したの?」
「怖い顔止めてよリツ。むかしの事話しただけだよ。それより今日泉田先生に何話されてたの?」
「…」
「非常口の手前のとこで」
「見てたの?」
「オレじゃなくてじいちゃんがね」




