仲良くなりたい 3
「りっちゃん」と横から泉田先生が話を割ってくれる。「楠木たちの歓迎会、りっちゃんも行くんじゃろ?」
はい、と私は返事をする。
「じゃあ牧も来るよのぅ?」
「はい、マキ先生に一緒に行こうって言われたんで行く事にしたんです」
「牧は呑み過ぎるけんな、よく見てやってな」
「はい!」
よし!と言うように泉田先生が私にうなずいて言ってくれた。「一緒に楽しく呑もうなぁ」
え!?泉田先生と?そばに座って呑んでも良いって事?
「ありがとうございます!」と勢い込んで言ってしまうと、泉田先生が極上の笑みを私にくれた。
「リツ」ハルちゃんが不機嫌そうに言った。「電話するから」
木曜の休み、私は買い物をしたり、本屋に行ったり、いかにも彼氏がいない的な雑用しかない休日を少しもんもんとして過ごす事になった。
ハルちゃんが泉田先生に具体的に何を話したのかがやはり気になったままだし、「電話する」と言っていたハルちゃんから電話は来なかった。来たら来たで何で電話してくるの?と思ったはずなのに、なかったらなかったで、何で「する」って言ったのに電話して来ないの?と気になったのだ。
嫌だ気にしたくない。
とにかくもう下手に泉田先生と仲良くなって欲しくもないのだけれど、そんな要求口に出す事も出来ない。泉田先生は私の彼氏でもないし。私に二人が仲良くするのを止める権利はないのだ。…とかいうのは建前で、私が仲良くして欲しくないと思っている事を泉田先生にバレて、性格の悪いヤツだと思われたくないのだ。
…いやそれも違うな。
私が仲良くなれないのが悔しいのだ。私が泉田先生と二人で食事に行きたかった。
だいたい私がネガティブな性格なのがいけない。
泉田先生の好きなタイプが私とかけ離れているとしても、もっと積極的に近付こうとしてもいいはずなのだ。
そしてたぶん特に何もする事がないのがいけないのだと思うが、迷いに迷って塾長のネット小説を検索してしまった。
塾長から話を聞いてその日、塾長がどんなものを書いているのか、というか、塾長のあの、女神様みたいに綺麗な奥さんがどんな妄想を抱いているのか見てみたくなったが躊躇して結局止めたのだ。
ビイビイっていうペンネームはきっとミノリ君のカエルの名前から取ったんだろうな。
見た後、塾長を見る目が変な風になったらいけない。そう思ったのに…検索してしまった。
あった。短編長編合わせて30近くもあった。しかも18禁が多い。すごいな塾長。
…どうしよう。…どうしよう…と思って一番新しくアップされたものを開けてしまう。
失敗だった。
その話のあらすじは、「とある王国。王が急死して正室との間に後継がいなかったため田舎の侯爵家に預けられていた、隠し子である見目麗しい兄弟が王室に迎え入れられる。兄は王となり、侯爵家で自分に仕えていた没落貴族の娘を王妃候補として無理矢理後宮に入れるが、娘にはずっと想いを寄せていた侯爵家の門番の息子がおり、また若き王の弟も娘を我が物にしようと策略を練る。無くなった父王の正室である皇太后も絡んできて…」
しかも後宮に迎え入れられた娘がお披露目の晩さん会で、それも王の正室候補の侍女として仕事を与えられると騙されてやって来た娘が、いきなり人臣の前で無理矢理くちづけをされる場面から始まる。
塾長すごいな。そして塾長のあの綺麗な奥さんもすごい。
そうか…こんな風か…と思いながらも心がドキドキゾワゾワする。…よくわかんないし、こんな事思うのバカみたいかなって思うのだけれど、娘は私で門番は泉田先生なんじゃ…
私は頭をぶんぶんと振ってパソコンを閉じた。閉じないと続けて次から次に話を見てしまいそうだったから。
もう2度と見ないようにしよう。そしてちょっとのぞいたこともなかった事にしょう。
夜にミノリ君からメールが入った。
題名が「今日のビイ」
題名にもなっているのに写真にはビイがいなくて、写っているのは灰色と茶色の泥のようなものと汚れた藻がぐちょぐちょに混ざっている水のように見える。コメントはない。
「これなに?」と返信してみる。
すぐに返事が来た。「ビイの卵だよ」
卵か!「そうなの?あんまりよくわかんなかった」
「今度見せてあげるよ」
んん~~卵はあんまり見たくない気がするけど…でも見たいような…取りあえず、
「ありがとう。おやすみ」
「おやすみ~~~」
やっぱり可愛いなミノリ君。私も弟欲しかったな。




