仲良くなりたい 1
私でさえ、もうかれこれ半年近く地道に挨拶を続けたりと頑張って、泉田先生に近付こうと思ってさっぱり御近付きにはなれないのに、もうハルちゃんと泉田先生が一緒にいるところを見かけて、ひどく嫌な気持ちになる。嫌さと寂しさとせつなさの混ざった気持ちだ。
1階の、私の上司の主任に、3階の主任へ書類を回すのを頼まれて階段を上がって行こうとする時に、2階から並んで降りて来るハルちゃんと泉田先生を見たのだ。
泉田先生と仲良くしたいなんて、嫌な冗談で言ってるのかと思っていたのに、本当に仲良くしようとするなんて。しかもその理由が、私が泉田先生の事を好きだからって…。そういう事は泉田先生にも失礼だ。
実際二人並んでいるのを見て、「…ぁあっ」と驚きを口に出してしまった。
「おう、りっちゃん!」
「ふぇ?」
泉田先生の方から機嫌よく声をかけられて、さらに驚いて変な声を出してしまった。
「おはよ」とハルちゃんが爽やかな笑顔を見せるが、全く爽やかに受け取れない。
嫌な感じだな。どうやって話しかけたのかすごく気になる。私の事を持ち出してなきゃいいけど。
「りっちゃ~ん」泉田先生がニコニコしている。「新入り先生と幼馴染らしいのぅ?」
「…」嫌だやっぱり喋ってる。
「今な、りっちゃんの小さかった頃の話もいろいろ聞いたんよ」
え?
「ほんま、かわええのぅ」
泉田先生が今までで最も優しい笑顔を向けてくれた。しかも私の事を可愛いって…。
しかし純粋には喜べない。私の何を話したのだろう。
「良かったのぅ、りっちゃん。りっちゃんは人見知りじゃけぇど、な?こうやって職場にむかしからの知り合いがおったら心強えぇじゃろう?」
「…」
「ええのぅ。何年も会わんでも、こうやって大きゅうなってからもまた仲良ぅ出来るんはええ事じゃ」
泉田先生に言われると日本昔話の語りみたいでほっこりするが、ハルちゃんはどういうつもりで泉田先生と仲良くしようとしてるのかと思うと、心のままにほっこりなど出来ない。それにどんな話をしたんだろう。気になるけど聞けない。ハルちゃんを睨みつけてしまう。
超キモ。最悪。なんかすごく気分が悪い。私の小さい頃の事なんて勝手に話しやがって!
「でもなぁ」と泉田先生がニコニコしながら続ける。「りっちゃんの幼馴染だけあって楠木先生は偉いまじめじゃ。担当の階も違うりっちゃんが、わしの教え方がええ、て楠木先生に言うてくれたんじゃろ?それでいっぺん授業を見たい、言うてくれてな、いろいろ話おったんじゃぁ」
なんだろう…私にとって良いような悪いような…でもハルちゃんに泉田先生とやたら仲良くされるのはすごく嫌な気がするんだけど、それは私の心が狭いせいか?
揺れる私の気持ちを見透かすようにハルちゃんが聞いてくる。「今日、夕方の休憩、泉田先生と一緒に食べる予定なんだけど、リツも時間が合ったら一緒に行く?」
「…行かない」
今自分が結構嫌な顔をしているのがよくわかる。ハルちゃんの事もまた睨んでしまうが、ハルちゃんは私の睨みなどお構いなく普通に話をしてくる。
「明日休みなんでしょ木曜だから。どっか行くの?」
「…」
「お~~りっちゃん明日休みか」と泉田先生に聞かれる。
「…はい」
「わしも休みじゃぁ」
知ってる。
泉田先生がだいたい木曜日を休みにしているのを知ってから、私も休みを木曜にしたのだ。泉田先生をちょっとでも多く見たいから。
「あ~そうなんですか?」と知らなかった振りをして泉田先生に微笑んで見せた。
「一緒なんですね~」
そんな私をハルちゃんが少し憐れんだような顔で見ているように思うのは、やっぱり私の心が狭いせいだ。




