行くのか行かないのか 3
「りっちゃん?」顔を出したのはハルちゃんの弟ミノリ君だった。「何笑ってんの?」
笑ってんのは私じゃないけど。
それに15年ぶりの再会の言葉がそれか。しかも15年前の彼とも、あんまりちゃんとした会話をした記憶がないけど。
まるで毎日会ってるかのような話しかけ方だが、その人懐っこい感じの外見のせいか、あまり違和感や不快感を感じない。
「大きくなったんだねぇ」と私は間近で見る、ハルちゃんよりも背の高いミノリ君を見上げて言った。「あんな、赤ちゃんみたいだったのに」
なんか私、『頻繁に会わない親戚のおばちゃん』みたいだな。
「デカくなったでしょ?」
「うん。お兄ちゃんも高いのに、そのお兄ちゃんより高いもんねぇ。二人ともあんなに小さかったのに」
「リツ」とハルちゃんが口を挟む。「小さかったって言っても1コしか歳違わないのに。リツだって小さかったよ」
「いいねぇ」とマキちゃんがとても可愛い笑顔で言う。「幼馴染の会話。やっぱり兄弟なんだねぇ、二人」
「どう?かっこ良くなった?オレ」ミノリ君が私に聞く。
「なったなった。ハルちゃんもだけど、二人とも女の子みたいだったのにねぇ。すごくかっこよくなったよ」
それに答えてニッコリ笑うミノリ君だ。今も可愛い。
が、彼は静かな大人びた口調で言った。「りっちゃんは綺麗になったね」
「へ?」間抜けな声で驚いてしまった。
何目線なんだ、こいつ。それこそ親戚のおっさんみたいな…
わざとらしい大きなため息をついたハルちゃんがミノリ君に言った。「お前先に帰れ」
「りっちゃんさ」とミノリ君の方はハルちゃんを無視して私に言う。「歓迎会参加するの?」
私が答える前にマキちゃんが答えた。「行くよ私たち~」
「そっか~、ならオレもなんとかちょっとだけでも参加しようかな」
「どうしたの?大学の勉強が大変なの?」と聞いてみる。
「うん。ちょっとカエルが…」
カエル?「カエルって何…」
「あ~それは今度見せてあげるから。それよりりっちゃん、もう兄ちゃんに何かされた?」
「へぇ!?」さっきより間抜けな声を上げてしまった。
「まぁいいや。積もる話もあるからりっちゃん、もう帰るなら送ってあげるよ?」
ちっ、とハルちゃんの結構大きな舌打ちが聞こえた。「お前いいから」
冷たい声で弟に言う。「今日だって2時間でバイト終わりだったろ、何でまだ残ってんだよ」
対照的にミノリ君の方は明るく天真爛漫な感じで答える。「残って大学のレポートやってた~」
なんとなくキャラがマキちゃんに似ている。
「早く帰れ」冷たい声のままハルちゃんがまた言った。
「うんわかった。じゃありっちゃん、帰ろ?」ミノリ君は懲りない。
「…あの、ありがとう。でも私自転車だから」
「帰れって!」
ハルちゃんが本当に怒っている口調でミノリ君に言うので私は少し心配になる。
その二人をマキちゃんが交互に見ながら、さっきハルちゃんにしたように、さらに背の高いミノリ君を見上げて聞いた。
「兄弟で同じ職場って嫌じゃないの?二人似てるねぇ?」
他の人が見ると似ているように見えるのか?私から見たらミノリ君はむかしのハルちゃんには似てるが、今の二人はそこまで似ていないように見えるけど。
マキちゃんが聞く。「弟君もリッチィが好きなの?」
マキちゃん!何を聞くんだ!
ミノリ君が「はい」と答えそうなのをすかさず阻止して、私はマキちゃんがそれ以上余計な事を聞くのも止めようとする。「マキちゃん!」
「それとも」とマキちゃんは止めてくれずにさらに聞いた。「お兄ちゃんに張り合いたいだけ?」
ハハ、とミノリ君は笑った。「違いますよ。りっちゃんを助けてあげようとしてるだけ」
私を助けるの?
ミノリ君が、はい、という感じで何か私に渡してきた。メモだ。
「お前帰れ」ハルちゃんが吐き捨てるようにもう一度言うが、弟は丸無視だ。
私を助けるの?ともう一度思う。ハルちゃんからって事?きちんとミノリ君に聞きたいが、ちゃんとした答えは返ってこなさそうだし、さらにマキちゃんが面白がって余計な事を話しそうだ。
じゃあ私はやっぱり一人でさくっと帰ろう。
「お疲れさまでした!」と誰にともなく大きな声で言うと私はそのまま部屋から出て塾を後にした。




