バレてる 2
「あの…さっき言ってたハルカ君の事なんですけど、彼女と別れたのはその…自分でも口にするの恥ずかしいんですけど、ずっとその…私の事が…好きだったからとかじゃないと思います、絶対。ハルカ君が私の所へ会いに来てくれたのも、私のことを塾長がハルカ君に教えて、一緒の職場で働くようになって、それでさっき塾長が言われたように、不思議な縁でつながってるみたいな気になって、急激にむかしが懐かしくなって、それで私の所へ訪ねてきてくれただけだと思います」
そう考えるのがまず普通の感覚だろう。私はすごくまともだ。
「…ふう~~ん。冷静だね。ハルカが突然訪ねてきてときめかなかったの?」
塾長からそんな風に聞かれることにドキリとする。何て事を聞いてくるんだ。
…ときめいたか、ときめいてないか、と言われたら、やっぱりときめいたんだと思う。最初は。
ドアの向こうのハルちゃんがアイスを分けて食べた日の事を話してくれた時、あぁ、と思った。二人で見上げた入道雲の浮かぶ綺麗な夏の空をすぐに思い出せた。そういう、二人だけで共有したあたたかい思い出を持って会いに来てくれた事が嬉しかった。でもドアから出て彼の顔を見たとたん、幼い頃の印象が残っていない事に落胆とまではいかなくても、むかしの思い出を共有している本物のハルちゃんかどうか怪しんだのも事実だし、実際大人になった今の彼の姿も、今の彼の吐く言葉も、隣に住んでいた頃のハルちゃんとは程遠かった。
私が返事をせずにいると「そうだよねぇ」と塾長が残念そうに言った。「中野先生は泉田先生が好きなんだもんねぇ」
「えっ!!」
「それでその泉田先生には奥田先生を勧められて困ってるんだよね」
「!!」
「残念だけどね…泉田先生は君みたいな女の子は絶対に選ばんよ、中野先生みたいな子はね」
「!!!」
「わかってるんだろう?泉田先生を見ていて好きな女の人のタイプとかも自分とは違うって」
わかってるよ!
わかってるけど、なんで私が泉田先生を好きな事や、その泉田先生に奥田先生を勧められている事まで塾長が知っているんだろう。
そう口に出さずに思った私に塾長は言った。「だって私は塾長だから」
気持ち悪っ!!
なんか、この人やっぱりハルちゃんとすごく似てるかも…
塾長の言うように私の好きな泉田先生はたぶん、私を見てもただ「人間」としか見てくれていないのだと思う。「女の人」とは見られていないのだ。
泉田先生が好きなのはいかにも「女の人」と言う感じの女の人だ。
去年の忘年会の時にちらっと聞いた泉田先生の好きなタイプは、髪を伸ばして着飾って、手にはネイルを施し、えぐい程のミニスカとピンヒールが似合って巨乳な感じ。化粧ばっちりな感じ。露出感半端ない感じ。
私から程遠い感じの人が好きなのだ。そう、例えば泉田先生と同じ中学生担当のエリカ先生みたいな…
「でもいいんじゃないかなぁ」塾長が相変わらずニコニコと言う。「私は中野先生の事好きだよ。うちに努めてくれて本当に良かったと思っているよ」
「…ありがとうございます」
何のフォローのつもりで優しい言葉を?
「まぁ泉田先生との事はぬるい目で見守っておくよ。少しでも思いが通じたらいいよね~~。ねぇ?通じたらいいよね?」
「…はい」返事が小さい私。
「泉田先生の事は誰にも言わないから。ハルカにもね、今のところは教えてないよ、私の口からは。教えたら面白いのは分かってるんだけど我慢してるよ。まぁでも、ハルカはもう気付いてるんだろうけど。後、ハルカとミノリが私の身内って事はあんまりおおっぴらに言わない事にしてるから、よろしくね。ハイじゃあ、そう言う事だから」
ええ!?急に話が終わった!
「…はい」、と言って私は席から立ち上がる。「失礼しました」
「はいはい」
いや、はいはいじゃねぇだろ、と思いながら一礼して塾長室を出る。
私は1階に下りて授業の準備をした。




