バレてる 1
「それもホラ、萌えの要素だよね」塾長は淡々と続ける。「特別美人じゃない私に何かやたらと構ってくるイケメン。嫌だ私…他に好きな人がいるのに、みたいなね?」
ギクッとする。また私を引き合いにだしているのか?ぱっとしないとか、特別美人じゃないとか。まだそれはいいとして『好きな人がいる』って塾長さっきも言ってたけど…
「でも無理矢理その、ほら、言いにくいけどイケメンにエッチな事されたりね。私もね、自分でも書くよ?書くけど世の中、なんて不条理なんだ、って思いながら書いてるよ。顔さえ良けりゃなんでも許されるのか、とかね、イケメンだったら犯罪にならない、みたいなね…それは本当だったら許される事じゃないはずでしょ?ほんのちょっとしたことで、手を握るどころか目の前にいるのさえ嫌がられる男だっているのにねぇ…でも!それがイケメンだったら許されるんだよねぇ。怖いよね、女の子って」
塾長はふんふんうなずきながら私を諭すように話した。
いや、許されないですよ?と思いながら、聞きたくないけどさらに聞いてしまう。「塾長がストーリーを考えて趣味で書いてるって事ですか?」
「いや、私の奥さんが考えとるよ。それで私が文章にしとる」
マジで!!
「私も最初は愕然としたよ。こんな妄想良く考え付くなって事を次々と、長年暮らしてきた、年をとってる妻の口から聞かされたら、そりゃ驚くね」
すごい打ち明け話が続く。
「うちの奥さんが数年前に腰を痛めてね、それでしばらく外出も出来なくて、暇つぶしにさんざんケイタイ小説読んだ後で言ったんだよ。私もいろいろ考え付くんだけど文章になかなかできないから、あなた書いてみてって」
ふん?という風に塾長に相槌の間を与えられるが、全くうまい相槌は打てない。
「まぁ私たちも」私の心とは裏腹にどんどんぶっちゃける塾長だ。なんで踏み込んだ質問しちゃったんだろうな、私。
「当時の男女の常として見合い結婚なもんだから余計ね。いろいろね、望んでる事はあったんだろうね~。おおおっと思ったよ。こんな風に私にも望んでたのかなとかね、でも無理だから、とかね、ぐちぐち言ってたら奥さんが、所詮お話ですからって。頭の中の話なんだからって、好き勝手に良いように、面白いように作れたらそれでいいんだからって。いや、それでもだよ?奥さんの頭の中で、好き勝手に良いように考えてんのが私としては怖いと思うのに。ほんとに、うちの奥さんはびっくりするくらい次々に話を思いつくんだよ」
「…すごいですね~」やっと相槌が打てた。
「でも今の若い子たちが好きなのはね、異世界に急激に飛ばされたりね、急に大きな力を持つ何者かに召喚されて、思いもよらない重大な使命を与えられたりとかね、そういうが結構多いんだけど私は…」
いつまでネット小説の話を続けるんだろう。
「私もまぁ読むんだけどね…」
まだ続くんだ…
「異世界モノでも、前もって何か伏線みたいなのがあっての異世界へだと、あぁ~と思って読み進められるんだけどね、ある日何の前触れもなく急激に異世界へ飛ばされるとね、私なんか年寄りだからさ、え?え?と思ってそこでつまずいちゃうんだよね、結構序盤で。あ~でもうちの奥さんは結構なんでも受け入れるんだけどなぁ。難しいよね~」
う~~ん。心の中で深く唸る。
たぶんハルちゃんの話をされるために私はここへ来たはずなのに、とは思いながらも、そんな活動をしている塾長の奥さんてどんな人なんだろう、と思ったら、塾長がタイムリーに聞いてきた。
「うちの奥さんの写メ見る?」塾長は上着のポケットからスマホを取り出し奥さんの写真を出して見せてくれた。
びっくりだ。
こんな綺麗な老婦人を私は見たことがない。
塾長が「奥さん」と言って見せてくれたその写真の人は、明らかに歳をとっているのに恐ろしく綺麗な人だった。写真なのにその写真の平たい内側からの輝きが見えるような、何もないのにバックに薔薇の花や小鳥が見えるような、キラキラした存在感。
神々しささえ感じるこの奥さんがそんな妄想を…
「ものすごく綺麗な方ですね!」正直に言った。「びっくりしました。何か…本当に女神さまみたい」
「まあね」塾長はさして嬉しくもなさそうに、うんうん、とうなずいてスマホをポケットに仕舞った。




