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塾長との面談 2

 塾長は続ける。「普段は全然そんな事ないんだよ?他の事に関しては別に本当に普通なんだよハルカは。真面目すぎるわけでもないし、だらしなさ過ぎるわけでもないし。でもずっと会ってもいないし連絡も取ってない、小さい頃隣に住んでた女の子の事をいつまでも思って、しかも彼女と別れる理由にするとか気持ち悪いよね。さっき話した子なんだけど、結構ね、綺麗で気立てのいい子だったんだよ、その彼女。私の事も『おじいちゃん』てすごく可愛らしく呼んでくれてね、私は女の子の孫がいないもんだから嬉しくて」

そう言って塾長は一瞬遠い目をした後、まじまじと私の顔を見つめた。

 いやぁそんな事私に言われても。

 それにそんな、私が見た事もないその彼女と比べられても。知らないよ、そんなの。それはただ彼女と別れたかったから理由にしただけなんじゃないの?

塾長が言った。「ちょっと中野さん、『おじいちゃん』て呼んでみて?」

「へ?」



 私はとびきりの美人でもないし気立ても良くないし、キラキラしてる可愛い子でも、思慮深くて憂いのある綺麗な子でもない。Aカップだし、セクシーさにも欠けるし、臆病で人見知りで意地の悪い事もたくさん思うし、マイナス要素も多いけれど、でも!

 自分というひいき目を無くしたってまぁまぁ普通なんだよ。普通に可愛いんだよ、普通に可愛いの!

 そう半ば自分に言い聞かせるように塾長を気弱に睨み返す。

 私のせいで、そんな孫がすばらしい彼女を失った、みたいな事を言わないで欲しい。


「それは…本当なんですか?私のせいで彼女と別れたとか」

「本当だよ」

「…そんなずっと15年も会ってなかったのに、そんな…」

「すごく暖かい気持ちになるって言ってたよ、中野さんと一緒に遊んだ小さい時の事を考えると。その時期はハルカのいちばん辛かった時期なんだけどね。まぁ弟のミノリもなんだけど、ミノリはまだ小さかったからね。けどミノリもあなたの事をよく覚えてるんだよね。兄弟って似てるよねぇ」

そうかミノリ君も私の事を覚えてくれてるのか…あんなに小さかったのに。

 なんとなくほのぼのとしてきた私に塾長はただ続ける。「寂しくて嫌な思いをした、自分の小さい頃の事を思い出して嫌な気持ちになっても、最終的に中野さんの事を考えると心が落ち着くんだって言ってたね」



 そんな事、本当だろうか。

 確かにハルちゃんもそう言ってくれていたけれど、私はそこまでハルちゃんに優しくしてあげていない。なぐさめた事もないし。実際私はハルちゃんの家の事情をよく分かっていなかったから、能天気に普通に遊んでいただけだと思う。

ハルちゃんは両親の離婚という哀しい出来事を、私との思い出を美化することで昇華してたんじゃないのかな…


 15年ぶりに突然やってきてずっと好きだったとか、私は現実的な人間だからそういう話はやっぱり信じられない。そういうので軽くなびく女の子は超高額の結婚詐欺に遭う運命なのだ。

 しかも自分の好きな子の事を自分のおじいさんにまで話すって、実際どうなんだろう?女の子だったら、話しやすいお母さんになら相談に乗ってもらう事もあるだろうけど、そんな話を年頃の男の子が、自分のおじいさんに話すっていうのは絶対変だよね?

「いや別に変じゃないよ」と塾長が言うのでドキリとする。「そういう、私に話をしていた事も中野さんに繋がっている運命なんだよ」

…私、今なにも口に出してなかったのに…塾長、超怖いんだけど…それにまた運命って言ったけど、流されるなって言ったり、いったいどんなつもりで…



「もしかして…」私は思いついて急に不安になった。「ハルカ君のその話があって、私はここに就職できたんですか?」

「いや」塾長はあっさりと否定する。が、「あ~、」と塾長は意味ありげに笑ってから続けた。

「でもハルカの話もあったからかもね。まぁ無くても私は面白いと思ったけど。中野さんの事。積極的じゃなくて、愛想も良いわけじゃなくて、けれど嫌な感じじゃなくて、まるきり腹黒いわけじゃないけど、すごく良い子でもないしね。でも良い子ぶったり、気取ったり、かしこぶったりしないから良い子だよ」

「…」

 私は塾長に面接される時、かなり良い自分だけ見せるように頑張ったつもりだ。少しでも積極的に思われるように、愛想も良いように、出来るだけ嫌な感じを出さずに、もちろん腹黒いなんて思われたら絶対ダメ。私は出来るだけ良い人間に思われるように頑張ったはずだった。

 …それなのに。


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