どういうつもり 2
はぁっっ!、とハルちゃんが、喉から何かを吐き出すかのようなため息をついたてから言った。
「こんなかぶった格好で二人でベンチに座ってさ、バカップルみたいに見えるんだろうにオレたち今こんな感じ。それで、」
と言ってハルちゃんが指さした先にはゲラゲラ笑いながらすごい勢いでコーヒーカップを回す泉田先生とマキちゃん。
「あの人たちはなんだかんだ言っても仲良いし」
ハルちゃんがまた空を見るので、私も今度は一緒に見上げてみる。
雲もない、透き通った青い空だ。低い所から上に向かって青が濃くなって、見上げる真上は真っ青。空気も澄んでいるから、すうっと吸いこまれていきそうな気さえする。
ハルちゃんが高校生の時の彼女と見てて私の事を思い出してくれたのは、もしかしたらこんな空だったんだろうか。聞きたいけどそんな事聞けない。
「じゃあさ」とハルちゃんが言う。「明日高山先生に手紙返すから、その時リツ、一緒にいてよ」
え~~…
ハルちゃんが呆れた顔をする。「またほら、そんな『え~~』みたいな感じ出す…。オレの事好きなんでしょ?それで高山先生からオレが手紙もらったの、嫌だったんでしょ?」
「私…でも…ぶっちゃけて言うとね、高山先生の事好きじゃないんだけど、でも高山先生にすごく嫌われたりするのは嫌なの。…なんか面倒くさそうだから。高山先生の事が好きじゃないっていうのもね…私が付き合ってた人が私をやめて付き合い始めたと人と似てて、だから余計、高山先生がハルちゃんを好きなのが嫌だったんだと思う」
「ふうん。それで?どうなの一緒に行ってくれるんでしょ?高山先生んとこ」
「それは嫌だよ。ハルちゃんがちゃんと言えばいいだけの話でしょう?」
ハルちゃんが私をからかうように覗き込んで聞いてくる。「オレは高山先生になんて言えばいいの?」
ちゃんと私の事好きだって言って、と甘えた感じで言うところなのか?そんな恥ずかしい事言えない。
「私が高山先生の手紙読んでないっていうのは絶対言ってよ?」
「もう!」ハルちゃんは言いながらも笑う。「じゃあ、仮に高山先生がリツのとこ行ってなんか言ってきたらどうするつもり?付き合うの止めろとか」
「そこまではしないんじゃないかな」
それに付き合ってるって言っても、デートっぽいのは今日が初めてだし、しかも二人きりでもないし。
「もう!」ハルちゃんがもう一度私を非難した。「言って欲しいな~~。リツがオレの事どう思ってるかちゃんと高山先生に言って欲しいな~~って言ってもさ、オレもまだちゃんとは聞いてないよね?」
「さっき言ったじゃん」
もういなくならないで欲しいってちゃんと言ったのに。
「よし!」とハルちゃんが言った。「あれ乗ろう!」
あれ、というのは観覧車だ。結構近隣の県でも最大級といううたい文句の観覧車。私はここの観覧車には乗った事がなかった。
ベンチから立ち上がったハルちゃんに手を引かれる。
「待ってハルちゃん、マキちゃん達戻ったら私たち探すかも」
「大丈夫、向こうだってずっと遊んでるし、ちゃんと電話してくれる。あの人たちだって二人きりになりたいよ」
遊園地の端にある観覧車まで、後は無言で私の手を引いてずんずん歩くだけ。私はそれに引っ張られるだけ。
さすが平日、私たちの他には順番を待っている人もいなくて着くとすぐに乗り込めるようだ。誘導されて乗る時にもハルちゃんが先に滑り込んで、私の手を引っ張って乗りやすいようにしてくれた。
向かい合って座ると「もういいや」とハルちゃんが言う。
「リツはちゃんとオレの事好きだと思ってるよね?」
ここでも確認?また「もう!」とハルちゃんに言われる。
「そんな『はぁ、また?』みたいな顔を今さらすんの止めてよ。そこは可愛くうなずくところじゃないの?え?まだうなずけないわけ?二人きりで観覧車乗ってんだよ?付き合いはじめのカップルの定番じゃないの?」
「この観覧車、結構高度があって上に行ったら怖くて外見れない人もいるって」
「話変えたね」
「ごめん」
窓から斜め上を見て確認したハルちゃんが言う。「ほんと、結構上の方はすごそう。リツは乗った事あんの?」
そんなに話したくないけど…「…前付き合ってた人とね、来月ここに来ようね、って話してた矢先にさっき話した高山先生に似た女の子が、その子私ともまぁまぁ仲良く話をしたりしてくれてたんだけど、その子が『りっちゃんの事好きなの知ってるけど告白させて』みたいな感じで彼に告ったらしくて、すんなりその子の方に行っちゃったんだよね。その子と彼がここで遊ぶの見たって人づてに聞いて、それから誰ともここには来てない。ごめん、だから高山先生の事、ハルちゃんが思ってる以上に苦手だから私」
「そっか…。オレさぁ空の話をしたじゃん」
ハルちゃんこそいきなり話を変えたな。私に暗い過去を思い出させたことへの気配りか?
「あのほら、リツと見た空思い出して高校の時の彼女と別れたって話。むかしリツんちの隣に住んでた頃オレは、リツと一緒にアイス食べながら空を見た少し前の事なんだけど、母さんが父親との離婚がはっきりする前、いろいろあって家を開ける事が多くなって来た時に、うちの庭でミノリの面倒見ながら遊んでた。土掘り返したりして。早く母さん帰って来ないかなって思いながら。真昼間で明るかったんだけど、ふと見上げた空がもう天気良くて真っ青でさ、あんまり青いからもうものすごく怖かったんだよね。ちっちゃいミノリと二人で母さんからも取り残された、みたいな気になって。普通の景色の背景にある空は綺麗だけど、真上の、何にも遮るものがない深くて真っ青な空はほんとに怖い感じがした。ちっちゃいオレらなんか誰にも気付かれないうちにすうっと吸い込まれそうな気がして。でもオレらが2人でちょいちょい留守番してるのを知ったリツの母さんが、遠慮しないでオレらを預けていけばいいって母さんに言ってくれて。ミノリの事はリツの母さんが見ててくれて、オレはリツと遊んだりおやつ食べたり。オレはすごくほっとした。その頃の小さいオレは弟の面倒を見るのは仕方ないとある程度は思ってても、すごい負担にも感じてたんだよ」
そうだったのか、私はただ家が隣同士だから一緒に遊んでた、くらいの記憶しかなかった。母さんも今になってもそこまで教えてくれてないし。
「すごく感謝してるよリツのお母さんには。今はオレの事信用してないっぽいけど」
「そんな事もないと思うよ。母さんは元からあんな感じ。私が元カレと別れた話をした時だって『お母さんは最初からまるで信用できない男だなって思ってた。ずっとバカだなって思ってた、あんな男と付き合うなんて』って言ったんだよ」
「リツ、オレに前の彼氏の話すんのもう止めて。軽く『元カレ』とか呼ぶのも止めてくんないかな」
「…」




