廻る私 1
「お~~」とマキちゃんが私とハルちゃんの繋いだ手を見て茶化す。「ペアルックだしさ、どっからどうみてもカップルでしかないね!カズミが残念がってたよ今日一緒に行きたいって朝まで言ってた」
「カズミもなぁ」と泉田先生が言う。「もっとはようにりっちゃんの事つかまえときゃあなぁ。楠木が来てからなんぼ好きじゃあ言うてもどうもならんのに」
「リッチィ、でも今度1回遊んであげてよ?ずっと煩いからさ」
「いや、私は…」
ハルちゃんが何にも言ってくれない。今までだったら絶対そんな事させませんて、言ってくれてるはずなのに。
「あれ?」マキちゃんが言った。「異存がないって事?ハルカ先生」
「異存とか…」とハルちゃんがバカにしたように笑う。「リツは行かないですよ」
なんかやっぱ反応違うな…
「どうする?」と入場口から入るとマキちゃんが言った。「取りあえずぐるっと回って後ゆっくりしようか?」
みんなそれに同意して私たちは歩き始めた。
ハルちゃんがかなりの気のないぞぶりで、それなのに私の手をつないでいる事がすごく気にかかるんだけど!
そんなに気がないんならつながなくていいのに!手に汗かきそう。
ハルちゃんから私の手に入る力もビミョーだ。全く強くなく、かといってそのまま離れてしまう感じでもない。
でも私からは外せない。そんなことしたらもっと敬遠されそう。
私たちは動物を見て回る。ゾウ、キリン、ライオン、トラ、ハイエナ、サイ、カバ、ゴリラ、普通のニホンザル、テングザル、リスザル、ナマケモノ…サル多いな!
泉田先生とマキちゃんは付かず離れず、特に話もせずと私たちの前を歩き、私はハルちゃんに手を繋がれて歩く。たまにぎゅっと力が入る事があるが一瞬だけだ。すぐ元に戻る。
ていうか、みんな歩くの早くない?本当にぐるっと回るだけなんだな。動物園に来てるのに動物あんまり見てないでしょ?ただ動物の檻の間をすり抜けでもするように、さぁっと歩いて行く私たち。
でも泉田先生が少し立ち止まって聞いてくれた。
「りっちゃんは何が好きなんか?」
何日か前なら「泉田先生です!」と小首をかしげながら答えていた所だ!
…嘘だけど。そんな事何日か前でも言えなかったよ。
が、マキちゃんが答えた。「リッチィはイズミィが好きなんだよね~~」
くっそ、余計な事言いやがって。
ハハハ、と泉田先生が笑う。
いや、全然おかしくないから。そしてそれにもハルちゃんが反応しないので私が一瞬握られた手をぎゅっと掴んでしまったら、さすがにハルちゃんが覗き込んできたので、「あ、ごめん」と小さく謝った。
「動物でって事なんじゃけど?」泉田先生が重ねて聞いてくれる。
わかってますって!
「…特にないです。動物園にいない、普通の犬とか猫の方が好きかも」
「わしもじゃりっちゃん!せぇじゃけぇな、ここいらの動物は軽く流してな、あとでふれあい広場でうさぎとか触ろうな!」
満面の笑顔で言う泉田先生。可愛い~…可愛いな泉田先生。
「ながいんだよね、イズミィそこ行くと」とマキちゃんが愚痴るのでイラっとする。
隣接している遊園地の方まで回れるチケットを購入していたから、ざぁっと一通り動物を見て回った私たちはそちらに移る事にする。
やはり平日なので遊園地も人影はまばらだ。
「よし、イズミィ」マキちゃんが泉田先生を呼んだ。「あれ乗ろう」
マキちゃんが誘ったのは、ゆっくりと地上30メートルくらいまで登ってズサーンっと一っ気に落下する乗り物だ。名前がわからないけど…絶対乗りたくない。
真っ先にそれか。それに何で最初から泉田先生だけを誘う?
「いやぁわしは…」
…アレ?泉田先生声ちっちゃくない?
「ほらほら乗ろ~よ~」マキちゃんがなおも誘う。
「いや、ええわ」消極的に断る泉田先生だ。「わしはコーヒーカップがええ」
泉田先生は絶叫系が超苦手らしい。高校生の時に乗って思い切り吐いて友達のシャツに吐しゃ物を付けてしまい、以来全く乗っていないらしい。
私も苦手だ。ジェットコースターに乗ると、うまく言えないが、心も体もこの世から放り出されるようなきゅうううっとした気持ちになるのが嫌で嫌でたまらない。もともと弱虫の臆病者だ。
マキちゃんが提案する。「そう?じゃあさ、リッチィとコーヒーカップ乗ってきなよ」
これがマキちゃんじゃなくて、泉田先生に他に彼女がいて、私が泉田先生の事を好きなのを知っていてこういう事を言ってくると非常にムカつくはずなのに、なぜかマキちゃんだと全くそうは思えないところが、マキちゃんのキャラの不思議で羨ましい所だ。
「よし!」今度はちゃんと声を出して泉田先生が答える。「ほんなら行こうかりっちゃん。楠木、わりぃけどちょっとりっちゃん借りるでな?」
「あ~はいどうぞ」すんなり受け答えるハルちゃん。
「あれ?」とマキちゃんが意地悪く言う。「今日はヤキモチとかやかないの~?」
ハハ、とハルちゃんが面白くなさそうに笑う。「そんなの全然」
すごいな…私の「好き」っていう言葉がここまで効力を発揮しようとはカズミさんも想像してなかったかも。
「そうなんだ。じゃあハルカ先生は私とジェットコースター乗ろうよ」
というわけでハルちゃんはマキちゃんとジェットコースターの方へ行ってしまった。
今廻っているコーヒーカップが廻り終えるのを待つ間、私は聞いてみる。
「泉田先生はマキちゃんが他の男の人とあんな感じで二人きりで歩いても平気なんですか?」
「楠木はメグの事を、別に好きいうわけじゃあねぇけぇな。りっちゃんはわしと二人は気まじぃか?」
「いえ!」食い気味で反論した。「嬉しいです。なんか申し訳ない感じです」
「ほうか」泉田先生が私に優しく微笑んでくれた。「ありがとうな」




