言ってみたら 3
「リッチィ!イズミィの方に乗る?」
マキちゃんがハルちゃんを見ながら笑って言った。
懲りないなマキちゃん。私はマキちゃんを睨みつける。
泉田先生は肩の所に良く分からない銀の模様が入った黒の長そでTシャツに紺色のジーンズ。そして素足にサンダルだ。普段着の泉田先生…まぁあんまり仕事の時と大差ないけどもうちょいラフな感じ。貴重な姿だ。
ハルちゃんが俄然静かで不気味だ。
「やっぱ乗らないかぁ」とマキちゃんが笑う。「なんつってもペアルックで来てるくらいだもんねぇ、リッチィとハルカ先生。可愛いね!」
「言うと思ったけど」と私が言う。「偶然なんだからこれ。ねぇハルちゃん?」
「あぁ…うん」気のない返事のハルちゃん。
ヤダな、もう…
「偶然で揃う方がすごいね!びっくり」とマキちゃんは笑う。
やっぱり着替えれば良かった。
泉田先生チームが先に出発して、私もまたハルちゃんの車の助手席に乗り込むとハルちゃんが前を向いたまま言った。
「夕べ泉田先生、牧先生んとこ泊まったらしいよ」
やっぱね!!そうだろうと思ったよ。進展早いなマキちゃんめ。泉田先生より私の事が好きとか言っといて、気のない振りしちゃったりして、ったく!
「リツ、夕べさぁ…」
うわっと思う。夕べの事はもう触れないで欲しい!
ハルちゃんの横顔を凝視してしまうがプイと向こうを向いてしまった。
「いや、やっぱいいや」とハルちゃんがすぐに言ったのでほっとしたが、同時にものすごく気になってきた。
何?って聞きたいけど聞けない。今、そっぽ向かれたもん。
「えっと…ハルちゃん…ガムか飴ちゃん食べる?」
取りあえず私だけでも普通に振舞おう。
「飴ちゃんて言い方懐かしいな。リツもリツのお母さんも飴には『ちゃん』を付けてたよね。大阪のおばちゃんみたいに。いなり寿司もおいなりさんてさん付けにして」
私はブルーベリー味の飴を自分の口に入れた。
「オレも飴ちゃん欲しい」
飴の小袋を切って、そのままハルちゃんの口元まで持っていって、「口開けて」と言って中の飴だけコロン、と口に入れてあげる。私の指が少しハルちゃんの唇に触れてしまった。
「ごめん!でもそんなに汚くないからね、私の手」
「…うん」
「マキちゃんの服、可愛かったね」
私は独り言のようにぽつりと口にしてみた。
「ふん?」ハルちゃんが前を見たまま平坦な声で返事をする。「そうだね」
なんかやっぱり気のない返事。
気のない返事をされるために何か喋るのも苦痛だが、黙ったままも間が持たない。
「マキちゃんの脚、綺麗だったね。ちょうどいい肉感だったよね?」
私が言うとまた「ふん?」と平坦な返事。
「私あんなに脚出せないな~」
「いいよ、リツは出さなくて」
ど~~ん。即答で返された。出さなくていいんだ…じゃあ今度パンツ見えるくらい出しちゃおうかなもう。
えへっ、ペアルックって言われちゃったね、って言いたい衝動にも一瞬だけ駆られたがもちろん一瞬だったし、もうこれ以上喋るの止めとこう。
これ以上気のない返事は受け付けられない。
私はただ外の流れる景色に目をやる。ラジオのFMからマルーン5とカリファの『ペイフォン』が流れる。動物園はここから車で1時間くらいだ。
なんでこんなにしゃべらないのかっていうくらいハルちゃんが喋らず、私はやはり間が持たない気持ちになって、そわそわしてるのがばれないようにずっと外ばかりを見ていた。
平日の道路はちっとも混んでいなくて、調子良く流れる外の景色に、夕べ眠れなかった事もあって、だんだん目がとろん、としてくる。
しつこく思うがやっぱりあんな電話なんかしなきゃ良かった。このドライブが終わってからするべきだったのだ。だいたい予想はしていたがここまで気まずくなろうとは…
流れてる曲がブラック・アイド・ピーズの『アイ・ガッタ・フィーリング』に変わって、眠りを誘うような曲でもないのに、私はその曲が終わらないうちに眠ってしまっていた。
「…リツ…リツって…」
何回か、リツ、と遠くから呼ばれるように感じて、肩を揺すられながら呼ばれてやっと私は目を開けた。
…寝てたのか私…夕べあんまり眠れなかったからね。
「降りるよ」とハルちゃんがそっけなく言って先に降りてしまったので、ぼんやりした頭であわてて車から降りた。
平日なので駐車場に停めてある車も少ない。
車から降りると私の方へ廻って来たハルちゃんに、当たり前のように無言で手を繋がれる。
手はつなぐんだ…
まだぼんやりとした頭で、私も黙って繋がれる。
マキちゃんと泉田先生も車から降りて来て、でも手は繋いでいない。
手はつながないんだ…
…あれ?泉田先生、マキちゃんちに泊まったって事はカズミさんが私に電話してきた事知ってるのかな。




