ごちゃごちゃな 3
自分の部屋へ上がって風呂に入る用意をしていると、電話が鳴る。
ハルちゃんかな、と思ったらマキちゃんの表示。…電話もメールもあんまり好きじゃないマキちゃんが、さすがに今夜のごちゃごちゃした感じを謝ろうとしてるのかな…
そう思って、謝ってもそう簡単には機嫌よくならないからね私、的な雰囲気が出るように「なに?」と少しむっとした感じを出して電話に出たら、「リッチィ?」と私を呼んだのは男の声だった。
カズミさんだ。切りたいな。
その私の気持ちを察したのかカズミさんがすぐに言った。
「切らないでよ?」
「今夜ごめんね、いろいろ」そうカズミさんが優しい声で言う。
声は優しいけれど、今夜のカズミさんの態度を思い浮かべると、取りあえず優しい声を出して謝っとこう、みたいな感じに思えてしまう。
だから「いえ」とだけ答えた。
「ハルカ先生カッコいいね」
「…」
そんなの、はい、とも、いいえ、とも答えられない。
「メグミがさ、電話しとけって言うから」
「あ~そうなんですか。あの、気にしないで下さい、いろいろ」
「ううん」カズミさんは否定した。「オレがリッチィに気にして欲しくて電話してんの」
「え、でも今マキちゃんが、って」
「そう。本気でちょっといいなって思うなら今夜のうちに電話してみなって言われてね」
「…ちょっと、なんですよね?」
ハハハ、とカズミさんが笑う。「そういうとこ可愛いよね」
「…止めてください」
「やっぱ今はハルカ先生がいいの?ハルカ先生と付き合って行こう!って感じで気持ちが固まって来てんの?」
「…」
「それともまだ泉田の事も好き?」
ため息が出そうになる。カズミさんめんどくさいな。
「泉田先生の事はずっと好きです。その…付き合いたいとかそういうのはもう、あんまりマキちゃんが好き過ぎるみたいなんで、目の前でマキちゃんに告るの見てちゃんとあきらめました」
「そっか。まぁ泉田は変わってるからね。…そっか泉田の事ずっと好きなのか。偉いねぇ。それで?ハルカ先生が今はいいの?」
「今はって言っても私、泉田先生に振られてそんなに間がないんで…」ハハ、と私は自虐的に笑った。
早く話を切り上げて電話を切りたい。
「気持ちがついていかないって事?」
マジで電話切りたいな。
「切っちゃだめだよ、まだ」
「…」
「ここ、大事なとこだから。気持ちがついていかないのに、好きって言われてるから付き合っちゃうの?まだ付き合うかどうかもあやふやな時にチュウされたから?」
マキちゃんは得た情報を全部弟に流してんのかな。ったく!
「マキちゃん近くにいるんですか?いるんなら替わってください」
「今風呂入ってるよ。そんな感じで付き合うならさ、オレともちょっとデートしてみてよ」
「カズミさんは、私と泉田先生の話をマキちゃんから聞いて面白がってるだけですよね?」
ちょっと興味を持っただけで電話までしてこんな感じの絡みとか…
「泉田、すごくいいヤツなんだよ」カズミさんがしみじみと言う。「面白くて。ちっちゃい頃、島にいる時はいじめられててメグミによく助けられてた。でもオレは助けられなかったんだよ。他の男子との兼ね合いとかもあるから。オレはずるいし助けられなかったの。メグミが助けて、泉田もだんだん強くなってきて、でも泉田はぜんぜん仕返しもしなかったし、オレとも仲良くしてくれた。ずっと友達なんだよ」
そうか…さすが泉田先生。かっこいいなやっぱり。
「そんな泉田の事を好きって思ってくれてたんでしょ?」カズミさんが聞く。「それで今はハルカ先生の事、ちゃんと好きなの?」
「あの…でも私、その事を今カズミさんにはあんまり答えたくありません」
「…そんな事言っちゃうとこすごく可愛い」
「もういい加減にしてください。電話切ります」
「だめだめ」
「…」
「メグミがね、リッチィは流されやすいからって言うから。そういう泉田のこととかあって、でもハルカ先生強引なんでしょ?ハルカ先生の弟からも誘われてたらしいじゃんリッチィ。結構モテモテだね」
「それはハルちゃんの弟がハルちゃんに対抗したくてやってただけで、本当は二人仲良いんです。その弟が面白がって私に絡んできてる時も、マキちゃんけしかけてたけど?ハルちゃんの弟はほぼカズミさんみたいなもんです」
ハハハ、とカズミさんが笑う。「ひどいな。それで結局ちゃんとハルカ先生と付き合うって話になったの?」
「カズミさん、本当にわざわざ電話かけてくださって申し訳ないんですけど、切ります」
「だめって!そんなね、15年ぶりくらいに前触れもなく現れて、ずっと好きだっていうような男の言う事真に受けちゃだめだって」
「私は流されたわけじゃありません」こんなこと断言するのは恥ずかしい…
「そんなヤツね、」とまだカズミさんが言う。「リッチィが『好き』って言ったら気が抜けて、我に返ってリッチィの事なんかなんとも思わなくなっちゃうんだよ?」
ひど…
私も確かにそう思ったけど、今日初めてちゃんと喋ったようなマキちゃんの弟に、ハルちゃんの事をそんな風に言われたくない。
「ずっと好きだって言ってくれたのはありがたいと思ってます。けど、人の心が変わる事くらい私だってわかってます。ずっとなんて事もありえないともちゃんとわかってます!ハルちゃんの言う事全部信じてないところもありますけど、それでも私には大事な子なんです。別に私の事『なんか違った』とかって思っても、ずっと大事な子だから私大丈夫です。もう切ります」
ブチッ!




