ごちゃごちゃな 2
カズミさんのせいだ。
カズミさんとマキちゃんのせいで、私は今日もハルちゃんに車で送られる事になった。カズミさんも送ってくれると言ってくれたのだが、普段なかなか家に呼んでくれないマキちゃんが、「そのままもううちに泊まればいいじゃん。明日一緒に行くんだし」と言い出したので、ハルちゃんがむきになり、私とハルちゃんだけ先にラーメン屋を出る事になってしまった。
疲れたので私だってここは頑固に、そして静かに、当初の予定通り自転車で帰りたかったがラーメン屋でもめたくはなかったのだ。
ハルちゃんは私の家に着くまで無言だった。ずっとムッとしていた。
家の前に車をとめて私に言う。
「オレには毎日一緒にご飯食べられないとか、送らなくていいとか言っといて。どういうわけ?あの牧先生の弟」
「知らないよ。私だってあんなに話したの今日が始めてだから。姉弟で私の事おもしろがってやってるんだって」
「オレがもし、泉田先生の『ラーメン食べに行こう』って誘いにのってなかったらと思うと超怖いわ。オレがいなくて牧先生の家に泊まれって言われてたら泊まってたよね?」
「…それは…」歯切れの悪い私だ。
「ちっ!」と舌打ちするハルちゃん。「絶対泊まってた!」
「そんな事はないよ?マキちゃん本当は人を家に呼ぶのが嫌いだから、あれも面白がってんの。ハルちゃんがむきになるから余計あんな事言うんだって」
「いや、泊まってたね。泉田先生も行って4人で、盛り上がる気だったわ。ったく!いくら牧先生の弟だからってなんで気を許すの?あぁいうタイプはね、調子良い事ばっか言ってすぐ女の子その気にさせるだけなの!」
「ちょっと!マキちゃんは私の友達なのに」
「関係ないよ」ハルちゃんが吐き捨てるように言う。「髪切ろうかとか言い出しやがって。すげぇ手が早そう」
「ハルちゃん、カズミさん理容師だから」
「関係ないの!髪切ってあげるとか言われてついて言ったら、髪撫でられて首や耳も触られて、もう他のいろんなとこも触られるんだよ!リツだけじゃないよ?他の女の子にも声かけてていろんな女の子触りまく…リツ!何笑ってんの!?」
「いや…ハルちゃん、カズミさんと服かぶってたし、ハルちゃんだって他の人から見たらそう思われてるよ」
「オレは違うよ!オレはリツしか触らない。…それで?本当はオレのどこが好き?なんですぐ答えられなかったの?」
「…」
「あんな感じですぐ答えられないから、あんなヤツに付け込まれるんだよ」
いや、ちゃんと私は考えていた。
むかしのちっちゃい頃の事まで、ざぁーっとひっくり返して考えていた。
「ほんとのところ、あの弟どうなの?」ハルちゃんが聞いてくる。
「どうってどういう事?」
「気に入ったのかって事!」
「あんなに喋ったのは初めてだけど、私、会うの初めてじゃないんだよ?今日で4回くら…」
「そんな事聞いてない」
「カズミさんは最初から普通に『マキちゃんの弟』って事。あの二人は面白がってるんだよ」
「泉田先生と義兄妹になるってくだり聞いた時にかなり揺らいでたじゃん」
「いや、アレはマジで思いつかなかった。とっくに思いついてもいい感じだったのに。私そういうとこほんとにボケてて頭廻らない」
「いいよ廻んなくてそんなとこ」
「ありがとう、今日も送ってくれて」
「ごまかさないでよ、何話切り上げようとしてんの?早く言いなって。オレの本当に好きなとこ」
「…ハルちゃんこそ…」
「何?オレが何?言おうかリツの好きなとこ。…言ったよね前も」
「そうじゃなくて…高山先生に手紙もらったの、そういうの受け取らないと思ってた」
ハルちゃんがニヤッと笑う。「もしかしてショック?」
「ショック」
はっきり答えるとハルちゃんがびっくりした顔をしている。「マジで!?」
「うん」
「…そうか…なんかあっさりそんな嬉しい事認めてもらえると結構気が抜けるもんだな。あれは受け取らないとまた絶対書いてくるし人目に付くとこに置かれてもこまるし、リツに『渡して下さい』っとかって言ってきそうじゃん、あんな感じの人って最終的に。だからちゃんと読んで普通に思った感想を言おうと思って」
「…ふうん」
「なんかその、納得できない感のある返事が可愛いかも」
「いや、そんな事ないから。取りあえず今日ありがとう」
言うとハルちゃんが先に車から降りてうちの玄関の前に行くので、私もすぐに車から降りたが、もうチャイムを鳴らされてしまった。
バタバタと母さんの足音。ガチャ。
「あれ?今日も?」
「今日もです。こんばんは!」
「あんた毎日送ってもらうつもり?」母さんが私を睨む。
「今日は別でご飯食べてたんですけど」とハルちゃんが答える。「偶然会ったんで」
「あらそう。別でってどういう事?」
「母さん!こんなとこでそんな事質問しないでよ」
「明日の休み、朝迎えに来ますので今夜はこれで失礼します」
そう言ったくせにすぐ帰ろうとしないハルちゃんが、絶対良くない事を言い出しそうな感じがしたがその通りだった。
「お母さん、リツは牧先生とその弟と一緒にご飯食べてたんですけど、そこで合流して、オレの目の前で牧先生の弟からデートに誘われてました」
なんで母さんに言う!
「へ~~。リツすごいじゃん」と母さんが素で言う。「今モテ期なのかなリツ。良かったねぇ。あんなに元カレの事で落ち込んでたのに…」
「母さん!もういいからって!」
「良くないよ」とハルちゃんが言う。「なのにはっきり断らないし。そいつにオレのどこが好きかって聞かれてすぐ答えてくれないし」
ケラケラと母さんが笑った。「それ、すごくリツらしいね!で?どう答えたの?」
「いいからって!おやすみハルちゃん。ありがとうっ!」
私が強引に玄関に滑り込み中に入ると、ハルちゃんは母さんにおやすみなさいを言って今夜は素直に帰って言った。




