周りの人たち 3
私たちはたまに二人で行くラーメン屋に向かう。飲み会の後に行こうとしていたところだ。向かう途中でマキちゃんの携帯が鳴り、それはマキちゃんの双子の弟からで、結局弟も一緒にごはんを食べる事になり、私たちはラーメン屋の前で合流することになった。
親しいマキちゃんの『弟』とはいえ、私より年上だし、まだ3回、しかもうち1回は本当に挨拶だけ、しか会った事がなかったので、人見知りが発動してしまい、緊張して無口になってしまう。
マキちゃんは豚骨ラーメンと餃子、私は旨辛鳥ガラ醤油ラーメンとトリ皮餃子、マキちゃんの弟はタンタンメンと春巻を注文した。
が、マキちゃんの弟、名前はカズミさんというのだが、私を見てずっとニコニコしていた。
「リッチィ久しぶりだねぇ。メグミから聞いたよいろいろ、ここ最近のリッチィの事。メグミにも言ったんだけどすげぇ可愛いと思って。1回二人で呑みに行きたいと思ったんだけど、いきなり二人は無理かと思って取りあえず一緒に食事。今日メグミが迎えに来てくれって言うから便乗しちゃったよ」
それはマキちゃんから聞いていたけど、ただマキちゃんが面白がって言っているだけかと思っていた。
いや…この姉弟、二人ともやっぱ面白がっているんじゃ…カズミさんはマキちゃんの事、お姉ちゃんなのにメグミって呼んでるんだ…。
全くマキちゃん、弟とかに話さないで欲しいよ私の事。
「まさかの泉田好きだもんね」カズミさんが続ける。「見る目あるよリッチィ。しかも結構なイケメンに言い寄られてたのにって聞いたけど。幼馴染がずっと好きだったって突然訪ねて来たんだって?それもすげぇよね?その上同じ職場とか」
マキちゃんの弟のカズミさんは、双子とはいえ二卵性なので、あまりマキちゃんと顔の造形は似ていないが雰囲気はそっくりだ。持っている周りの空気感も、そんなに喋った事もないが、それでも喋る間合いや気の抜き方がとても似ている。
マキちゃんの体の造りが比較的小さいので、カズミさんの方が年上に見える。背はハルちゃんほど高くはないがそれでも175センチくらいはあるし、ハルちゃん程ではないが顔も整っている。目がちょっとたれ気味でパッと見優しげな感じがするけれど、喋るとそうでもない。服装はごく普通。今日はグレーの長袖Tシャツに濃いめのジーンズ。…あれ…さっき見たハルちゃんも同じような格好してたな…
仕事は理容師をしているのだと前にマキちゃんから聞いた。
…なんで私はいちいちハルちゃんを引き合いに出してるんだろう。
そう思った時だ。「いらっしゃい!」と言う威勢の良い店員の声に被せるように、「メグ!」と呼ぶ大きな声。
泉田先生だ!そしてハルちゃんも。
やっぱりグレーの長袖Tシャツとジーンズだ。カズミさんと服がかぶってる。
ハルちゃんがムッとした顔で真っ直ぐに私たちの席にやって来た。
「ハルカ先生」とマキちゃんがニコニコ顔をして見せる。「これうちの弟」
「あ~…はいこんばんは、はじめまして」と憮然としたハルちゃん。
「こんばんは!」カズミさんはにこにこ顔だ。「君がハルちゃんか!ほんとカッコいいねぇ~。思ってたよりもずっとカッコいいや。あ~~…やっちゃったなオレ、こんなイケメンさんと服かぶるとか」
ムッとしているハルちゃんはカズミさんには答えない。
泉田先生も私たちのテーブルにやって来た。
「リツ、オレは牧先生と二人かと思ってたよ」ハルちゃんが私の横に腰を降ろし静かに言った。
「あ~」私が説明しなきゃいけないのか?「カズミさんも合流したの。マキちゃんを迎えに来たんだよ」
「カズミはリッチィ気に入ってんだよね!」マキちゃんがぽん、と余計な口を挟む。
席に着いた泉田先生が「お前らほんまに姉弟で仲ええのぉ」とマキちゃんとカズミさんを愛おしそうに見ながら言った。
「「良くはないよ」」
マキちゃんとカズミさんが声をそろえた。
「泉田がメグミの事好きなのはずっとちっちゃい頃から知ってたし、付き合うのはいいとして、メグミが泉田と結婚とかってなったらオレと義兄弟って事でしょ?なんかビミョーな気持ちだよね」
「ないから」とマキちゃんが言う。「今のとこ全く予定はないって言ってんじゃん」
「そう言うてるうちにな、」泉田先生が余裕の笑顔を見せながら言った。「メグもわしと結婚しとうて仕方なくなるんじゃ」
何言ってんだこんなとこで泉田先生。
「まず、メグって呼ぶの聞いてるとこっちが恥ずかしくなる」カズミさんが笑って言う。「泉田がオレの兄ちゃんとかってないわ。でも!こんな泉田の事を好きだって言ってるリッチィはホント面白いよね。可愛い。しかもこんなカッコいい幼馴染が現れて告ってきてんのに、この泉田に告って振られるとか、ねぇ?ほんとすごいわ」
私はカズミさんを睨んだ。
私をバカにして。
前会った時もやたら私を子供扱いしてきたのを覚えている。たいして歳違わないし、私はあんたのねぇちゃんの友達だっつの!年下でも礼儀をわきまえろ。
「泉田のどこが一番好きなの?」カズミさんが私に聞く。
マキちゃんの今夜の誘い、断れば良かったな。こういう事を泉田先生とハルちゃんの前で敢えて聞く所がマキちゃんにそっくりだ。
「リツが今一番好きなのはオレなんで」
口を挟んだハルちゃんの言葉に、ハルちゃん以外の全員の動きが止まった。
「…すごいねハルカ先生」カズミさんが目をキラキラさせて言った。「やっぱカッコいいねぇ。そういう言葉、なかなか普通の人は口に出して言えないよね。イケメンじゃないと言えないわ。ドラマの中のセリフみたいだもん。ハルカ先生、すんごいモテるでしょう?」
「ほんまほんま」と泉田先生が言った。「楠木はモテるんよ。塾の中にもな楠木好きな子が何人もいるんよ。りっちゃんもえぇ娘じゃけん。わしもな、りっちゃんの事は好きは好きなんよ。それがまぁ恋愛感情というのとはまた違うもんじゃけんな」
「「恋愛感情!!」」マキちゃんとカズミさんが声を合わせた。私も心の中で、ビックリマーク付きで声を合わせた。
カズミさんが言う。「泉田の口から『恋愛感情』だって。こえぇわオレ」
黙れ、と心の中でカズミさんに思う。私も暗黙のうちに声を合わせたが、『恋愛感情』云々の前に、『好きは好きなんよ』っていう同情入った感のあるコメントでまず、私はまたぶり返してちょっと傷付いていた。
この後みんなでラーメン食べるのかな。せっかく久しぶりのマキちゃんとのラーメン楽しみにしてたのに。バカ弟め。
「今度うち来ない?リッチィ」カズミさんが言う。
「「ダメだよ」」と声を合わせたのはマキちゃんとハルちゃんだ。
マキちゃんはカズミさんに、ハルちゃんは私に言ったのだ。
マキちゃんはなかなか家に呼んではくれない。
「メグミはどうでもいいよ。じゃあメグミが居ない時においでよ。てか髪の毛切って上げようか?オレんとこ普通は男専門の店なんだけど、オレが家で切って上げる。うまいんだよ?女の子の髪も。歴代の彼女の髪も切ってたんだよ。今ちょうど彼女いないから」
「カズミ」とマキちゃんがたしなめるように言う。「そんな事言わないの。ハルカ先生超めんどくさいんだから」
「え?」とカズミさんが言う。「まだちゃんと付き合ってるわけじゃないんでしょ?」
「付き合ってますよ!」ハルちゃんが吐き捨てるように、でもきっぱりと言う。「夕べリツの両親にも挨拶したし。リツはあなたの所には行きません」
「ふうん」カズミさんが値踏みするような目でハルちゃんを見つめ、ハルちゃんもカズミさんを睨むように見返す。
カズミさんが私に言った。「じゃあリッチィ、ハルカ先生のどこが一番好き?」
カズミさんが意地悪な目でニッコリと私にそう聞いて来たところで、それぞれのラーメンが次々に運ばれてきて私たちは話すのを止め、いっせいにラーメンを食べはじめた。




