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 「世の中のたいていの事はどうでもいい事なんだから」と母さんが言う。「ハルちゃんと付き合ったって、ハルちゃんがこれからずっとって言ったにもかかわらず、うまくいかなかったらすぐ止めて他の人の所に行けばいいだけなんだからって言ったじゃん」

「えっ!」とハルちゃんが本気でびっくりしている。

「だいたいハルちゃんの『これからずっと』っていうのも、そういうのって常套句だと思って、あ~はいはいって感じで聞いときゃいいのに、きっとあんたの事だから、ずっとって言ってもずっとなんてありえない、とか、ずっとって言われて、それ信じてすぐ別れるような事になったら傷ついちゃう、とか、ね?考えてるでしょ?リツがいけないのは、そういうどうでもいい事をぐだぐだ考え過ぎる事だよね」

 いや…まず私に流されるなって言ったくせに。

 今母さんが言った事は、行きあたりばったりでもОKみたいな意味に聞こえるけど。



 「そういうのって」と声が俄然小さくなってしまう私だ。「そういう事ってどうでもいい事じゃないと思う…けど」

「オレだって」とハルちゃんが言う。「本気で『ずっと』って思って『ずっと』って言ってます」

「あそう」と母さんは気のない返事でそれを流す。

 「いやでもお母さん…」ハルちゃんが何かまだ言いかけるが、母さんが遮るように話をまとめにかかった。

「まぁまだ再会して日が浅いから、私たち、取りあえずあたたかく見守ればいいんでしょ?お父さんはまぁアレだけど、私はハルちゃんの事好きよ。そこまでハルちゃんの言う事全部信じてはいないけど。だから、ハルちゃんがリツのとこに会いに来てくれたのも、ずっと好きだって思ってくれたと事も、仲良くしていきたいって言ってくれてる事も嬉しいと思ってる。信じてるかしんじてないかは別として、ね?てことで、もう遅いから。ほら、リツ、ハルちゃん玄関のとこまで送ってあげなさい。ハルちゃんもまたゆっくり休みの時に遊びにおいで。ご飯でも食べに」

「ああ」と父さんも言った。「食べにおいで」



 なんじゃそりゃ、と思う。

 結局ハルちゃんの事、父さんも母さんも受け入れたって事なんだよね?信じてはいないけど受け入れたっていう…なんかもうよくわからないな…。

「リツの母さん、ほんとすげぇ。でもほんとオレ信じられてねぇな…」玄関の外に出るなりハルちゃんが言った。「ねぇリツ、イケダってやつの事なんだけど」

「もういいよ、イケダ先輩の事は」あそこで持ち出されるとは思わなかった。

「いや全然良くないって。元カレとイケダ先輩とどっちが好きだった?」

「何言ってんの?」

「イケダの事どれくらい好きだったか知りたいだけ」

「呼び捨てにしないでよ」

「先輩先輩。ほら、早く言いなよ」

「嫌だよ」

「オレは教えたじゃん、高校の時の彼女の事も」

「じゃあハルちゃん、その高校の時の彼女とキヨミさんだったら、どっちがどれくらい好きだった?」

「…わかった。もう聞かない。じゃあどうしてそいつと別れたの?」

「ハルちゃん最悪。そんな事普通聞かないでしょ?それに自分だってその二人の事、どっちが好きか答えられないんじゃん」

「答えられる。ほんとはどっちも同じくらい。でもどっちと付き合ってる時もリツの事考えてた」

「最低」

「まぁね。じゃあイケダってどんな感じのやつ?」

「普通の人」

「そんなんじゃわかんない。…じゃあ芸能人とかでいうと誰?」

 …芸能人?…しばらく考える。

「芸能人じゃないないけど…」今思えば…「…泉田先生に似てたかも」



「もう~~~~」とハルちゃんが呻く。「嫌だな、今の答え」

そしてはぁ~~とため息をついた後、ちょっと空を見る。「今日も星出てないね」

 言われて私も空を見上げたところで、ふいをつかれてギュッと抱き締められた。

「わざと言ったんだよね?今の」と耳元で言われる。「オレの気をもっと引こうと思ってわざと言ってるでしょ?それ。イケダとどうやって付き合うようになって、どうやって別れたのか言うまで、オレはこのまま帰らない事にする」

耳がくすぐったい。

「もう…めんどくさいな…」とつい言ってしまった。

「ぅあっ!めんどくさいとか言われた!」

 そして今度は私が「ひゃっ!」と声を上げる。

右の耳たぶにチュウされたのだ。うわ~~~

「や…ちょっと!鳥肌立ったじゃん!」

「どうしてイケダと別れたの?」

まだ聞くのか?

「答えたくない」

「あそう」軽くそう言ってハルちゃんが私の耳たぶを甘噛みする。

「ふぁ…ちょっと!止めてって!」

言っても頭を固定されて、もてあそぶように耳たぶを舌でなでられて、手足がぞわぞわする。

「ぁ、ちょっ…ヤだって!もうっ…やだぁ」

鳥肌が止まらない。そしてハルちゃんの下半身から違和感だ。

「ほら~」とハルちゃんが私をなじる。「リツが早く言わないくせにそんな声出すから。オレの方が変な風になったじゃん」



 言うから離して、と言って離してもらう。

 離れてもまだ耳と手足がぞわぞわするので、今なめられた右耳を手のひらでぱさぱさっと撫でた。

「…雨が降ってて私、傘忘れて走って帰ってたら、先輩が持ってた傘を貸してくれたの。断ったんだけど、ブラウスが透けるよ、って言われて。傘返しに行ったら委員会が同じで、それで話するようになって、たまに出かけたりとか。でも先輩受験控えてて、結構難関校狙ってたから、私も邪魔したくなくてあんまり会わなくなって来て、自然にフェードアウトしたって感じ」

「…ふうん。へ~~。傘貸してもらったくらいで付き合っちゃうんだ~」

「ハルちゃん、あんまりここでゴチャゴチャしてたら母さん出てきそうなんだけど」

「うん。オレもそう思う。でも、チュウしたいんだよね~」

「あのね…ハルちゃん、ごめん、明日も迎えに来てくれたりしないで」

「はぁ?」ハルちゃんの声が急に冷たくなる。「どういう事?それ」



「塾でごはん一緒に食べるのも、そんなに毎日はダメ。送ってくれるのもありがたいけどそれも毎日はダメ。職場であんまりべたべたして見えるのはよくないと思うから。皆いるとこでそういうのって良くないよ。ハルちゃんの事好きだって言ってる先生たちだっているのに。私は普通に…ハルちゃんが最初言っててくれたように普通にまた仲良くなっていきたい。ゆっくり、ちゃんと」

んん~~、とハルちゃんが唸ってから言った。

「…わかった。じゃあ、たまにだったら帰りに一緒にメシ食ったり、オレんちに寄ったりするのもいい?」

うん、とうなずくとまたぎゅうっと抱き締められた。さっきよりもきつく。

「痛いって」と言ってもそのままだ。

「わかってる。痛いようにしてるから」


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