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私の小さい胸の中の 2

 結局、家に帰る時には車で送られる約束をしてしまった。

 …してしまった、というか、そこで初めて、朝は車で送ってもらったから、帰りは自転車がなくて歩きになる、という事実に気付く限度無しに愚かな私だ。

 ハルちゃんの住んでいるマンションの駐車場まで一緒に歩いて車を取りに行かなければならない。

「どうする?せっかくだから、今日も寄ってメシ食ってく?」歩きながら普通に聞いてくるハルちゃん。

「リツはサンドイッチ自分の分しか作んなかったけど、オレは心が広いから、それでもちゃんと作ってあげる」

「あ~ありがとう、でもごめん。…今日は遠慮しとく」

「またちょっと怒ってんの?おっぱい触った事ミノリに教えたから」

「違う。やっぱり毎日はちょっと…ハルちゃんも言ってたじゃん。だんだん仲良くなっていつの間にか付き合ってるっていうのがいいって」

「うん。だから寄ってって欲しいんじゃん」

「…」


「だって寄らせるためもあって朝車で迎えに行ったもん」

「…ハルちゃん、私…変な言い方するけど、あんまりそういう事続けられると不安になる」

「?」きょとんとするハルちゃん。

 言うの恥ずかしいな。

「あんまり毎日ハルちゃんがうち来てくれたり、送ってくれたり、誘ってくれたりしたら、なんかそわそわする感じ」

「どう言う事?」ハルちゃんが眉をしかめる。「ストーカーされてるみたいで嫌だって事?でも付き合ってたら当たり前だと思うけど?リツはそんな言い方多いよね?もちょっとはっきり言ってよ。いつも一緒は鬱陶しいって事?」

「違う。不安だっつってんじゃん。…急にものすごく仲良くなったら、なんか…」

「何もう!ハッキリ言いなって!」

「なんでちょっとキレてんの?」やだな。

「だって寄ってって言ってんのに、もったいぶるから」

「もったいぶってない。だからね!…」言いたくないな、ものすごく恥ずかしい。「急にすごく仲良くなった後、今度は急にどっか行っちゃったりとかされた時に…なんか怖いような気持ちになるから」

「…」

 

 無言で私を見つめるハルちゃん。目を反らす私。

「それってさ、オレの事、かなり!好きになって来てるって事だよね?」

黙っていると「ねぇ?」とハルちゃんが念を押しながら手を繋いできた。

「仲良くなってオレが居なくなったら嫌だって事でしょう?」

「…わかんない」

「うわ~~、やっぱ今日寄って欲しいな~~」

首を振る私。

「何それ」ハルちゃんがムッとする。「そんな事言っといて家に寄らないとか、何それツンデレってやつ?めんどくせぇなリツ」

 ひど…



 ハルちゃんの車に乗り込む。

 あの後ずっと手をつないでいたけど、ハルちゃんはそれが全く当たり前のようで、力の入れ方もずっと一定、握り直したり、そわそわしたような感じは全然感じられない。もうずっと恋人やってて、いつもつないでますよ、って感じ。

 まぁね、大人だからね、チュウもしたしね、胸も触られたし、手を握られるくらい今さらなんだっつうんだって事だよね。

 でも!私はまだそわそわどきどきを感じてしまうのだ。手が汗ばんで来ないといいけどとずっと思っていた。

 そして、ハルちゃんはもう、家に寄れとは言わなかった。

 私が断ったからだけれど、ハルちゃんにめんどくさいと言われた事がどんどん気になって来る。

 …まぁ私はめんどくさいよ?小さい時からめんどくさかったと思うけど。



 私を家まで送ったハルちゃんが当たり前のように一緒に車から降りて、当たり前のようにうちのドアチャイムを鳴らそうとする。

「ちょっと待って!今日父さん、居ると思うし」

「うん。お父さんに挨拶して帰る。ちゃんと付き合うようになったら挨拶しなおします的な事を言ってたと思うし、挨拶しなきゃ」

言いながらもう一度ドアチャイムを押そうとするのでまた止めてしまう。

「…マジで?」と聞いてしまう。「父さんに会うの?」

「会うよ。…あれ?なんか困るの?」

 困るよ。 

 父さん、どう思うんだろう。ハルちゃんと再会してからあんまり日数経ってないのに。『もう付き合うのか!』とか言って大騒ぎしたらどうしよう。他に好きな人がいるとまで言ってたのに。



「もう、今日挨拶するの決定なの?」

「決定決定」

「でも…どうかな…」

「あれ~~?やけに嫌がるじゃん。おかしいな。さっきはオレがいなくなったら寂しいみたいな事言ってたよね。え?あれはただ言っただけ?…リツ、マジ可愛かったのに…オレはめちゃくちゃうれしかったのに!」

「今さらなんだけど…ちゃんとよく考えた方がいいよ。ちゃんと良く考えるっていうか、ハルちゃんが言ってくれてたみたいに、だんだん仲良くなってって、それからで良いんじゃないかな」

「いや、オレもそう思ってたけどダメだね。じゃないとさっきみたいに、リツの事帰したくないなって思った時にも、そんなに遅くまで引きとめられないし。うちへ寄ってもらったりしたくてもやっぱ心が咎めるって言うか…急激にチュウ以上のいろんな事したいと思った時に、もう心おきなく!出来るようになりたい。ちょうど今みたいな時だけど」

 笑いもせずに力説するハルちゃんだ。


 それから、ふいに何かを思い出したような顔をしたと思ったら、「ああ!」とハルちゃんが大きな声を出すのでビクッとする。

「ちょっと!声大きいよ」

「…なんかオレ、むかしもそんな事言われたような気がしてきた。オレが居なくなったら嫌だって…あれ?いつだろう。てか、そうだったらいいなって思ってるから急に出来た記憶かな。リツ、覚えてない?」

「覚えてない」

「即答しないで考えなって」



「でも私、むかしハルちゃんがあんなに急に引越して行って、あの後だってちゃんと寂しかったよ。ハルちゃんは会いに来て私が覚えてなかったり、リアクション悪かったら、みたいな事言ってたけど、あの後ずっと普通にちゃんと寂しかった」

 それは本当だった。だんだん二人きりで遊んだりすることはなくなっていた頃だったけれど、それでもハルちゃんがいなくなった時はとても寂しかった。もう2度と会う事はないんだなと思ったからだ。

「リツ…リツは本当はすごく計算高いんじゃないかな。ここでそんな事言ってくるもんねぇ。ずるいよなぁ~。やっぱ今夜絶対お父さんに挨拶して帰ろ」

「ダメ本当に。今日は止めといて。ごめん、せっかく言ってくれてるのに」

じっと私を見るハルちゃん。

 そして「ほんとめんどくせぇ!」と言いながら、ハルちゃんはパッと手を伸ばしドアチャイムを鳴らしてしまった。




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