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私の小さい胸の中の 1

 女先生たちの視線は微妙な気が今日もしたが、昨日ほどではない。さすがにみんな大人だ。みんな大人だったが、どういうわけか、いつになくニッコリ笑ってくれたエリカ先生がすごく怖いような気がしたのは、私の根性がねじれているせいでもないような気がする。

 それでも夕方5時半から6時半までの休憩中に、当たり前のようにハルちゃんがやってくると、控室にいた女先生3人、男先生1人の視線が私とハルちゃんに集まった。

「中野先生~~」とハルちゃんが言う。「ご飯食べに行きましょう」

「…あ~とすみません楠木先生、私サンドイッチ持って来たんで」

「へ?」ニコニコ顔だったハルちゃんが急に驚いた顔で、しかも控室に丸聞こえな大きな声で聞き返した。

「サンドイッチ?何それ!」



「声大きい!」と私は小声で注意する。「私お弁当持って来たから」

「『私お弁当持って来たから』!何それ、びっくりする。朝オレとずっと一緒だったよね?」

大きな声でそう言うので、「しっ!」と黙らせようとするがハルちゃんは黙らない。

「信じらんねぇ。朝オレとずっと一緒だったよね」ともう一度同じ事を言う。「なのに自分だけ弁当あるってどういう事?普通オレの分も作るでしょ?オレだったら作るわ!リツが泊まりに来たら、リツの分まで作るわ!いつ?いつそんなの作ってた?」

「作るって言うか、母さんがゆで玉子余分に作ってたみたいで残ってたから、それとシーチキンで、…っていいじゃんそんな細かい話。というわけでごめん、私サンドイッチあるから」



「リツは意地悪だよね~~。考えらんねぇ。いや、普通なら別にそれで、あぁそう、でオレもすませるよ?でも今日だよ?朝ご飯一緒に食べて、一緒に仕事にも来て、夕べだってあんな…」

「ハルちゃん!じゃなかった楠木先生!もうマジで静かにしてください」

「リツこそうるさいよ。いつサンドイッチ作ったの?」

「…」めんどくさいな。

「いつ!ずっと一緒だったじゃん!」

「声大きいって!」私は部屋にいる他の先生の耳が気になる。「ハルちゃんがトイレ行ってる時」

「くそっ」


舌打ちしながらハルちゃんは私の横に空いている椅子を持ってきて腰掛ける。そして私の持ってきた、熱いほうじ茶が入っている直飲みの水筒をおもむろに取り上げて飲んだ。

「あつっ!」ハルちゃんが顔をしかめた。

「熱いよ?」

「遅いよ今頃言っても」

「勝手に飲むからだよ」

「うるさい。サンドイッチ半分、早く!」

「いや、こんだけしかないから。それにそこの先生帰って来るから」

ハルちゃんの持って来た椅子を指さして言った。

「ストーカー行為だな」と後ろから声がして、見るとバイトに来たミノリ君だ。

「えげつねぇな。もしかして毎時間休憩の度にりっちゃんとこ来てんの?」

「「来てない!」」私とハルちゃんは声をそろえて答えた。

「これから毎日一緒にここでメシ食うつもり?」

「「そんな事しない!」」とまた声を合わせる。



 …そうか、良かった。

 私はついハルちゃんをまじまじと見てしまった。毎日ご飯誘いに来られたらちょっと困るなと思ってしまったのだ。別に食べてもいいと思うけれど、周りの先生たちの目も気になる。

 それに昨日来たのに今日は来ない、明日はどうするんだろう…みたいな事を考えるのも面倒くさい。


 「ほらぁ~」とハルちゃんがミノリ君に言う。「お前がそんな事言うから。リツが今、毎日は来ないんだ、良かった~、みたいな顔したじゃん」

「りっちゃんオレもサンドイッチ欲しいな~~」

「…じゃあ今度ね。ごめんね、今日はこれだけしかないから。今度作ってあげる」

ハルちゃんが指で×を作りながら言う。「それはオレの許可がいるよね」

「かわいそうに、りっちゃん」とミノリ君はハルちゃんを無視して言った。「サンドイッチ取られて。彼氏面されて。まぁりっちゃんが悪いね」

「彼氏面じゃねぇよ。もう彼氏だからオレ」

冷たい目でハルちゃんを見てから、ミノリ君は私に言った。「昨日もメール送ったのに」

「ごめん、夕べから切れてるのに気付かなかった」

「なんだそうなの?オレは兄ちゃんが夕べも無理に泊まってんのかと思った」

私はぶんぶんと首を振る。


 「でもさ、ほんと進展早いよね」とミノリ君がどういうわけか私をさげすむような目で見るのでドキリとする。さっきも私が悪いって言ってたけど…

「結構がっかりだよ」とミノリ君は冷たい目のまま私に言った。「またチュウされてさ、今度はもう胸も…」

私はものすごい早技で、握ったグーの手でミノリ君の腹に1発。「ぐえっ!」とミノリ君が腹を押さえた。

 バカじゃないの!他の先生もいるのに。…でも…

「なんでそれ…知ってんの?」

「この人からライン来たけど?」と言ってミノリ君はハルちゃんを指さす。

「ラインで!」バッカじゃないの!

 ほら、と言ってミノリ君が見せてくれた画面の吹き出しには「リツにこの前よりも高度なチュウした。そして胸もオレの手のひらの中に。もう完全にオレのモノ~~いぇ~い」

「直に触ってきた?」とミノリ君が聞く。

「バカじゃないの!」と今度は口に出して言った。「他に誰が見てんの!このバカライン」

 ハルちゃんのその吹き出しの下にはミノリ君の吹き出し。「どのくらいの大きさ?やっぱA?やわらかかった?」

 その下にもう1コ、ハルちゃんの吹き出し。「ほぼB」

 Aなのに!

 「「ハハハ」」とバカ兄弟がそろって笑う。「「これ二人でやってるやつ」」

「仲良いんじゃん、あんたたち」呆れて言ってしまう。

「「それはないわ~~」」少し嫌そうにお互いを見やって笑う二人。

 もうどうでもいい。良かった今の時間、マキちゃんいなくて。



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