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私と彼の状況 2

 母さんはフッと笑った。「ふ~ん…。リツの事をちゃんと好きだと思ったのっておじいさんの塾でリツが働いてるってわかってから?」

「いえ。ずっと好きでしたよ。隣にいた時からずっと。でも小学生の時とか恥ずかしいじゃないですか、そういうの。僕年下だし。弟みたいに思われてたし。それで遠くに行ってしまったから…もう会えないんだろうなって思ってて。でもずっと好きでしたよ。はっきり好きだって思ったのは高2くらいだったけど。それまでもりっちゃんの事はずっと温かい、優しい思い出でいつも胸の中にあって、でももうやっぱり会う事はないなって思ってあきらめたんです。りっちゃんも急に会いに行ったりしてもどう対応していいかわからないだろうし、覚えてない、とか言われたらどうしようもないし、傷付くし。覚えられてたとしても、僕の事がりっちゃんにとっては大した思い出じゃないかとも思ってたし。それで…あのお母さん、僕はきちんと答えようとは思うんですけど、まだりっちゃんと付き合う事にもなってないし、本人にまず告白したいんですけど、こういう結構恥ずかしい事」

 彼がちょっと下を向いた。本当に少し顔が紅くなっているような気もする。今さら!さっきまでこっちが恥ずかしくなるような事を次々に言っておいて。


「そっか」母さんが一応納得する。「でもリツの気持ちは尊重してくるんでしょう?」

「はい?」

「リツが嫌だって言ったら無理に変な事したりしないよね?」

「…え…~と…?」

「え?無理に変な事する気なの?」

何聞いてんだろう母さん、しかもなぜそこで迷うんだこいつ。

「う~~ん」彼はちょっと唸ってからニッコリ笑うと言った。「嫌がられないように頑張ります」

 が、母さんは食い下がる。「でも今本当は彼女いるでしょ?」

母さんすごいな!


 ハハ、と彼は笑ってから母さんを真っ直ぐ見て強く答えた。「いいえ!」

 「さっきお父さんも聞いてたけどさ、いた事はもあるんだよね?そう言ってたよね?」

「はい。いた事はあります」

「それ、リツの事を好きだって思ってる時にも?」

「…そうですね。あ~ほんとに…オレはダメでした。相手の子にも悪い事しました。大学の時にちょっとだけ付き合った子ですけど」

 「彼女いた時にもモテたでしょ?彼女がいたって寄ってくる子いたでしょ?それで今でももちろんモテて今もガンガン女の子寄ってくるでしょ?リツよりも可愛い子がいっぱいいるでしょ?」

ハハハ、と彼が笑った。「すみません、笑って。でもすげぇ面白くて」

父さんが恐ろしくムッとしている。が、母さんは「まあね」としたり顔だ。


「お母さんの事も好きです」と彼が言うので、父さんがビックリしている。

「むかし隣に住んでた時もそうでした。悪い事はちゃんと注意してくれたし、心配もしてくれたし、僕が一人で裏で泣いてた時に頭撫でてくれたの、僕は今でも夢に見り事があるくらいです。そしてその後りっちゃんと半分個しなさいってアイスとクッキーくれた。りっちゃんは多く入った方のアイスの皿を僕の方にくれた。クッキーだって僕に多くくれた。それで何にも喋んないでただ黙っていっしょに変わっていく雲の形を眺めたりしてくれた。その時のりっちゃんの隣にいる自分を思い出すと、いつも胸が温かくなるんです。ほわ~っと。すごく穏やかな気持ちになれる。結構その時期、両親の仲が最悪で子どもの前でも大げんかしてんの見てた時期なのに」

 彼がまた下を向いた。

 あれ?母さんが泣きかけてる。えらく単純だな!びっくりする。今まであんなに質問してたくせに。

そして父さんの目から涙が一粒…。単純過ぎる!うちの両親バカじゃないの。



「それでも」と母さんが静かに言った。彼ではなく、ただ黙って眉間にしわを寄せて彼と父さんと母さんの動向を見ている私にだ。

「流されちゃダメなんだからね。ハル君がいくら格好良くなってても、あんたにどんだけ好きとか優しい事を言ったとしても、あんたはあんたでちゃんと考えていけるでしょ?」

考えていけるよ。今だってほだされてないの私だけじゃん。それにそういう事を彼の前で言うのはさすがにどうかと思うけど。

「だってあんた好きな人はいるって言ってたもんね?」

「…」

それこそ黙ってて欲しいよ!何でここで言うかな、父さんもいるのに。

「好きなヤツがいるの?」彼が聞いた。

「いるのか?」と父さん。

「そりゃいるよね。仕方ない」そう言って彼はニッコリと笑った。


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