さわりたい 1
解ってる。
ハルちゃんがうちに泊まった事もいろんな人が知ってる。今だって送られているし、今日はハルちゃんの家にも行った。
客観的に観ると付き合ってるように見える。
せっかく私の事をずっと好きだったって言ってくれてんだから、ありがたくそれを受け入れればいいんだよね?
「ちょっと警戒してるの?」ハルちゃんが立ち止まった。
「まぁ…っていうか…ここ道端だし…」
「恥ずかしい?」
「ていうか、私、いろいろあり過ぎて…」
心がいろいろついていかないんだけど…
それでも「あり過ぎて何?」と聞かれるので少しイラっと来る。
「何って聞かれても…」
「今日、なんかオレの方が年上っぽくない?」
「…ぽくない」
「いかにも付き合いしたて、みたいな感じもする」
「…」それはちょっとするけどさ。泉田先生とマキちゃんの事を全く無視したらね!
「もう!」とハルちゃんが急に声を張るのでビクッとする。「いいじゃん、道端でも!わがままだな」
わがままって。
「…ぶっちゃけ…ぶっちゃけ私だってチュウくらいもういいと思ってるよ!どうってことないの!警戒もしてないの!」
というのは嘘だ。一昨日のチュウみたいなやつ道端でされたら…
しかもくどいけど今日は振られたばかりの相手、が私の目の前で私の友達にプロポーズしてるからね。まだ付き合ってもいない癖に。
「そう?だったらいいじゃん」とハルちゃん。「オレだってもう黙っていきなりヤっちゃっても大丈夫かなって思うけど、リツ、バカだから騒がれても困るし」
バカだから!
なんでそんな風にハルちゃんに言われなきゃ…
「泉田先生にもふられたし、彼氏もいないから、私の方が年上だし、ハルちゃんとのチュウなんてほんと、全然どうって事ないから。逆にそこまでここで今チュウしようとする気がしれな…」
「え、でも彼氏オレだよね。…あそう、どうって事ないんだ?」
そんな普通に『彼氏オレだよね』って言われても。
私も『まだ違う』とか『私はそう思ってない』とか言えばいいのに言わないのだ。
ずるいな。
「昨日…キヨミさん可愛かった」と言ってみる。
「…」
「可愛かったし綺麗だった」
「…」
「自分より私に猫がなついてきて、それをムカついてんのがすごく可愛かった」
「へ~」
「へ~だけ?」
「それについて何か言って欲しいの?」
ハルちゃんが嫌な感じで笑う。
そうだよね。ハルちゃんに何を言って欲しくて、私はわざわざ今キヨミさんの事を持ち出したんだろう。
「リツはオレの事好きだよね」
私たちは立ち止まったままだ。
私はハルちゃんの事を好きか?
そりゃあ好きか嫌いかで言うと普通に好きだよね。変だし、気持ち悪い事も言うし、イヤだなって思う事があっても、すごく拒絶したりすることはないと思う。これからもずっと。幼馴染なんだし。
これからもずっと?
…どうしてこれからもずっとなんて言えるんだろう。
15年ぶりに会って、そしてまだほんの2週間くらいしか一緒にいないのに。どっちかが塾の仕事辞めたら私たち、またそれきりなるかもしれないのに。
またハルちゃんが自転車を押し始めたので、私も歩き出す。
「あ~~~」とハルちゃんが唸るように言う。「リツ、マジかったりぃ」
はぁ?
「かったりいし、めんどくせぇ」前を向いて自転車を押しながら言う。
「ちょっ…」
さっきはバカって言ったし、今度はかったりぃって!
「これだけ好きだって言ってんだから、もういいんじゃないかなって思わないわけ?再会してからまだそんな経ってないけど、いいじゃんもう。オレ、会ってからすぐ、ずっと好きだったってちゃんと言ったよね。その後も事あるごとにちょくちょく言ってたつもりだったけど。泉田先生の事にしたって、邪魔したのはリツの事好きだからじゃん。オレだって最初は牧先生の事知らなかったよ。だからただ素直にリツの邪魔したかっただけ。それで泉田先生にリツとの事相談したの。嫌な感じではあるだろうけど仕方なかったもん。しょうがない。また会ってからそんなに日が経ってないけど、それが何?好きなのかって聞いたら答えないくせに、キヨミの事気にして聞いてきたりとか、そんな思わせぶりばっか。はい、リツの家見えて来た~~」
あ~キヨミってやっぱり呼び捨てにしてる。
そういうのがチクっと胸に来るのも、私がハルちゃんの事を随分受け入れて来ている証拠だ。
家が近付いてきた。
「あの…送ってくれてあり…」
言い終わらないうちに、ちっ!と舌打ちされた。
今度は舌打ち!
「さっきの答えてないじゃん」とハルちゃんが言う。「もう1回だけ聞いてあげるから。リツはオレの事好きだよね?」
「…」どうしよう。「…うん」
「何でそんなに間を開けるの?」
「…わかんない」
「もう~~~~」




