それぞれの愛しさ 1
ハルちゃんが台所へ戻ってなにかゴトゴトやっている。残された私は気まずい。マキちゃんと泉田先生を交互にチラチラ見てしまう。
二人に質問したい事が山ほどあるが出来ない。
私が好きな泉田先生と泉田先生の好きなマキちゃん。マキちゃんは私が泉田先生に告った事を知っているし、マキちゃんも泉田先生も私がハルちゃんをその後すぐ家に泊めた事を知っているのだ。立場的にものすごく気まずい。さっきも妄想しかけた事バラされたし。
マキちゃんがテレビのリモコンをおもむろに取って、パチッと電源を入れてくれたので、私はちょっとほっとした。
しばらくして「リツ!」と台所から呼ばれる。
「運ぶの手伝って」
台所に行くとまた「リツ」と呼ばれる。
「何?」
「リツ」
「だから何って」
「何でもない」
じゃあ何で呼ぶ?不審な目で見てしまう。
「いや」とハルちゃんが言う。「リツがいるなと思って」
じっとハルちゃんを見つめてしまい、ハルちゃんも私を見つめる。
ダメだ!
こういうのダメだ。
よし、もうこんな機会ないし、マキちゃんとはこれからも友達でいたいし、このままハルちゃんを受け入れて付き合っていく気があるのか、ないのかよくわかんない感じのままの自分もどうしていいかわからないから、この際勇気を出してはっきり聞いてみよう…
ハルちゃんの作ってくれた天津丼をお盆に乗せて運ぶ。
「なんか新婚家庭に遊びに来たみたいだよ~~~~」マキちゃんが笑顔も見せずに棒読みに言う。
無言でマキちゃんと泉田先生の前に丼を置く。
4人そろってテーブルにつく。ハルちゃんは私の横に来た。
「お前すげぇのう」と泉田先生が丼を見て感嘆する。「こげな短けぇ時間でこがんなもんを作れるっちゅうんは」
「オレんとこ離婚してたんで母親が仕事で夜遅くなる事もあって、じいちゃんとこにいたんですけどばあちゃんにいろいろ教わって自分で作る事も多くて」
「いいね~」とマキちゃんも食べ始める。「けどイズミィも魚さばくのうまいよね」
なに?
「まぁなぁ~」泉田先生が顔をほころばせる。「島におったけん。親の手伝いでいろいろな」
…かっこいい~~魚をさばく泉田先生を想像する。
「ヤだな~~」ハルちゃんが顔をしかめた。「魚が上手にさばけるのと天津丼がちょっと作れるんだったら、だんぜん魚さばける方がかっこいいじゃないですか。オレも今度やってみよう」
「そがんことねぇわ」と謙遜してマキちゃんを見ながら笑う泉田先生がまたカッコいい。
「もう!」とハルちゃんが言う。「今絶対リツが、浅黒く日焼けした泉田先生が海パン姿で魚さばくとこ想像してますよ」
キャハハ、とマキちゃんが笑ったが、私はまさにその通りを妄想していて赤くなってしまう。私をじっと見つめるハルちゃんから目をそらした。
「ひどくないですか?泉田先生」ハルちゃんが泉田先生に振る。「オレの事、家に泊めといて、まだ振られた泉田先生の事考えてんですよ?」
「そんな事はねぇわ。なぁりっちゃん。わしの方こそ、その…悪かったと思うで、せっかくりっちゃんみてぇな可愛い子がわしなんかにあがん事言ってくれたのに」
ハハ、と私は情けない感じで笑うしかない。
聞いちゃおうかな。すごい勇気いるけど今しかないような気がするし…聞いてしまおう!
「泉田先生、この間は本当にあの…いろいろ失礼しました。泉田先生は」私はマキちゃんをチラッと見てから言った。「マキちゃんの事を好きなんだって聞きました。私知らなくて。それで今みんなでご飯食べてる時にこういうのを話したりするのって嫌な感じだと思うし、振られた私がこんな事聞くのも…何ていうか…マキちゃんのどんなとこが好きなんですか?すみませんどうしても聞きたくて。私…私もマキちゃんの事好きなんです。だから聞きたいんです、すみません」
「ほうか」
「私もリッチィ好きだよ!」マキちゃんが言う。
「ちゃかして邪魔しないでマキちゃん」
「いやいやいやいや」と泉田先生が声を張る。「そんなん牧の前で言わされるのもどうかと思うでぇ、りっちゃん、いきなりすげぇ事聞きおるなぁ」
「すみません。そうですよね。やっぱり止めときます。すみません、みんなでごはん食べる時に」
「ハルカ先生は?」マキちゃんが天津丼をほおばってもごもご言いながら聞いた。「具体的にリッチィのどこが好きで、15年も会ってなくてもずっと好きだと思えたの?」
「止めてマキちゃん!」慌てて言う。「ごめん。私が変な事先に聞いたけど。ごめん止めといて」
「ダメだよ」マキちゃんが淡々と言う。「言いなよ。ハルカ先生。今私たちの前で言いな。ふざけてたり、一時的に高まった気持ちでリッチィに近付いてきてるわけじゃないんでしょ」
「違いますよもちろん。オレはリツの…恥ずかしいな…」
「恥ずかしいの?」とマキちゃんが聞く。
「恥ずかしいです。でも言いますよ?」本当にハルちゃんが恥ずかしそうに続けた。「リツのその存在が好きです。リツが『いる』って事が。ずっと会ってなくてでも会いたくて、会うの怖くて。けど会ったら『やっぱリツだ』と思って。だからリツがいる所にオレも一緒にいたい」
場がしぃぃんとしてしまう。
うわ~~なんかもう…私が最初から泉田先生にあんな質問しなければ…
「…わしもなんよ」泉田先生がポツリと言った。
「え?」と私が聞いてしまう。
「わしも牧がな、むかし一緒にいてくれて、今もここにおるんが、それがもうな、嬉しい感じなんよ」




