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怖いのは 2

 なんか、すごく怖い。ハルちゃんの事がじゃない。ハルちゃんの事は相変わらず気持ち悪いと思うが、私がいろいろ迷っている間に、こういうふうに周りも巻き込んで、本当に私たち付き合ってます!みたいな感じにすっかりなっていこうとしてる感じが怖い。

 泉田先生も、私に告られた事なんか本当にもう、ただ嬉しかったで終わりなんだな?私なんかなんとも思ってなくて、本気でマキちゃんが好きなんだな?飲み会の時、エリカ先生のおっぱい食い入るように見てたけど、エリカ先生でもなく、もちろん私でもなく、マキちゃんだけが好きなんだな?



「あの、本当にごめん、ハルちゃん」私はもう一度言う。「せっかくだけど私は帰るから」

 そこでマキちゃんがつつっと泉田先生に近寄って耳打ちをした。

 何?何でコソコソ話?何をコソコソ話?なんか嫌だな。

 うんうん、と泉田先生がうなずき、マキちゃんに恐ろしく優しい顔でニッコリと笑いかけた。

 なに!

 「わしらが帰るわ」と泉田先生が言う。

 はぁ?マキちゃんと一緒にか?私を置いてか?

 「牧がな、せっかく付き合う事になったんじゃけん、二人きりにしてやろうやぁって言いよるけんな。ごめんな、わし気がきかんで」

マキちゃんが可愛らしい笑顔でニッコリと笑う。

 マキちゃんは悪魔だな。

 なんか…マキちゃんと泉田先生を二人で帰らせたくない!

「ダメ!」とっさに口をついて出た。「帰っちゃダメだよマキちゃん!泉田先生も。帰っちゃダメです!一緒に行きましょう!」




 ハルちゃん、2歩くらい後に私、そしてその少し後にマキちゃんと泉田先生でハルちゃんの家へと向かう。

 「ハルカ先生?」マキちゃんが言う。「私たちに遠慮しないでリッチィと手ぇつないだらいいんだよ?」

私は少し振り返ってマキちゃんを睨む。ハルちゃんは少し笑っただけで何も言わない。

「よし、」と泉田先生がおどけるように言った。「楠木たちも繋ぎやすいようにわしらも繋いでみるか?久しぶりに」

「いや、いい」とマキちゃんが即答した。「私ら付き合ってないじゃん」

 久しぶりに?久しぶりって、いつぶりの久しぶりなんだ?

 …なんか許せんなマキちゃん。

 泉田先生が手を繋ごうって言ってんのに。ありがたいと思わんのか。でもまぁ目の前で実際繋がれたりしても嫌だけど。



 ハルちゃんはただ前をスタスタと歩いて、私たちは塾からそう離れていない7階建ての茶色いマンションにたどり着く。

 ハルちゃんの部屋は4階だった。私たちはエレベーターを使って上がる。

「来た事あるの?」マキちゃんが聞く。

「ないよ」冷たく答える私だ。

 手を繋ぐのは嫌がったのに、なんとなく常に泉田先生とマキちゃんは隣り合って歩いている。エレベーターの中でもだ。イラっとする。

 ハルちゃんがドアを開け、私たちを順番に中に入れ最後に自分が中に入った。

「座っといてください。すぐ用意しますから」



 綺麗にしている。

 狭い台所とそれに続く板張りの居間も、特におしゃれなものが置かれているわけではないが、あまり余計なものがなくきちんと片付けられている。私の部屋より綺麗だ。その向こうにドアがあるのは寝室かな。

 居間には小さい黒いテーブルと二人掛けの青いソファ。

 二人掛けのソファを見てキヨミさんを思い出してしまった。

 キヨミさんはここに来た事あるのかな。二人きりでは会った事がないって言っていたし、きっとここをハルちゃんが借りたのもやまぶき塾で働き始める事が決まってからだから、まだ間がないし。

 でもあり得ないとはいえない。ここからそう遠くない実家には来てるんだから。本当はここにも来てこのソファに掛けたのかもしれない。いや、もしかしたらここにキヨミさんが寝転がって…



 ソファにマキちゃんが腰をおろし、当たり前のようにその隣に泉田先生が腰を下ろした。

「もう!」とマキちゃんがなじる。「イズミィは下でいいじゃん。ここリッチィが来るから床に移動して」

「いいよマキちゃん!」何言ってんだマキちゃん。

泉田先生を好きだのどうのの前に、まず私には職場の先輩だから。

「泉田先生そのままでどうぞ!」

 私は床に落ちていたクッションを取って、そこに腰を下ろす。

 手際良くハルちゃんがすぐにオレンジジュースを運んで来てくれた。



 「嘘みたいだな」とハルちゃんが私を見降ろして言う。「オレの部屋にリツがいる」

「「「…」」」私もマキちゃんも泉田先生も動作をピタリと止めた。

「やっぱ帰ろうか?すぐ押し倒しちゃいなよ」マキちゃんがハルちゃんに言う。

ハハハ、とハルちゃんは笑うが私は全然面白くない。

 「いや、マジ二人きりだったらヤバいです牧先生たち来てくれて良かった」ハルちゃんが言う。「だってオレんちにリツが来てるんだもん」

「だもんて」と私は冷めた口調で言う。「ハルちゃんが待ち伏せしてて寄らしたんじゃん」

「ヤだな、その言い方。無理矢理連れてこられた、みたいな」

「どうしたのハルカ先生」マキちゃんが不審がる。「来る前も気持ち悪かったけどさ、なんか変な感じのテンションになってるよ。リッチィがいて嬉しいのはわかるけど。そのわりには来る時手を繋げって言っても繋がないし」

「…いや、なんか…」

「なになに?」マキちゃんが言う。「言いたそうじゃん、言っちゃいなって」

「…いや…リツが泉田先生と牧先生の事でイラっとしたり、ムカっとしたり、せつなくなってんのがもうすごく伝わってきて、オレはそれがくやしいっちゃあ、くやしいんですけど、でもそんなリツを見てるとまたそれですごく胸がズクズクして嬉しいって言うか…あんな時手とか繋いだらマズいっていうか…」

 気持ち悪っ!!、と顔をしかめる私。



 「思ってた以上に気持ち悪いんだね」マキちゃんも顔をしかめる。「リッチィ大丈夫かな。ハルカ先生本当に見た目で助かってるよね。イズミィ真似しちゃダメだよ。あんたがこんな事言ったら速攻通報されるよ」

「ほんま楠木はちっとばかし変態じゃのう」と泉田先生も言った。

 …でも私、泉田先生だったらちょっと変態気味でも受け付けられると思うけど…

「リツ!」とハルちゃんが言う。「今まさにオレが言った事を泉田先生に言われてるバージョンで妄想してたよね?」

妄想しかけてた!!

 ふるふると首を振って見せたが確かに今私はその通り、妄想しそうになってた。

 ハルちゃんが苦笑してマキちゃんに言った。「ほらね?こういう所とか」




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