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眩しさに重たいまぶたをこじ開けられる。
どうやらカーテンが閉めきれていなかったらしい、その隙間からちょうどヤトの顔へ光が射し込んでいる。
「またこの夢か」
今月になって既に3度目にもなる同じ夢に、辟易としながらベッドから体を起こし、のびをする。
夢のせいだろう、全身汗で濡れている。
枕元の時計を見るといつもより起きるのが早かったらしく、登校する時間にはまだ余裕がある。
ヤトは立ち上がりとりあえず汗を流すためシャワーを浴びに風呂場へ行った。
シャワーを済ませると制服に着替え、キッチンでいつも通り鍋に水を張りお湯を沸かす。
今日もまた、朝食はカップ麺だ。
一人暮らしを始めて早2年、軽い料理くらいならできるのだが、朝から作るのも面倒だし、カップ麺で十分空腹は満たせるので特に文句はない。
麺をすする音だけが部屋に響き渡る。
この家には、テレビもなければ家具もほとんどなく、生活感などほとんどない。
朝食を終えると歯を磨き、身だしなみを整える。
すっかり習慣になってしまった登校までの準備を一通り終え、再び時計を確認するとちょうどいい時間だった。
靴を履きドアを開けると外はとても良い天気のようだ、9月になったにもかかわらず、まだまだ暑い。
鍵を締めてから、上着を着てきたことを後悔しつつも、再度鍵を開け閉めするのが億劫でそのまま歩き出した。
学校は家から近く徒歩10分圏内で、登校はいつも徒歩である。
彼が通うのは日本中央魔術学園、その名の通り魔法を専門的に扱っている学園だ。
ヤトはその学園の高等部2年に籍をおいている。
しばらく、歩き慣れた道のりを進むと校門に到着した。
門をくぐり校内への入口へ向かう途中そこかしこから視線を感じる。
こそこそとこっちを向いて何か話している者もいる。
その視線には、好意を抱くもの、嫌悪感を孕んだもの、畏怖を感じているものと様々だ。
いつもなら特に気にしなかった、この視線もまた日常茶飯事なのである。
しかし今日はあの夢のせいで少し寝不足気味だ、視線に苛立ちを感じる。
ヤトは立ち止まると、足に魔力を込め軽く地面を蹴った。
黒い魔力の炎が一瞬だけ現れる。
彼の教室は2階である、そのくらいの高さならたやすい。
軽々と飛び上がり自らの教室のベランダに着地する、その行為にまたもや色めき立つ奴もいた。
その視線から逃れるように教室に入るやすぐ、自分の席につく。
そして机に顔を突っ伏し、制服の上着をかぶり寝る体勢に入る。
道中は暑かったが、上着を着てきて良かったと考えつつ寝入った。
しばらくすると「はーい、ホームルーム始めまーす」と妙に間延びした声で若い女の教師が入って来た。
彼女はこのクラス2‐Aの担任である。
担任は簡単に朝の挨拶をすると、お知らせがあると皆に告げた。
しかしヤトは寝ていてこの時のことをまったく知らなかった。
「今日は、てんこーせーを紹介しまーす」
例によって特徴的な声で教師が告げると、教室中がざわめきだった。
「女か! 女なのか!?」
「きっと素敵な王子様よ」
男女が好き勝手にその転校生の姿を想像し浮かれた声を漏らす。
「入っておいでー」
教師がドアに向かって声をかけると、ガラガラという音とと共に転校生が入って来た。
すると先ほどより一段と大きな声で騒ぎ出した。
「うお! ハンパねぇな」
「やっべレベル高けー!」
騒ぎ出したのは、男子だけで女子は逆に静まり返る。
なぜなら入ってきたのは、女の子だったからだ。
なおも、ガヤガヤとしている生徒たちに担任が、「お口にチャックしてね~」などと静かにするように促しそして転校生に自己紹介をするように告げた。
転校生は頷き一歩前に出ると、緊張した感じだったが、それでも教室にいる(寝ている一人を除いて)全員に聞こえる大きさで
「満月奏音です。これからよろしくお願いします」
と短いが笑顔で元気に言った。
そんな彼女を見て教室は再び喧騒で埋め尽くされる。
男子は既に、容姿について意見を交わし始め、そんな男子に女子が厳しい言葉を投げかけている。
しかしそれもつかの間、教師の告げた言葉に一同が黙った。
「じゃあ、満月さんの席はあそこねー」
そうして示された先にあるのは、一番窓際の後ろから二番目の席
その席の後ろつまり一番後ろの席には、教室が静まり返った理由が……寝ていた。
「おいおい、いきなり火守の前かよ」
「可愛そうじゃん、俺の隣きなよ」
「センセー席変えたげなよ」
などと、生徒達は口々に言う。
「だ、大丈夫だよ」
と必死に取り繕うが教師もいつもの語調が崩れてしまっている。
そう、既にほとんどの生徒と教師は彼の気難しさと人間嫌いを知っているのである。
そういうところが女子にはクールだと捉えられ少なからず彼に好意を抱いているのも確かだ。
しかしそんな人間の前に、転校生でしかも女の子を晒すなんて、何が起こるか分かったものではない。
生徒からのブーイングを浴びせられた教壇の上の女性は、責任から逃れるようにホームルームの終わりを告げそそくさと、教室を出て行ってしまう。
何も知らぬ転校生は、きょとんとした顔で、その席に向かうのであった――
ホームルームが終わり1限目が始まるまでの休憩時間、ヤトは未だに熟睡していた。
そんな、彼の睡眠を妨げるかのように体を揺するものがいた。
その行為に、思い思いの休憩をとっていた周りの生徒は凍りついた。
彼の体を揺すっているのは例の転校生の女の子、満月奏音だ。
隣の席の女子がそれに気付くと血相を変えて「その人は起こしちゃダメ!」と慌てて止めるもやめはしない。
他の生徒も「何してるんだやめさせろ!」
「うわーやばいよあれ」と何やら焦っているようだ。
彼らはみな知っているのだ、ヤトが寝ているところを邪魔されるのを非常に嫌うことを
そして起こしたものがその後どういう結末にたどり着くかも。
しかし転校生は周りのことなど意に介さず、寝ているそれを揺すり続ける。
ついには、かぶっている制服を少し開け「ねぇ、起きて」と声をかけ始める次第である。
そんな怒れる暴君を目覚めさせようとしている奏音に、はじめは忠告をしていた生徒たちだったが
自分にまで被害が及ぶのを恐れ教室から避難し始めている――




